「オープンクエスチョン」と「クローズドクエスチョン」これは質問を、質問に対する返答の違いで分類したものです。
オープンクエスチョンとは返答者が自由に答えられるような質問の仕方で、クローズドクエスチョンは返答者がイエスかノーで返答できたり、ある制限の中で答えなければならない質問の仕方です。
「どういった症状がありますか?」これは、オープンクエスチョンです。
「腰に痛みがありますか?」これは、クローズドクエスチョンに当てはまります。
よく言われている事は、オープンクエスチョンは返答者の考えを聞き出しやすく、会話が続きやすい。クローズドクエスチョンは、「はい」か「いいえ」での返答なので、考えを聞き出す事は難しく、会話がその場で終了しやすいと言われたりします。
マニュアルセラピーに関する書籍の「問診」について解説しているものや講習会での説明などでは、まずはオープンクエスチョンで、ある程度症状を聞き出しそこからクローズドクエスチョンで確認をとっていく事が望ましいといった趣旨の説明がなされる事があります。
この事について、今まで記事にしてきた事(シリーズ3「問診」)と合わせて勝手ながら解説を加えたいと思います。
シリーズ3の1作目の記事「問診で具体的に聴く技術 省略について」から順に読まれることをお勧めします。
問診場面でのオープンクエスチョンの特徴
まず、オープンクエスチョンについてですが、単純なオープンクエスチョンは、患者側が話す内容を自由に決めれるので、セラピスト側が質問を考えるという負担はほとんどなく、答える方も何度も質問を繰り返される事がないので「尋問されているような感じ」を受けません。
しかし、オープンクエスチョンでの回答の自由度の高さが、話される内容がセラピストが聞きたかった事(メインテーマ)からそれてしまう可能性があります。また自由度の高さゆえに回答者が何を(もしくは、何から)話していいのかわからなくなる事もあります。
これらは、前記事で解説したアジェンダの設定をしっかり行えていれば、話が大きくメインテーマからそれる事と、何を話していいかわらないという両極にある二つを未然に防ぐ事ができます。(「アジェンダの設定」)
また、ちょっとした工夫をする事により、自由度の高さをセラピスト側がコントロールする事ができます。
例えば、
「あなたの症状を教えて下さい。」(オープンクエスチョンです)
この質問に続けて、「例えば、腰骨のあたりが痛いといったような(腸骨あたりをセラピスト自身の身体を触りながら)事はありますか?」(クローズドクエスチョンです)
付け加えた質問は、クローズドクエスチョンになっていますが、イエスノーで答えてもらう事を意図していません。先のオープンクエスチョンに対して、どういった回答が適切かを無意識的に伝えています。そして、「例えば・・・、○○といったような…」という表現をする事によって、単なるクローズドクエスチョンではない表現の仕方をしています。
また、この関係は順番入れ替える事も可能です。
「例えば、腰骨のあたりが痛む(腸骨あたりをセラピスト自身の身体を触りながら)事はありますか?」(クローズドクエスチョンです)
この質問に続けて、返答を待たずに「どういった症状がありますか?」(オープンクエスチョンです)
とする事もできます。
先のクローズドクエスチョンが、後のオープンクエスチョンの布石となって、セラピストがどういった情報が欲しいのかを伝えています。
この質問において、だいたいの場合で、患者は疼痛部位についての情報を教えてくれるはずです。
布石のクローズドクエスチョンが、「どうすると痛いか(疼痛誘発動作について)」を聞いておけば、後のオープンクエスチョンは、疼痛誘発動作について教えてくれます。
このオープンクエスチョンの自由度の高さを、前後のクローズドクエスチョンによってコントロールする事ができます。
そして、患者から発信された情報の省略されている部分を上手く復元させながら情報の価値を高めていきます。(「問診で具体的に聴く技術 省略について」)
そして、ここで聞き出せた事を、もう一度クローズドクエスチョンによってイエスノーで返答させ、最終確認をとる事で確かな情報として解釈する事の価値ができます。
