今回は、下肢骨盤帯の運動制限パターンを解説していきます。
前回(3)、前々回(2)の記事では上肢と下肢の運動制限の出方で分けるようにパターンを示しましたが、今回の記事で解説している下肢骨盤帯の運動制限パターンは、左回旋もしくは右回旋の骨盤帯の制限パターンをみています。
これについても、今ままで解説している制限パターンと関連性があるものなので、興味のある人は同シリーズの過去記事も合わせて読んで頂けたらと思います。
腰痛患者の下肢・骨盤帯の運動制限パターン「骨盤の左右回旋」
患者像
機能的な腰痛で、明らかな神経学的所見などは陰性。腰痛は、片側性でも両側性でも構わないが、しっかりと症状を聴取すると左右差が存在する場合が多い。下肢の症状に関してもあってもなくても構わない。
典型的な患者像としては、長時間の座位姿勢や持続座位からの立ち上がり、歩き始めの腰痛など運動開始時の痛みを訴える場合(A)と、立位姿勢の持続や、歩行継続などの荷重位の持続で症状が増してくる場合(B)があります。
(A)の場合と(B)の場合では、関連しているその他のパターンが逆になる。
これまでの記事との関連性を理解しやすくために、片側性もしくは、明らかな左右差のある腰痛患者(ここでは右側に強い腰痛患者を想定)で、考えてみます。
(A)の場合では、右側の肩屈曲制限、肩外転制限、右股関節屈曲制限がみられる場合が多く、骨盤帯の回旋制限は右回旋で陽性となる傾向にあります。
(B)の場合では、右側の肩屈曲制限、肩外転制限、左側の股関節内転・内旋制限のパターンが多く、骨盤帯の回旋制限については、(A)の場合と同様に右回旋で陽性となります。
つまり、骨盤帯の右回旋で運動制限がみられる患者の解釈としては、右側に出る股関節屈曲制限に関連する運動制限パターンと、左側に出る股関節内転・内旋制限に関連する運動制限パターンと関連している事になります。
逆に左回旋で運動制限がみられる患者の解釈は、左側に出る股関節屈曲制限に関連する運動制限パターンと、右側に出る股関節内転・内旋制限に関連する運動制限パターンが出現する場合が多くあり、これまでの四肢の運動制限などとの高い関連性がある事が分かります。
ここで説明したパターンの通りに制限が出現している場合は、回旋の方向性をそれほど考慮しなくても、これまでに解説した記事2と記事3の介入を行う事で運動制限は改善される場合が多いです。
逆に、ここで説明した内容とは逆のパターンで出ている場合は、骨盤の回旋制限についても介入を考慮するべきと考えています。
つまり、右回旋制限を示す患者で、
右側の肩関節の制限が出ていて、
- 右股関節の屈曲制限(もしくは外転・外旋制限)が出ている場合や、
- 左股関節の内転・内旋制限が出ている場合は、回旋に対する治療は考慮せず、
上記に当てはまらない場合には、回旋制限への介入を考慮する事となります。
これまでに解説した他の運動制限の出方と照らし合わせて回旋方向への介入を検討していく事になります。
赤枠内で示した患者像に当てはまる人に以下の運動検査を行ってみて、ここで解説しているような陽性所見・運動制限パターンがあるかをチェックしてみて下さい。
検査所見(運動検査)
- 背臥位膝立て位からの骨盤左右回旋
左右差のある制限や制限感が出現していないかを確認していきます。
※機能的な運動検査の所見は、評価の過程で、患者としっかりとコミュニケーションをとりながら軽微な左右差を確認していきます。患者の主観的な反応を解釈する努力を療法士ができているかが臨床結果を大きく左右します。この点について当記事では触れませんが、過去のクリニカルリーズニングシリーズで解説済みとして話を進めます。
両膝立て位からの骨盤左右回旋
関節の構造的な問題であれば著名な左右差が起こりうりますが、ここで確認したい事は機能的な制限パターンです。多くの場合で、患者自身が「微妙な左右差の存在をチェックしよう」という意思がなければ見逃されてしまいます。
