ゴール設定

5.徒手療法(マニュアルセラピー)におけるゴール設定まとめ

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クリニカルリーズニングシリーズ5徒手療法におけるゴール設定徒手療法におけるゴール設定というテーマで書いてきましたが、良くなっていく患者に対しては、ほとんどゴール設定の重要性に気付く事なく終了を迎えると思います。

このゴール設定に困るのは、治療に難渋するケースだと思います。この点についてを中心に、シリーズのまとめとして記事を書かせて頂きます。

 

徒手療法におけるゴール設定まとめ(クリニカルリーズニングシリーズ5)

整形外科クリニックに通っている患者や、治療院などに通われている方のゴール設定で基本となるのは、具体的な状況は問わず、「治療に通わなくても良い状態」になる事だと思います。

その為には、「症状そのものを軽減・消失させる事」に加えて、

  • 再発させないための取り組みをする事
  • 自分自身でどうにかなる感を持たせる事(セルフエフィカシー)
  • 具体的な対処方法を身につけておく事(ペインコーピング)

この考え方自体は、私が考えている特別な事というよりも、痛み治療の臨床に従事している方でしたら、多くの方が、まったく同じとは言わなくても似たような考え方を持っているのではないでしょうか。

 

これらに加えて、もう一つ大切だと思っている事があります。

私自身は、外来診療の中で、多くの患者を診させて頂きました(まだまだ経験は浅いですが、)。そのような中で、理学療法士として一生懸命に取り組んできたつもりだった事が、返って、患者の自由意思を奪い、セラピストに頼らないといけない精神状態に追い込んでしまったと思える経験がありました。

治療と題して行われる、理学療法士の良かれと思っている取り組みが、患者の精神的な健康状態を悪化させてしまっている事に、治療者本人はあまり気づけません。

「患者の病態を把握していて、何をやったらダメで、運動はコレをやるべきで、あの治療法は止めておいた方が良い」という風に患者の行動をコントロールしてしまっている事が多々あります。

本当に必要な事と、治療者側が勝手にそう思い込んでいる事の区別をつけるのは、相当に難しい事なはずですが、自分自身がとっている行動は本当に正しい事だと確信してしまっている場合が多いと思います。これは、私自身に当てはまる事でした。

ある患者の治療にあたっている時ですが、症状を詳しく聞いていきながら治療に当たっていると、「私がこの人の症状を改善させてあげないと!」という思いがいつの間にか出ていました。

患者も、こんなに丁寧に診てくれる理学療法士に出会えたという事で、自身の抱えている症状をどんどん私にぶつけるようになりました。

病院へも定期的(週2回)に通い、いつの間にか、もとの症状とは関係のない症状についての治療まで始まりました。

長い事治療を進めているにも関わらず、患者の訴えは、「毎日辛い」、「夜も寝れないくらい痛い」、「以前よりも、どんどん痛くなっている」「この痛みは一生消えないのですか?」というような感じでした。

私自身は、理学療法士として、絶対に症状を改善させたいという思いから取り組んでいましたので、まさか自分自身が症状(患者の訴え)をエスカレートさせていっているとは気づきもしませんでした。

  • 良くなるどころか、訴えは酷くなるばかり。
  • 良くなるわけじゃないのに、ずっと通い続ける。
  • 痛みについて不安になったら必ず、担当理学療法士の指示を仰ぐ。

このような形で、一向に治療が進展する様子はなかったです。

治療していて、私の技術不足で良くならない事はあったとしても、逆にどんどん悪くなる(訴えは増える)という事が疑問でした。
もちろん症状を悪化させないようにと気を付けて治療に当たっているので、何故悪くなっていくのかがわかりません。