確認のクローズドクエスチョンはより具体的でなければ意味がありません。セラピストが把握している事と、患者が伝えようとした事にずれはありませんね?とクローズドクエスチョンによって確認をとって、このやりとりを一旦終了とする事ができます。
ここまでは、先に挙げた講習会で言われるような事やテキストに書かれているような事に私が勝手に解説を加えたものです。
しかし、別の方向から見たとき、例えば「セラピスト自身が成長していくために」という事を考えた場合、ひたすらクローズドクエスチョンを繰り返す必要があると思っています。
腰に痛みがあるという患者に対して、
- 「膝より下にしびれを伴いますか?」
- 「腰より脚の症状が強いですか?」
- 「朝は特に痛みが強いですか?」
- 「立っている時より座っている時が辛いですか?」
などです。
単純に質問攻めをしろという意味ではありません。これらの例に挙げた質問は、椎間板ヘルニアを疑う際に確認しておくべき事(記事のテーマ上、なぜこの質問かはここでは解説できませんです。いずれ、適切と思われるテーマの記事で解説させて頂きます)です。
これらの質問に対して、ルール通りに答えてもらえた場合は、セラピストが聞きたい事について、シンプルに情報収集を行うことができます。
この質問の仕方を連発してしまうと、患者は尋問されているような気になってしまいそうですが、セラピストが今後成長していくという事を考えた場合は、ある仮説を証明するために聞いておくべき事を、漏らす事なく聞いておくべきです。
(仮説を証明するために聞いておくべきべき質問については、セラピスト側が事前に準備できていなければなりません。)
クローズドクエスチョンなら、知りたい情報を一つづつ確認をとることで、一応は漏れなく情報を得る事ができます。しかし、同じような事をオープンクエスチョンで得ようとするなら、セラピスト側からの確認をする事なく、先ほど挙げたような「膝下にしびれを伴うか?」、「腰より脚の症状が強そうか?」、「特に朝の時間帯に痛みが強いか?」といった事の返答になるようにオープンクエスチョンの自由度をコントロールしながら情報を得なければならず、多くの漏れを出す可能性があります。
この場合、一つの仮説(ここでは椎間板ヘルニアについての質問)についての質問を仮定していますが、臨床では、あらゆる次元の情報をできるだけ効率的にかつ、確からしい情報として得たいはずです。
経験豊富なセラピストは、オープンクエスチョンを高度な技術で、自由度をコントロールしながら多次元の情報を得ています。
ですので、クローズドクエスチョンを連発する問診スタイルの将来には、それらの情報がオープンクエスチョンで聴けるようになるという目標の基に行われなければなりません。
文字で伝える事は承知の上で、上手く表現できているかはわかりませんが一つの例として示させて頂きます。
現在の症状を把握するために聴く問診を行いながら、同時に症状の原因を探る事を目的に椎間板ヘルニアによる神経学的異常と、(構造障害ではなく)体性機能異常・機能不全による症状や関連痛などの可能性も考慮した質問を、一つずつクローズドクエスチョンによって聴いていくという事を考えてみると、現実的に不可能です。
患者も答える事に疲れてしまい、返答の内容の正確性が失われてしまいます。
ですので、これらが達成できるように、まずは一つ一つ確認すべき質問事項を分けて、冗長になりすぎないように注意しながらクローズドクエスチョンで確実に確認を行っていき、そして統合できる質問は整理していくことで、問診に関する多くの経験を蓄積した後に、工夫されたオープンクエスチョンを行えるようになる事が重要だと思っています。
単純なオープンクエスチョンは誰にでもできますが、工夫されたオープンクエスチョンは、その領域での経験を積まれたセラピストにしかできない技術の1つだと思います。問診票の穴うめや項目にチェックをつけるような問診では、その後のクリニカルリーズニングを価値あるものとする事が難しくなってしまうと思います。
勝手な意見になるとは思いますが、工夫されたオープンクエスチョンを意識しながら、まずは聞くべき事について徹底的にクローズドクエスチョンで質問していくという事をお勧めします。
オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンについて、勝手ながら解説をさせて頂きました。最後まで読んで頂きありがとうございました。