今までの記事では、コンパラブルサインを用いての、試験的な治療による効果の有無を確認する手順を説明してきました。また、微妙な変化を読み取る際の患者からの適切なフォードバックがもらえるようオリエンテーションの重要性についても触れました。
しかし、微妙な変化を読み取ろうとする際にコンパラブルサインの変化だけを頼りにすると、多くの変化に気づけずに間違った効果判定をしてしまいます。その対策について説明していきます。
効果判定のための準備
例えば、前屈動作で腰痛を再現させる事ができた(コンパラブルサインが陽性)場合、以前の記事では、コンパラブルサインをプレ・ポストテストに使用し、試験的な治療の効果判定をしていくという事を書きましたが、その前にやっておくべき事があります。それは、
- 背臥位で両膝を抱えて持つ動きでも痛むか?
- 座位で足元を触るように前屈ができるか?
- 長座位で体前屈でも痛むか?
(立位からの前屈動作の最終域で腰痛を再現できた、という場合を例にしています。)
など、腰椎を屈曲させる動作としては類似しているが、条件設定が異なるような動作をいくつか確認しておくという事です。
腰椎の屈曲がそもそも腰痛と関係しているかと聞かれると、現時点でその根拠は「立位での前屈運動で腰痛を再現でき、その前屈運動は腰椎を屈曲させる運動だから」という、かなりざっくりしたものでしかありませんが、同様の痛みが出そうな動作をいくつか確認しておき、これで痛みを再現することができれば、試験的な治療後の効果判定の道具になります。
注意してほしいのは、この場合は特定の組織や原因部位を探していく作業の説明をしようとしているのでははありません。試験的な治療後のコンパラブルサインの変化をみる際、変化がはっきりしない場合には他の疼痛動作で確認できるようにしておこうとしているのです。
コンパラブルサイン陽生をヒントに類似した動作をチェックすれば疼痛動作を抽出しやすいはずです。ですので、運動学的に特徴が類似している幾つかの動作を確認しておき、これで疼痛が出現するならコンパラブルサインの変化がはっきりわかりづらい時に、この時の動作も合わせてチェックする事ができます。
変化を読み取る際に、たった1つの動作で得られる情報は偶然に起きたものである可能性がありますが、これを複数の動作で確認できると、自身の判断の確からしさを確立する事ができます。(疼痛動作のパターンから原因部位を探していく作業も必要ですが、それについては以後の記事で解説予定です。)
効果判定に用いるテストは本来であれば検査そのものの信頼性や妥当性が問われますが、クイックテストそのものが各々の患者で異なり個別性が高くなりますので、科学的に信頼性・妥当性を証明する事は困難です。そこで、いくつかのテストを準備する事で、その部分を補うのです。また天井効果・床下効果を考慮した場合、測定尺度の幅を持たせる意味でも動作の難易度を考慮した項目を設定できている事が望ましいと思われます。
つまり、ここでは、プレポストテストの結果を多角的にみる(トライアンギュレーションといいます。)為の準備をしようという事です。先ほど挙げた例は動作レベルでの類似要素でしたが、これを運動検査に当てはめて考えると腰椎や股関節を屈曲させるような自動・他動運動検査、オーバープレッシャーテスト(可動域最終域でのさらなる加圧負荷)、関連すると思われる筋肉の伸張や抵抗運動を行いコンパラブルサインで確認できた疼痛を運動検査レベルで再現できるかを確認していきます。もし、再現できたのならば、従属変数としてプレポストテストに採用する事ができます。
この時、検査中には色々な痛みが出る可能性があります。ですので、前記事で触れたように、疼痛の質を患者から聞き出し、「対象としている痛みの名詞化」を行っておく事で、再現された痛みが日常生活上の痛みやコンパラブルサインと同じ痛みかを確認しやすくなります。
これらの動作、運動検査で疼痛を再現できた場合、今まで説明した事も含めると以下の項目をプレポストテスト(従属変数項目)として採用する事ができます。
採用可能なプレポストテスト(試験的な治療の効果判定を行う為の従属変数)
- コンパラブルサイン
- 疼痛関連動作(コンパラブルサインと類似の動作)
- 疼痛関連運動(疼痛を再現できた運動検査)
- 患者の主観
- セラピストの主観
これらを効果判定のヒントに、セラピストが用いた物理的刺激が適刺激か、もしくは、なりえる可能性があるかの判断材料になります。 以前の記事で、適刺激を探すのは試行錯誤の過程の為の準備が重要になると書きましたが、この「その他の従属変数(上記太字部分)」を準備できているか否かが特に問われるところになります。
また、コンパラブルサインが特殊な動き・動作である場合や用いようとしている手技の治療中の姿勢(患者側)がコンパラブルサインと異なる場合は、疼痛関連動作が治療後の症状を確認する為の非常に便利な道具になります。
例えば、コンパラブルサインの開始姿勢が立位で、試験的な治療の姿勢が伏臥位、尚且つ、患者が動作緩慢だったとします。試験的な治療後に再び起こしてコンパラブルサインを確認し、その後も伏臥位で同様の手技を加える可能性がある場合を考えてみると、とりあえず現時点での症状をもう一度確認したい、とした時に、伏臥位の姿勢での疼痛関連動作を準備できていると確認作業はスムーズにいきやすくなります。
もちろん、原因組織を探っていくための評価は重要ですが、結局は治療による変化を生みださなければなりません。その変化を読み取る準備をセラピスト側がしっかりできているか、そして患者側も(以前の記事「オリエンテーションの重要性」で触れました)できているかが、非常に重要になってきます。
この場面において、「原因組織を探る」という作業は、セラピストが用いる物理的刺激を選択する為のひとつの要素に過ぎないと思っています。セラピストの仮説のもと用いた手技が適切かどうかは、今まで説明してきた効果判定でしかわかりません。 例え、疼痛の原因組織を探る過程が理論的でも、エビデンスやガイドラインに則ったとしても、この手技・治療が目の前の患者に適切かどうかは、効果判定を行い、その変化を確認するしか術がありません。
この効果判定は、明らかに良くなる変化以外は丁寧にみなければ、「良くなっていないのに良くなった(第1の過誤)」と勘違いしたり、「良くなったのに良くなっていない(第2の過誤)」と勘違いをしてしまいやすい場面なのです。
まとめ
今回の記事で伝えたかった事は、
「コンパラブルサインが陽生ならば、他の動作や運動検査で、その痛みが出るかを確認しておきましょう」
そして、
「その疼痛関連動作・運動検査を駆使して小さな変化にも気づける準備をしましょう」
という事です。適刺激が見つかっていない中で、患者をベットに寝かし続け、サービスのような治療行為に終始しては前へ進みません。適刺激をみつけるには効果判定しかありません。その効果判定を自信を持って行えるように、疼痛関連動作や運動検査を徹底的にやるべきだと思っています。中途半端なやりとりで治療をスタートさせてしまうと、治療を終えた後、結局のところ良くなっているのか、変わっていないのか、の判断を困らせてしまいます。
ただし、ここで注意しておかなければいけないのは、前記事で触れた「コンパラブルサインの確認や、検査・試験的な治療を行っても良い状態である」と言えるかどうかになってきます。やみくもに疼痛を再現させすぎて、状態を悪化させないためにも、その確認を疎かにしないように気をつけて行って下さい。(「「価値のない悪化」について ~イリタビリティー? センシティビティー?~」で説明しています。)
以上になります。今回もまた、稚拙な文章で、尚且つ長々となってしまいましたが、最後までお読み頂きありがとうございます。