主治医に依頼して、特定の疾患に特化している病院にいくつか紹介し、そこでの見解などももらいましたが、全て「異常なし」で返ってくるのみでした。

また、不思議なのが、悪くなっているはずなのに、私の事を非常に信頼していて、毎週欠かさずに、ちゃんとリハビリに訪れます。

それに応えなければという思いで、その時はそれで頭がいっぱいだったのを今でも覚えています。

しかし、一切結果は出ません。それでも患者から治療に対する文句は一切言ってきません。

治してくれないセラピストなはずのに、症状について不安に感じる事を、あらいざらい聞いてきて、どうしたら良いか意見を仰ぎます。

私は、担当理学療法士として、一つずつ丁寧に聞いて、対応しているつもりでした。結局、これが患者の精神的な健康状態を悪化させてしまっていたのだと思います。

この方は、外来リハビリに通っていた方なのですが、外見だけでは、どこが痛いかわからないし、症状が悪化しているようには一切感じない。しかし、症状を聞いていくと、どんどん出てきて、「今日は特に悪い」という事を毎回の治療開始時に私に話すようになりました。最初は腰だけだったはずの症状が全身に波及していきました。

もちろん、「筋膜で繋がっていて、、、」、「神経支配が、、、」、「関連痛が、、、」、「姿勢の影響で、、、」「代償動作のせいで、、、」と、それっぽく説明しようと思えば、こじつけで可能かもしれません。

 

しかし、ここまで、症状が悪化していながら、見た目の変化としては一切ありません。

私自身の関わり方が問題であったという事に気づく事にとても時間がかかってしまったのですが、大元にあったのは、「患者の症状を私が絶対に治してあげる」と思ってしまっていた事にあったのかもしれません。

徒手療法を進めていく上で、非常に重要となるのは、治療にあたる理学療法士・セラピストが患者自身の力を削ぎ落とさないように注意する事だと思います。

この方は、私に出会う前までは、何とか自分で対処できていました。しかし、私と出会ってからは、病院漬けとなってしまったのです。

そこからの治療関係の修正はとても大変でした。個人的な内容も含まれますので、それについては、書けませんが、

症状が増えているが生活レベルは何ら変わらない事
生活レベルは変わらないのに以前よりも健康に対する不安が強くなっているように感じる事
現時点で、すぐに問題とる所見はみられていない事
などを患者と時間をかけて話しました。

また、治療の効果が出ていないのに、治療に通い続けるべきだと思っている理由についても聞きました。

色々なやりとりがありましたが、最終的には、
「ちょっとした症状があっても、それは体の状態が悪くなっているとは限らない。」
「普通に生活している人もみな、日によって痛みが出たり、気づいたら消えていたり、そういった事を繰り返している。」
「何かあった時には、自分自身での対処法を習得しておけば多くの事に恐れる必要はない。」

こういった事について時間をかけて話していきました。最終的には、「自分自身で症状をコントロールできるようになりたい」という目標を持って、それについての取り組みが始まりました。

それ以降は、受動的な治療ではなく、自分自身で、日常的に感じる痛みに対する取り組み方や、その時の対処法などが主なものとなりました。

その時の病院は、150日期限を超えても診療にあっていましたので、とても長い付き合いになりましたが、最終的には、病院へ通わない事を自分自身で決断して治療関係は終結しました。

病院の診療科もペインクリニックであった為、いわゆる一般の整形外科外来よりも、疼痛の程度が強い(強く訴える)、整形外科的に症状の説明がつかないというような方々が他にも多くいましたので、ここで得た経験はとても大きかったと思います。

そして、セラピスト側の向き合い方によって、患者の訴える症状を、本来の症状以上のものにさせてしまう危険性がある事も学びました。

私自身が大切だと思う事は、セラピスト側の治療行為によって、患者自身の痛みに対処する能力を削ぎ落とさない事、自立した生活を援助する事だと思います。

ですので、ゴール設定というのは、常に最初の時点から「どうなれば通院の必要がなくなるか?」を意識して設定すべきで、患者にも、「通う必要がなくなる為に一時的に通っているだけ」というのを忘れないように、適宜、この事について話し合う必要があると思っています。

私が経験したような患者は、治療を進めながらも、なかなか結果は出せず、それでも通い続けているという事で、治療関係は非常に長期に及んでしまいました。

こういった、長期に及んでいる患者のゴール設定というのは、「痛みが増えても生活自体はできている」、「仮に疼痛が減ったとしても、それを改善として実感を持つ事はできない」「常に、今が1番悪いと思ってしまっている」という事に気づく事だと思います。

私自身の臨床は、冒頭で挙げた基本的なゴール設定に加えて、痛みというものがどういうものなのか(その人にとって)について話し合いながら、それに気付いてもらい、治療終結へ向けて取り組んでいく事です。

