診断学とエビデンス

1.理学療法士と診断学

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クリニカルリーズニングシリーズ8

腰痛があり、脚に痺れを伴う代表的な疾患は何でしょうか?

診断は医師がするもので、理学療法士・作業療法士が一切関与する必要はないと思われている方もいるようですが、これを知らない理学療法士・作業療法士は適切なクリニカルリーズニングは行えません。病院に勤める療法士であれば知らなければいけない診断(学)について解説させて頂きます。

 

先ほどの問題提起の答えは「脊柱管狭窄症と腰痛椎間板ヘルニア」です。

(このブログサイトをご覧になっている方であればほとんどの方が知っていると思いますが、一応問題提起風にさせて頂きました…)

整形外科クリニックに勤務している理学療法士であれば、この診断名が付けられた患者を担当した事はかなり多くあると思います。

しかし、本当にその診断通りなのか?と、いつしか疑問を持つようになり、理学療法士による徒手的な介入で症状の改善がみられるようになってくると、ほとんどの理学療法士が医師の診断を少しずつ疑うようになります。

この医師が行う診断を、理学療法士がどのように解釈すべきかを考えてみます。

 

医師が行う診断に対する理学療法士の不信感

椎間板ヘルニアと診断されてリハビリ室にやってきた患者を、診断名なんて考慮せずに、鼻っから機能障害の存在のみを疑う理学療法士もいるかと思います。

「どんな患者も、腰椎椎間板ヘルニアか脊柱管狭窄のどちらかに当てはめようとしている」

だとか、

「診断が適当だな…」

と主治医の診断をそのように考えている理学療法士は多いのではないでしょうか?

 

診断の目的はいくつかあります。

まずは、生命の存続を真っ先に考える事で、次に機能損失を防ぐ事です。

その次に、患者自身の主観的な訴えの改善を考えるというのが基本になるかと思います。

この時、生命の存続という意味では、整形外科クリニックに訪れる患者の場合に限って言えば、その点は既にクリアしている場合が多いかと思います。

しかし、たったいま生命の存続が危ぶまれるという状態でなくても、生命予後を左右するものとして「骨折」が挙げられます。また、しっかりと処置されなければ大きな機能損失を招く危険性があります。

これを考えると、整形外科クリニックで、レントゲンをとって骨折を確認するというのは非常に重要です。

大腿骨頸部骨折後の生命予後の悪さは、理学療法士であれば殆どの方が知っている事だと思います。

この視点から考えると、

骨折の疑いがあるならば、まずはそれを排除さえすれば、あとは様子見で何ら問題はなくなります。

レントゲンだけ撮って、後は「問題ないですね」と言われて困っている患者がリハビリ室を訪れる事もあるかと思いますが、それは別に問題になるような事ではありませんし、主治医が診断をしっかりと行っていないわけではありません。

 

では、腰痛患者のヘルニアの診断はどう考えるか

先ほど挙げたように、生命予後を悪くさせるものでなければ、緊急手術を選択する事はないですし、特別な疾患でなければ、疼痛症候群として消炎鎮痛剤で様子を見るというのが基本的な対応です。

これは、暫く様子をみていれば改善するような患者まで、治療対象にしてしまわない、1つの方法です。

ヘルニアと診断したからと言って、整形外科医が典型的な症状を呈しているヘルニア患者と、そうでない腰痛を訴える患者を同等にみているわけではありません。

診断名は同じ椎間板ヘルニアかもしれませんが、より慎重に扱うべき状態と、そうでない状態で、主治医が考えている事は異なります。

 

それでも腰痛を訴えた患者に椎間板ヘルニアと診断を下す背景には何があるのでしょうか?

診断をすすめていく上で、基盤となるリーズニング様式は、パターン推論法と仮説演繹法です。

何らかの症状を訴えた時に、まず考えるべきは、「重篤な疾患が潜んでいないか?」です。腰痛であっても同様です。

このクリニカルクエスチョンに対して用いるリーズニング様式は、パターン推論法です。

重篤な何かが隠れているかを考える視点は大切ですが、腰痛を訴えたから、すぐに重篤な病気の可能性を考えるのはナンセンスです。

可能な限り慎重をきした方が良いと思う方もいると思いますが、必要以上の推論を展開する事は時間も労力も費用も無駄にするリーズニングエラーです。

そこで、キーワードとなるのは、

「腰痛+〇〇」

ある特定の状態や条件、随伴症状があれば、重篤な疾患を疑うというわけです。

この代表的なものにレッドフラッグサインという考え方があります。いくつかの確認事項に該当するのであれば、重篤な疾患を疑い精査を行います。

しかし、該当しないのであれば、それ以降はこの領域に関する推論は一旦終了です。

治療の経過で、もし再び危険性を感じたら、その止まっていた推論が再開します。

 

レッドフラッグサインに引っかからなければ次の行動は?

