ゴール設定

1.「徒手療法におけるゴール設定」 シリーズ5の1作目です。

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クリニカルリーズニングシリーズ5徒手療法におけるゴール設定ゴール設定の考え方自体は、徒手療法に限定されるような内容ではないと思いますが、本シリーズでは、主に痛み治療における「徒手療法を用いた介入を想定してのゴール設定」についてを主な内容として解説していきたいと思います。

「徒手療法におけるゴール設定」1作目の記事です。

 

「徒手療法を用いて治療を行う上でのゴール設定」というのは、治療の経過や患者との置かれている状況・関係性によって変わるものだと思います。また、各々のセラピストの考え方によっても変わってくるものだと思います。

例えば、セラピストが、患者の抱えている問題(腰痛がある事に不満を感じているなど)に対して、

「この問題がゼロになるまで介入するのがセラピストのあるべき姿だ」
「患者が希望しているうちはずっと治療関係を続けるべきだ」
「日常生活上の問題がないのであれば、病院に通うべきではない」
「痛みの対処法さえ身につければ後は自己管理の方向にもっていく方がよい」

など、セラピストの価値や信念に大きな影響を受けます。また、患者の病態によっても大きく異なります。

「完全な治癒を予測でき、元の生活(活動)状況に戻れる」
「重度の退行変性疾患によって治癒そのものが難しいと考えられる」

もちろん患者の考え方によっても変わってきます。

「痛みがゼロになるまで気がすまない」
「痛みによって制限されていた活動ができるようになれば、とりあえずは良い」

これだけではありません。例えば、症状が十分に改善した後に出てくる心理的な要素も加味します。

「痛みは無くなったものの、再発する事を考えると不安でたまらない」

といったものが典型的なものだと思います。

これらは、例でいくつかを出しましたが、その他にも色々な要素が絡み合うので、それがゴール設定というのを難しくしてしまっているものと思われます。

外来診療でゴール設定をあまり意識していない方は、患者が来なくなって初めて治療関係が終了となる方や、リハビリ期限である150日を治療関係の最終日としている方(意識的にでも、無意識的にでも)が多いのではないでしょうか?

(私自身は、治療関係を終了させるという事は理学療法士側が能動的であるべきだと思っています。)

基本的には、ゴール設定は徒手療法に限らず、セラピスト側も治療開始時点で明確に「どうなったら治療が集結する」という事はなかなか言えません。そして、治療の経過を振り返りながら「こうなったらゴールととらえていいだろう」となっていく事の方が多いと思います。

ですので、単純にゴール設定といっても、時間軸を意識してみると、その内容や具体性というものが変化していきます。

徒手療法におけるゴール設定についての臨床推論(クリニカルリーズニング)を解説していくなかで、ここでは、治療の経過という時間軸を考慮して解説していき、先ほど挙げた患者像やセラピストの考え方については、その時期に対する小分類として解説していきたいと思います。

 

前置きが長くなりましたが、シリーズ5「徒手療法におけるゴール設定」1作目の記事では、治療開始時の段階でのゴール設定についてです。

この治療開始時については、明確なゴール設定というよりも、患者と理学療法士(セラピスト)が二人で共有できる「目指している所」がある程度、作れればいいものと思っています。

ここで、重要になると私自身が思うのは、冒頭で挙げた理学療法士自身の考え方を明確に患者に伝える事だと思います。

「この問題がゼロになるまで介入するのがセラピストのあるべき姿だ」
「患者が希望しているうちはずっと治療関係を続けるべきだ」
「日常生活上の問題がないのであれば、病院に通うべきではない」
「痛みの対処法さえ身につければ後は自己管理の方向にもっていく方がよい」

いくつかの考え方を例に出しましたが、理学療法士自身が持っている考え方があるのであれば、しっかりと最初で伝えておくべきです。

4つのうちの上の2つは、患者側もそのように思っている事が多いので、このような考え方の理学療法士は、最初のゴール設定に関わるようなコミュニケーションをとらない傾向にあるかと思います。

もしこの領域についてのやりとりがあるとするならば、「治るように頑張りましょう」「今よりも良くなるように取り組みましょう」というような内容が多いかと思います。

しかし、下の2つの場合は、この最初の場面で、理学療法士側の考え方をしっかりと示しておかなければ、後から患者との「考え方」のずれがある事に気づく可能性が高く、それを修正するのに余計なやり取りを行う事になってしまいかねません。

上の2つが患者にとっては特に意識はしていない「当たり前の事」のようものです。私自身は、「結果的に痛みがゼロになる可能性はあるが、痛みをゼロにするまで治療を永遠に続ける」という事には疑問を持っています。

以前の記事でも触れましたが、痛みというのは未だ解明されていません。

また、日常的に誰でも感じえるものです。しかし、一度辛い痛みを経験してしまうと日常的に感じ得る痛みについても「治療しないと大変な事になる」という思いを持ってしまう患者は多いように感じます。

