治療の停滞させないために

9.治療刺激の調整 ~より最適化された治療刺激へ~

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clinical reasoning1たった一回の治療で劇的な変化を生み出し、「もうこれ以上の治療の必要がない」という状態を作り出せる魔術のような手技は存在しません。
だいたいの場合は「さっきよりは良くなった」や、「治療直後は良いけど、しばらくするとまた痛くなっている」という事だったりだと思います。しかし、これらの治療刺激の最適化を図る事で、日常生活上の痛みを十分に改善させる事ができる刺激へと効果を高める事ができる可能性があります。「治療刺激の調整」について稚拙な文章で解説していきます。

 

治療刺激の調整 ~より最適化された治療刺激へ~

微妙な変化(改善)を起こす事ができる手技に調整を加える事により、その治療刺激の最適化を図っていくと、冒頭であげた効果とまではいかないまでも、(今、目の前にいる)患者に十分な変化を与える事ができる適刺激にする事ができます。

例えば、圧痛点に対して押圧するような治療を行い、プレポストテストで客観的な変化を読み取れないにも関わらず患者が「なんとなく、今の治療は良い気がする。」とフィードバックをくれた場合を考えてみます。この時点では、患者の主観だけが、現在の試験的な治療を変更しない根拠になっていますが、この圧痛点に対する治療を調整する事で、ポストテストでの十分な変化を出せる手技にできる可能性があります。

まず、調整について解説する前に治療で用いる手技について考えてみたいと思います。現在、治療手技は非常に多岐にわたります。そして、その手技それぞれに考え方があり、その学派や流派よって異なる事を言う場合や矛盾する内容が存在します。

例えば、受動的な治療のみの場合から、自動運動を併用したり、抵抗運動を加えるものもあります。

特定組織を治療対象にした場合、起始と停止を遠ざけるように伸張させる、もしくは、短縮させるなどもあります。組織を引き延ばす・短縮させる、のどちらも考慮していない場合もあります。

痛みが誘発される運動方向へ刺激を加える場合や、疼痛が誘発されない方向へ組織や関節の運動を誘導する場合もあります。

患者の姿勢においても、疼痛が実際に出る姿勢や運動中に刺激を加える場合や、ベットに寝かせリラックスした姿勢で治療をする場合、また荷重位か非荷重位か、なども挙げられます。

押圧を加える手技を考えた場合でも、押圧を加えながらその手をスライドさせるようにしたり、押圧を止めるタイミングを考慮したもの(クイックリリースなど)、比較的長い時間押圧し続ける手技もあれば間欠的に加える手技もあります。

ここで挙げたのは、ほんの一部に過ぎません。様々な治療のバリエーションがあり、何が正しい治療かはわかりません。エビデンスを求めてもほとんど無意味だと思います。それは適刺激が各々の患者で異なるからです。過去の記事でも書きましたが、目の前にいる患者に適切かどうかは効果判定をもってはじめて、適切と考えてもいいかどうかという段階にまで持っていく事ができます。

ですので、今のところ僅かな変化しかみられていない「今用いている手技」を上記のようなバリエーションを考慮して調整を行いながら、より適切な治療刺激へと修正していくのです。

これは治療の経過を通しても変化していく可能性があります。改善がみられていくと、「今用いてる手技は適切だが、治療強度が足りていない」となる場合も考えられます。

基本的には、今まで用いてきたプレポストテストによる効果判定と治療中の患者からのフィードバックを頼りに適刺激の調整を行っていきます。

治療中の患者からのフィードバックで、重要になるのが、過去の記事でも触れた「患者の言葉を使い、痛みを名詞化しておく」という事と、比較法による口頭での優劣の価値付けです。

(ここでは、比較法による口頭での優越の価値付けについて説明を加えます。)

特定の組織に対して押圧を加えている時に、「この感じを覚えてて下さい。」伝えます。そして、その押圧を加えたまま刺激を加えている手をスライド(例えば筋膜マニピュレーションのように)させます。この時に「先ほどの感じと、今の感じ、どちらがより治療されているなと感じますか?」と尋ねます。スライドする方向を変えながら、「どっちの方向がより、治療されている感じがしますか?」と聞く事もできます。「治療されている感じ」という表現に違和感を感じている様であれば、「どちらが、より刺激されてるなと感じますか」と質問の仕方を変えます。

患者に聞いてどうするんだ?と思われる方も居るかもしれませんが、痛みの事については患者のほうが良く知っているはずです。その、患者がよく分かってるであろう痛みに影響を与えているかどうかをフィードバックしてもらうのです。

仮に、その患者が「何となく、2番目の方が良い気がする。」という返答したとします。その良い気がすると価値付けられた条件の治療を加えたところで一旦試験的な治療を中止し、再度ポストテストを行います。もし、これで、最初よりも改善がみられた場合、この患者は「セラピストが用いた治療刺激のなかから適刺激を選択できる能力がある」と言えます。それ以降は、比較法で尋ねながら患者の「より良い気がする」という返答を得られる手技を一緒に探して行けば良いのです。

必ずしも、「良い気がする」といった反応がみられた手技が本当に適切であるとは限りませんが、このやりとりをしていると最初は的外れかもしれないフィードバックが精度の高いものになっていくように感じます。

私の臨床での経験上、疼痛のタイプがメカニカルペインで、セラピストの検証作業を理解している患者であれば、程度の差はあれ、治療刺激の良し悪しを教えてくれます。

このやりとりが慣れていない患者は、コミュニケーションをとる際に丁寧な聞き方をしなければいけませんが、繰り返していくとほぼ全ての患者は慣れていって特別な聞き方をしなくても、適切なフィードバックを与えてくれるようになります。(具体的なやりとりについては次回の記事で説明したいと思います。)

教科書や講習会で習った手技は、あくまでもとっかかりに過ぎません。徒手療法の利点はその場であらゆる調整ができる事です。その利点を生かして、そこから、どういう強度や頻度で、どういう姿勢で、さらにどのような条件を加えて治療刺激を行う事が最適かを患者とともに探していかなくてはなりません。その過程を経て、適刺激を見つける事ができれば、患者自身で行うセルフケアに移行させていく事ができます。

この過程を経て得られた適刺激は、患者もこの物理的刺激の有効性を十分に理解しているので、セルフケアに移行しようとした際のコンプライアンスは非常に高い状態になっています。

徒手療法が持っている、「その場であらゆる調整ができる」という利点を、特定の治療手技やコンセプトの縛りを受けて殺してしまう事は価値のない事だと思っています。コンセプトに従うよりも患者の感覚に従う方が有益であると感じています。

また、そこで得られた経験はセラピスト自身を成長させ、新たな治療法・手技を生み出す可能性があります。単純に解剖学から生まれた仮説を実践する手技ではなく、現場で叩き上げられた効果が実証済みの手技へと進化させる事ができると思っています。

今回の記事は「患者のフィードバックを頼りに手技の調整を加える事に価値がある」という意見を伝えるだけの記事になってしまいましたが、治療刺激の最適化を行うには必須の方法で凄く大切な事だと思っています。今後、より詳細に、かつ具体的に説明していきたいと思います。最後まで読んで頂きありがとうございます。

次の記事→ 10.初回の治療終了時にやるべき事

 

 

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