重篤な疾患でなければ、別領域への推論が展開されます。

これについてのリーズニング様式は、仮説演繹法です。

そして、ここでのクリニカルクエスチョンは「この痛みの原因は?」なのですが、

沢山ある原因の中から絶対に診断を下してやろうと思っているのではなく、整形外科医が診断を下すべき範囲で考えて「この原因は何か?」を探ろうとしています。

少し脱線しますが、診断の目的は治療です。言ってみれば、治療するものしか診断する必要はありません。

ですので、整形外科医が行うべき診断は、治療可能性のあるもののみになります。それ以上の診断をやってはいけないわけではなくても、やらないといけないという事は一切ありません。

そこで、腰痛患者の中で整形外科が治療をすべき疾患として出てくるのが、

  • 腰痛圧迫骨折
  • 腰痛椎間板ヘルニア
  • 脊柱管狭窄症

といったものです。(もちろん、これだけではないですが、シンプルに代表的なものだけを挙げさせて頂きます。)

ここで、用いる推論様式は、仮説演繹法と言いましたが、仮説演繹法とは、自身の持っている複数の仮説に順位付けを行う推論様式です。

この中に正解があれば、最も正解の可能性の高い仮説を導き出せる推論方法ですが、そもそも選択肢の中に正解が無ければ正解には辿りつけません。

圧迫骨折については、最初のレッドフラッグサインで、ある程度可能性を低くしているので、ここでの選択肢は、椎間板ヘルニアか脊柱管狭窄症かの二択と考える事ができます。(もちろん、今回の記事では、この2択に絞っているからですが、、)

脊柱管狭窄症は高齢者に起こり、椎間板ヘルニアは若者に起こりやすい病気です。
(理由やその他の相違点を説明すると長くなるので、割愛させて頂きます。ここではシンプルに年齢的要素のみで解説させて頂きます。)

すると、レッドフラッグサインには引っかからない患者で年齢が低ければ、もうそれだけで「椎間板ヘルニア」の診断を下す理由が出来上がります。

もちろん、高齢者であれば「脊柱管狭窄症」です。

これは、診断が適当ではなく、何のためにに診断を下そうとしているか?という視点の違いです。

例として挙げさせて頂きますが、

レッドフラッグサイン(-)で、若者の腰痛であれば、この時点で椎間板ヘルニアという診断がほぼ確定します。(MRIをとらなくても)

そこで、神経学的所見をとり、整形外科的テストを行い、いわゆる椎間板ヘルニアを説明する所見が出てきたなら、MRIで、臨床所見と画像所見が一致するかをみていきます。
(最初でMRIをとる病院の場合は、臨床所見のチェックと画像所見のチェックが同時進行です。)

※ここに関しては次回の記事で詳細な解説を予定しています。

 

もし、一致しない場合はどう考えるのか?

理学療法士が勘違いを起こしやすいのは、ここからです。

椎間板ヘルニアを説明する臨床所見がみられず、画像所見で、誰にでもあるような椎間板変性がみられた時ですが、

それでも「椎間板ヘルニア」という診断は、仮説演繹法によって別疾患の可能性が出てこない限り覆りません。

いわゆる無症候性ヘルニアだろうと診断は「腰椎椎間板ヘルニア」です。

それは、今展開されている思考課題の中(クリニカルクエスチョン)には含まれていない課題だからです。

ここでのポイントは、「整形外科医が手術すべきか」だとか、「単なる疼痛症候群として扱っていけないか」といった判断のみです。

ですので、最も腰椎椎間板ヘルニアを疑うべき状態で、腰椎椎間板ヘルニアには当てはまらない臨床所見を呈しているなら、(言い方は悪いですが)単なる疼痛症候群として、消炎鎮痛剤を処方して帰院して自宅で様子をみてもらいます。

そして診断は、仮説演繹法から導き出された仮診断である「腰椎椎間板ヘルニア」が確定診断となります。

原因を徹底的に探そうという視点ではなく、治療すべき病気を見逃さないという視点で見れば、細かい所はどうであろうと、診断は一切間違っていません。

そしてリハビリや理学療法士を信頼してくれている医師は、それ以降の治療を理学療法士に任せてくれます。

今すぐ手術すべきだったり、運動させると病態が悪化する事が容易に想像できる患者をリハビリには送りません。

リハビリの処方を出す理由は、上記で解説した思考プロセスが背景にあります。

これを勘違いして、「またまた適当に椎間板ヘルニアと診断しているな」と思っているのであれば、それは理学療法士の大きな勘違いです。

 

だから理学療法士も診断学を学ばなければいけない。

どういった根拠があると椎間板ヘルニアと言えるのか?

どういった状態だと手術をすべき椎間板ヘルニアと言えるのか?

といった事や、

主治医がリハビリ処方を出したのは何が目的か?

どういった背景があるか?

などを考えれなければいけません。

手術を検討していて最新の注意を払いながら経過をみたいから理学療法士をつけたのか、単なる疼痛症候群で、医師が治療するのではなく、理学療法士に生体力学的視点から腰痛の改善を依頼しているのか、

医師が行った理学所見(身体検査結果)を見て、検査データが腰痛椎間板ヘルニアを説明する所見ではないのに、それでも椎間板ヘルニアと診断がついているのはどういう意味か?

これを担当理学療法士は考えるべきであって、適当な診断だなーとか思っているようだと、医師からはそれ以上に何も考えていない理学療法士だなーと思われているかもしれません。

ちなみに、私は理学療法士であって医師ではありませんので、上記のような事を偉そうに言える立場ではありませんが、私を教育してくれた医師からの受け売りで記事にさせて頂きました。どうかご容赦下さい。

少々偉そうな内容で、さらに稚拙な文章ですが、最後まで読んで頂きありがとうございます。

こういった内容はナラティブリーズニングに関する事と同様に少々記事にしにくい部分もありますが、私自身はとても大切な部分だと思っていて、診断に関する事や、エビデンスと言われるものについて解説するシリーズを開始させて頂きたいと思います。

クリニカルリーズニングシリーズ8「診断学とエビデンス」もこれまでの記事同様に読んで頂けると嬉しいです。

次の記事→ 2.椎間板ヘルニア患者のリハビリ初回で考慮すべき事(診断に関する事)

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