シングルケース研究法

多標本実験計画とシングルケース研究法その4

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シリーズ増刊号2015シングルケース研究法シリーズ増刊号2015「シングルケース研究法」として、4記事構成で解説しています。

本記事のテーマは、シングルケース研究法を臨床で利用する事について解説する内容となっています。
今回の記事は、以前の発表で使用したスライドを用いていますが、記事内の文章は全て、新たに書き直したものとなっています。

これまでの記事では、過去に使用した部分を「だ・である調」で記載しましたが、今回の記事は、全て「です・ます調」となっています。少々読みにくくなってしまった事をご容赦下さい。では、はじめていきます。

 

臨床で、シングルケース研究を利用する事について解説していきます。

担当している患者に対して、まずは一般的な治療を施したとします。

この時に良くなってくれれば、それが一般的な治療によるものなのか否かは考えようがありません。

よく理学療法士が口にする「良くなればなんでもいい」と言われるような状況と解釈していいと思います。ここで言える事は、一般的な治療で良くなったかもしれないし、そうでないかもしれない。という結局結論のない考察しかできないという事です。

ただし、症状を有する期間が比較的長く、かつ安定しており、今後もこの症状が続くであろうと予測される患者が、その一般的な治療で良くなった場合は、一般的な治療によるもの可能性が高いと言えると思います。

シングルケース図13

今回の記事で、重要なのはここからです。一般的な治療で効果がみられず(結果的に第一基礎水準期(B)と解釈する事ができます。) 新たな治療法を選択する必要が出てきた時に、この効果が出てなかった期間を一つの比較対象にした試行錯誤法によるクリニカルリーズニングと同様の事をすればいいのです。

治療刺激になりうる手技を患者の反応をみながら探していき、試験的な治療の過程で「これは良い反応が出ているかも」というのを治療介入(操作・独立変数、例としては「腓骨頭の腹側誘導」)とし、これにより良い反応が出現した場合は、これを治療導入期(A)とし、BABA型の反復型実験計画で、個々の症例に適した方法だという事を科学的に証明する事ができます。

もし、この方法でも効果が出現しない場合は、また新たな治療手技を選択する事になるのですが、この時のデザインはABC型デザインと呼ばれるものを選択する事になります。このABC型については今回のシングルケース研究法の解説では、記事の都合上割愛しましたが、操作をいくつも行い、この操作間での比較を行う方法となります。

このABC型を選択した場合は、治療期の解釈が変更されます。最初に行った一般的な治療をA期とし、次の治療をB期、そしてその次をC期、もっと増やす必要があれば、D・Eと続いていきます。

例えば、E期(つまり、5つ目の治療介入)で、「この治療刺激に反応しているかも」という臨床的な理学療法士の気づきがあれば、そのE期で行っている治療を、新たな研究デザインとしてBABA型を用いて、先ほどのE期で行った治療と症状の改善の因果関係があるのかを検証していけばいいのです。

手順を一つずつ踏まなければならない点では、面倒くささはありますが、臨床で行っている治療を選択・却下する過程と大きなずれがありません。

臨床で治療をすすめながら研究を行う事ができ、そこでしっかり効果検証ができていれば、それがそのまま研究結果として成立します。

従属変数に用いる項目も、今までの記事で説明してきたものを利用できます。
トライアンギュレーションを行うために、コンパラブルサイン、疼痛関連動作、疼痛関連運動、患者の主観(VASやNRS)、などで多角的に検証する事が重要と述べましたが、それらがそのまま従属変数となります。

シングルケース研究を臨床での状況に合わせて利用する時、何が基礎水準期で何が操作導入期なのかは治療結果によって流動的に変化するため、その部分を整理しながら行う必要がありますが、その流動性が結果的に臨床で利用する事に柔軟に対応してくれます。

このように、たまたまかもしれないが、効果のあった治療刺激を見つける事ができた時に、次に考える事は、「類似した他の患者でも同様の治療が効果を示すのか?」という事です。これは、一般化外的妥当性と呼ばれるものです。

研究の究極の目標は、この成果を理論化する事ができるかです。たまたまかもしれないが、効果のあった治療刺激が見つかれば、今度は色々な人(基本的には類似した人ですが、ここではまだ何を類似といえるか不明な為)に試してみて、どういった人に同様の成果を出す事ができるかが論点となります。