陰性(左右差なし)であるなら、「確実に陰性(左右差なし)であるという事が言えるか」を注意しながら、両側の下肢を片側に傾斜させていきながら骨盤の回旋を評価して制限や制限感が存在しないかをチェックしてみて下さい。
上記所見陽性患者に対する治療手技
治療刺激を入れる方法については、背臥位膝立て位から右側への傾斜(右回旋)に制限をきたした時の方法を示しています。左回旋に制限が出ている患者の場合は、写真で示した治療方向が治療1・2ともに逆になります。
背臥位:水平方向の治療1(右側への介入)
背臥位:水平方向の治療2(左側への介入)
縦方向への治療と回旋方向への治療を組み合わせる
ここで示した治療の方法は、回旋がより制限されている方向から制限がない方向への、横方向への「筋膜の滑走を促すような物理的刺激」を加える方法です。
これまでに紹介した治療方向(記事2,3)は、縦方向でした。
縦方向の治療法が決まっていて、そこに回旋要素も加えようと考えた場合、物理的刺激を合体させる事ができます。
つまり、右側の肩関節と股関節に屈曲制限(記事2)がみられている状態で、回旋制限の有無をチェックした場合、右回旋に制限が出ているとします。
縦方向の治療で、腹直筋外縁を上方へリリースする方法を紹介していますが、回旋要素も考慮すると横方向への治療が加わります。
縦方向の治療と横方向の治療を合体させると下写真のような方向へ物理的刺激を入れる事ができます。
他セミナーで使用したスライドの写真なので、ここで説明していない表記がありますが、それについては無視して結構です。
文中のテキスト説明と、スライド内の写真(左側)の矢印(白→)方向を、縦方向と横方向を合体させた治療方向と解釈して下さい。
記載している内容について
ここで解説している内容は、サイト運営者である私自身が実際に臨床を通して治療効果を得られた治療手技の一部をブログ用に記事にしています。
記事内のテキストと、写真(グレー枠内)に解説を加えているテキストに多少の違いがありますが、これはセミナー用の資料として制作したものを転載しているためです。ここで説明していない用語(検査所見)については、特に気にせずに読んで頂けたらと思います。
ここで解説している事は単純な方法論のみの解説のように見えますが、あくまでも当サイトのコンテンツの一部にすぎません。メインコンテンツである「クリニカルリーズニングシリーズ」の他記事と合わせて読んで頂けたら、どのように臨床に取り組んでいるのかを多少なりとイメージできると思います。
「4.非特異的腰痛の評価」まとめ
ここまで解説してきた当シリーズ内の記事とも関連していて運動制限のパターンを解説しました。
日頃の臨床を通して私が感じる、「腰痛が増悪する生活動作」には大きく二つのパターンがあります。この二つは、冒頭で挙げた、長時間の座位姿勢や持続座位からの立ち上がり、歩き始めの腰痛など運動開始時の痛みを訴えるパターン(A)と、立位姿勢の持続や、歩行継続などの荷重位の持続で症状が増してくるパターン(B)です。
これらは個々の問題としてスタートしますが、片側にパターン(A)を呈して、経過とともに反対側にパターン(B)を呈する患者がいます。
今までの記事で解説した運動検査は、これらを個別にみようとしていますが、骨盤の回旋では、片側に出たパターン(A)と反対側に出たパターン(B)を同時に見ようとしているものだと思っています。
ここで、紹介している運動制限のパターンは、絶対的なものではなく、私自身が臨床で患者の治療をすすめていくなかで、運動の制限パターンがないかを多くの症例の評価を通して診て来たものです。
他の記事の評価と治療と照らし合わせながら患者の評価方法の参考にして頂けたらと思います。もちろん、前回・前々回記事同様「腰痛患者全例で使える魔術のような治療テクニック」ではない事をご理解頂けたらと思います。