これを理学療法士が「絶対に治してやる精神」で中途半端な関わり方をしてしまい、痛みは治療開始当初から明らかに改善しているのに、その時よりも精神的に不健康になってしまっている方々を沢山みてきました。

本人も良くなっている事を実感していながら、それでも精神的には不健康になってしまう可能性があるのが、徒手療法(リハビリテーション全体でも言えると思います)の危険性であり、徒手療法におけるゴール設定の難しさの1つだと思っています。

「痛みがある事」と、「痛みがまた襲ってくるかもしれないという不安」とを分離するのはなかなか難しく、最初の場面でのこの問題が起きる可能性について事前に対処しておく必要があるのが、「日常生活上の問題がないのであれば、病院に通うべきではない」「痛みの対処法さえ身につければ後は自己管理の方向にもっていく方がよい」のような考え方を持っている理学療法士だと思います。

患者が治療したいと思っているのは何なのか(セラピストに何を求めているのか)を明確にした上で、この問題にどのように対処していくのかという事についてある程度の方向性を示すゴール設定(のようなもの)を行っておく必要があると言えます。

どのように対処するかというのが、理学療法士側が持っている考え方(価値・信念)です。

 

日常生活上の痛みを改善したいと思っている患者の場合

「あなたは○○ができないという事で病院に治療を受けに来たのですね。では、○○ができるようになれば治療へ通う必要はなくなりますね?」

 

日常生活上の制限はないが、痛みや違和感がある事を不満に感じている場合

「日常生活上は問題ないようですが、この痛みや違和感というものを感じるのはどういった時でしょうか?○○の状況で痛みや違和感を感じなくなると病院へ通う必要はなくなりそうですか?」

 

患者自身がゴール設定自体を意識していない場合

セラピストの考えを伝えた上で、

「○○のようになれれば、もう病院へ通う必要がなくなると思うのですが如何でしょうか?」

患者の向かう方向はセラピストが勝手に決めるものではありませんので、基本的にはゴール設定を行う際には質問という形で提案をします。

上記に挙げた例で共通するのは、治療開始前から、治療終結が何なのかについて話しているところです。

治療が始まる前に、終結する事を意識して介入がスタートします。具体的にできる範囲で問題ないと思いますが、集結を意識しないで治療を開始してしまうと、後々設定するであろう明確なゴールについての話し合いがやりにくくなる事と、患者によっては治療が永遠に続く事を望む場合が出てきます。

 

あなたが○○という状態になれれば、もう病院へ通う必要はなくなると思うのですが、如何でしょうか?

これは、初期段階で、最終ゴールについて可能な限り明確にするフレーズだと思っています。

これは、以前の記事でも解説した「よく形成されたゴール設定」にも共通する部分です。

ここで、解説しているのは厳密にはゴール設定ではないかもしれませんが、ゴールがどのようなものかをある程度患者と共有し、治療終結を意識した上で治療関係をスタートさせる事に意義があります。

このやりとりは、セラピストの考えている事を伝えやすい場面となり、このタイミングを逃すと、「いつの間にか何となく治療関係が続いている」という状態を作りかねません。

セラピストの考え方自体は、それぞれだと思いますが、しっかりと、この場面で伝えておく事をお勧めします(「考えを押し付ける」という意味ではありません)。

 

ここでの最終目標的な意味合いを含んだ方向性についてはここまで解説した通りですが、治療関係そのものに関する目標はまだ立てられていません。

今置かれている状況としては、患者の症状と障害像(どういった症状で何ができない事に困っていて、それがどうなると治療終結なのか?について)は共有できています。しかし、何が1番良い治療方法かは分かっていません。つまり具体的な行動(治療行為)が不明確なままです。

ここからは私の場合に限られますが、

「適切な治療方法を探すために一緒に取り組みましょう」というのが治療開始時の目標設定の1つになっています。

効果的な治療を行うためには、検査と試験的な治療、そして評価というものが重要になってきます。
以前の記事でも解説した「適刺激を探す」という事をまずは一緒に行っていき、「適刺激を見つける」のが、まずの目標である事も伝えます

これについては、過去記事でも解説しましたので、合わせて読んでいただけたらと思います。

「適刺激を探す・見つける」というのは、セラピストの行動についての説明になると思います。そして、これに同意してもらうという形で、これから進む方向が決定されます。

途中まで解説してきた事と合わせると、理学療法士としての「考え方」と「今からとる行動」についの説明と同意を得るという事が、治療関係が始まる前〜初期段階のゴール設定だと思います。

以上で、「徒手療法におけるゴール設定」の1作目の記事を終えたいと思います。最後まで読んで頂きありがとうございました。

次の記事→ 2.早い段階で徒手療法が功を奏した場合のゴール設定

 

 

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