ここからは、このシングルケース研究法で出た結論を一般化していく事について考えていきたいと思います。

下の画像は、前回の記事で紹介したシングルケース研究での流れを示したものです。

シングルケース図14

そして、そこから色々な患者(ここでは、同様な症状を訴える患者に限定したとして患者Bと患者Cを例に出しています)に対して同様の治療手技を、反復型実験計画で検証していきます。

シングルケース図15

仮に患者Bも患者Cも改善という反応がみられた場合、この3人の患者の共通項が、この治療手技を適応すべき患者とする事ができます。

シングルケース図16

(ここでは、実証のみでの一般化を挙げていますが、反証過程をとおして一般化する事も求められます。ですが記事のテーマから逸脱してしまう為、ここでは省きます。)

最初は完全に個々の患者に対してしか言えなかった事が、複数のシングルケース研究を通して、ある程度限定された患者像に対して言える事に変化します。これが一般化と言われるものです。

シングルケース研究法についてのまとめると、もっとも特徴的なのは、その簡便性で、臨床で患者をみながら、その臨床をそのまま研究として取り組む事ができる点です。そして、そこで出た結論に関して科学的に検証されていると言うことができます。そして、その研究から一般化する事に向けて取り組む事も可能になります。

シングルケース図17

シングルケース研究法を理学療法士の臨床に利用する事を解説する記事は以上になります。

今までの記事では参考文献や引用文献は記載しない事にしていましたが、今回の記事は内容が内容ですので、参考・引用文献を記載しておきます。記事中にどの部分が引用されているかは載せていませんが、その点はどうかご容赦下さい。

  • 岩本隆茂 川俣甲子夫:シングルケース研究法 新しい実験計画とその応用
  • 竹本毅(訳):JAMA版 論理的診察の技術 エビデンスに基づく診断のノウハウ
  • 関屋昇:真に役立つ研究のデザインと統計処理
  • 日本整形外科学会 診療ガイドライン委員会:診療ガイドライン
  • 内山靖 小林武(編集):臨床評価指標入門 適用と解釈のポイント
  • 古川寿亮 山崎力(監訳):臨床のためのEBM入門 決定版 JAMAユーザーズガイド
  • 仲真紀子(編著):認知心理学

 


今回のシリーズは、シリーズ増刊号として、「多標本実験計画と比較した上でのシングルケース研究法」を解説してきました。この記事で完璧に解説するには私の知識では不可能ですが、できる範囲で記事にさせて頂きました。はじめて「シングルケース研究法」という言葉を目にした方がもし居るのでしたらそれを知るきっかけ程度にでもなれれば幸いです。
もし、この分野においてすでに詳しく勉強されている先生がいましたら、記事中の間違いなどがあればご指摘頂けたら大変嬉しく思います。

今回は、今までのシリーズとは内容が異なっており、それらと区別してシリーズ増刊号として作成(突貫工事のようになってしまいましたが、)したのも、「1人1人を丁寧にみた結果得られた経験が臨床では価値がある事なんだ」と言いたい自分自身が居たからです。

以前参加した全国学会で目にした光景は、想像を絶していて臨床を表現するような発表は正直ほとんど無く臨床には従事していない大学院生が大変多く活躍していたなと記憶しています。また、座長に選出されている先生方も、臨床にはおられない学校の先生方ばかりでした。

臨床で活躍している先生方ではなく、患者をみていない大学院生が活躍する理学療法士の発表会って何なんだ、と驚きました。県学会の方がよっぽど面白い発表があります。しかし、その発表を全国でできるかというとレベルが低いと言われ一蹴されてしまいます。

臨床家が日頃の臨床を発表しにくい研究スタイルや、学術大会に臨床を発展させるものがあるのかという大きな疑問があります。(それ以来、全国学会に参加する事はなくなりましたので、今はどうなっているかはわかりません。)

私としては、臨床で頑張っている先生方の日頃の知見を気軽に話し合える場があれば凄く臨床に活きるのではないか、と考えています。臨床で見つけた法則とか自分なりの工夫などを同僚や同志の仲間たちと意見交換するように、お互いを知らない理学療法士同士でもできるようになればなという思いがあります。

現時点では、その構想は完全には出来上がっていませんが、このサイトを通してそういった事ができないかなと色々と計画している段階です。

シリーズ増刊号は、この4つの記事をもって終了とさせて頂きます。専門用語などは、見返しながら説明不足なっている部分は追記して解説を加える予定です。

最後まで読んで頂きありがとうございました。
また、2015年10月から開始し、もう少しで3か月となりますが、日頃から「たなはらの勉強部屋」にアクセスして頂いているみなさん本当に有難うございました。

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