痛みを消す事ではなく、「痛みに対する向き合い方に気づく事」が、そういった患者のゴールで、それを徒手療法による治療と並行しながらでも、しっかりと取り組む必要があると思います。

私たちは理学療法士であって、心理療法の専門家ではないので、中途半端に心理面に介入する事は賛否が問われるところだと思います。

しかし、この領域のやりとりは、痛みの治療として身体的な改善を求めて来院された方ですので、その患者の症状と深く関わってきた担当セラピストがしかできない事だと思っています。

私の経験上の話しになりますが、

こういった状態に該当しそうな方は、ここに来る前にも、すでに他の病院で治療を行っている場合が多く、そこで、「あなたの痛みは原因不明です。心理的なストレスなどを抱えていますか?」と唐突に聞かれて、それで病院を変えてここに来た、という背景を持っている事があります。

治療が長期に及んでいるおかげで、患者にとっては触れてほしくない心理的な事や、疼痛に支配されている事に気付いてもらう取り組みが行えると思います。

これまでの取り組みが無いのに、いきなり「疼痛と向き合って下さい」と言われた患者は確実に病院を変えます。しかし、だからといって、いつまでも中途半端な治療関係を続けていては、理学療法士が本来取り組むべき事からは逆の行動をとっている事になってしまいます。

 

150日期限を採用している病院の場合

私が今勤めている病院も150日期限を迎えると理学療法士による介入を終了します。150日期限を設けていても、明らかな改善を示す患者は、すぐに終了を迎えるのですが、改善はしているにしても、ちょっとした症状がまだ残っているという患者は、150日期限を迎えるまで治療介入が行われる事があります。

(特別な例で150日期限を超えてもリハビリが続く方もいますが、いままでで150日を超えても介入し続けた方は1人です。)

そういった環境での、治療終結の迎え方としては、「150日を迎えたから終了となる。」というような受動的な終結の迎え方は可能な限り避けた方が良いと思っています。

患者自身が、150日期限を迎える前に(例え直前だとしても)、患者自身で、「もう治療に通う事を辞める」というふうに治療終結を迎えることが個人的には望ましいと思っています。

もちろん、治療の継続すべき・終了すべきの最終決定は主治医と患者で決める事であって、担当理学療法士の一存で決定できるものではありませんので、その点は注意が必要です。

しかし、単純に150日なったから、「もう治療に通えませんよ」という治療終結の仕方は、患者はどうしても見放された感が生まれてしまうと同時に、今度は誰に頼ったら良いのだろうという思考パターンに陥ってしまいます。

この治療期間で、痛みがゼロにならなかったとして、150日期限ギリギリまで治療する事になっても、治療終結については、これから先、「リハビリで取り組んできた事を糧に、自分自身で取り組んでみよう」と思えるように終了すべきだと思っています。

終了直前になって、特別に取り組む事がないのであれば、終了直前で通院頻度を上げるという事もできる限り避けるべきだと思います。終了するという事をネガティブなものにしないように理学療法士は気をつけるべきだと思います。

また、症状の改善が認められていて、本人も自覚しているのに、「150日期限まで残り少ないから、それまでは通いたい」と希望があった場合は、もう治療終結を迎える状態には達していて、特別にリハビリでやる事はないが、あくまでも「もう少し通っていたい」という希望で治療関係が継続しているという事をしっかり話し合ってから、継続するべきだと思います。

もちろん、これらについての最終決定は主治医の判断のもとに決定されるもので、この治療終結に関する考え方を理学療法士の個人的な見解で変えていこう、という事を伝えるための記事ではありません。

150日期限に達したから終了となる場合も、可能な限り「患者自身でもう治療に通わない。」と思えるよう状態になってもらって終了すべきだと思っています。

 

最後に

ここで言いたいのは、徒手療法によって治せない痛みが、心因性のものと言いたいのではありません。心因性の痛みというなら心理的な介入を施して、疼痛がなくなったという実証を持って説明しなければならないと思っています。

あくまでも、理学療法士の関わり方で、ゴールから遠のいていく患者に対して、理学療法士としてできる取り組みと、そのゴールについて書かせて頂きました。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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