治療の停滞させないために

7.「価値のない悪化」について ~イリタビリティー? センシティビティー?~

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clinical reasoning1セラピストが用いる徒手的な検査や、以前の記事で説明してきた「コンパラブルサインの確認」、「試験的な治療」などは、患者の症状に何らかの意図的な変化を起こそうとしています。

特定の運動や姿勢をとらせる事によって疼痛を再現させようとしたり、痛みの原因と思われる部位・組織に物理的刺激を加え、疼痛の再現や症状の変化をみようとしています。その変化をみていく前に気をつけなければいけない事があります。

 

「価値のない悪化」について

セラピストが目の前の患者の症状を再現させたり、物理的刺激を加えたりする際に気をつけなければいけないのは、「そういった事をしても良い状態なのか?」です。疼痛を増悪させる事により、病態を悪化させたり、より複雑化させたり、患者との治療関係を悪化させてしまっては治療は前へは進みません。

悪化もヒントになると以前の記事で触れましたが、全ての悪化がヒントになるという意味ではありません。価値のある事か否かを判断する材料がなければ、悪化がヒントになる事はありえません。 イリタビリティー、センシティビティー、セビリティーという臨床的な概念を考慮すると、先ほど挙げたように、目の前で起きた「悪化という現象」が価値のあるものか、価値のないものかを判断する材料になります。

前屈時の最終域で腰痛を訴える患者を例に以下に説明を加えます。

 

イリタビリティーirritability

症状が再現されてから元の状態に戻るまでに要する時間的な程度(誘発した腰痛が消失しにくいなど)
例)立位姿勢から前屈動作をした時に出現した痛みが、前屈動作を止め、もとの立位姿勢に戻った時に、まだ痛みが残っているか、そして、その回復にかかる時間がどの程度か

 

センシティビティーsensitivity

刺激に対する反応の増幅の有無や程度 (誘発した腰痛がさらに誘発しやすくなっているなど)  
例)立位姿勢から前屈動作をした時に、前屈最終域で疼痛が再現されたのが2回目、3回目と数を重ねると疼痛が再現される可動域が狭くなり(最終域の手前で)、疼痛が再現されやすくなるといった変化

 

セビリティーseverity

疼痛による動作の停止や制限の有無や程度(誘発した腰痛が動作を大きく制限する)
例)立位姿勢から前屈動作をした時に、疼痛が出るところまで動作を行えるが、腰痛が再現されたとたんに前屈動作を中止しなければならない(最終域で「ここで痛みが出ます」と会話もできない)状態など

 

-徒手療法、クリニカルリーズニングに関する用語集より-

 

こういった状態では基本的には検査は行えません。やればやる程悪化してしまうので、こういう状態と確認できれば、その日の検査を終了します。

もし、これらの状態に対して治療刺激を加えた事により結果的に悪化がみられた場合は、新たな治療行動が展開されるので1つの分岐点とはなりますが、出来れば出したくない反応なのでこの場合にみられる悪化は価値のない事と捉えられます。

この状態が発症からの時間的な要因であれば落ち着くまで待ちますし、この状態を持続させる要因があればそれを現時点では行わないように(前屈最終域まで及ぶような動作や活動の制限など)説明をします。

これらが陽生の場合の対応手段をセラピストが準備している事(治療グレードに関する知識など)は重要ですが、本記事ではこれらが陽生時の対応方法の説明を主目的としていない為、これ以上の説明は記事の都合上、割愛させて頂きます。

上記の3つが陽性でなければ、基本的には検査を制限する必要はありませんし、その後の試験的な治療で悪化しているかもと思わせる所見がみられても、「ターゲットとしているポイントは当たっているかもしれない」と考える事ができ、治療方向や刺激強度・頻度を調整すれば適刺激は見つかるかもしれないと判断の材料にする事ができるはずです。(「適刺激の調整」というテーマで記事にする予定です。)

そこで、疼痛を確認した際の患者とのやりとりを書いていきます。 ここでは、前屈動作でコンパラブルサイン陽生となり、腰の痛みが再現された場合を説明していきます。腰痛が再現されたら、前屈動作を止め開始肢位である立位姿勢に戻ります。そこで患者に以下の質問をします。

「今、再現された前屈時の腰痛は、前屈を止めてしまえば、もう痛みはなくなって(元の状態に戻って)いますか?」

この質問は、イリタビリティーを確認しています。開始肢位に戻った時に問題がなければ、もう一度、同じ動作を行ってもらい、腰痛が同じように出現するかをみてみます。もう一度、行って頂く事で再現性とセンシティビティーを同時に確認できます。

「先ほどより痛い、前屈しにくくなっている、といった事はありませんか?」

実際に前屈がやりにくくなっていれば、セラピストからも解りやすいですが、患者の主観的要素だけの場合は、さらに複数回やってみるのも良いかもしれません。再現性がなければベースラインを現時点では把握しきれていないと判断できます。(症状のベースラインを把握する為のやりとりは別記事で解説します。)

ここまで確認できれば基本的にはセビリティーについても問題ないと思いますが、疼痛が出ている状態で問診を加える価値がありますので、それを行いながらセビリティーも確認していきます。

「すみませんが、もう一度前屈をして頂いて、腰のどこに痛みが出ているか指し示してもらってもいいでしょうか?」

患者が前屈位のまま、痛みが出ている場所を指し示せればセビリティーは考慮する必要がありません。また指し示した事によって疼痛部位の確からしさが格段に上がります(言葉でのやりとりや、現在は出ていない痛みの場所を聞く事は、正確性に欠けています)。

さらに、「この痛みはどのような質の痛みですか?」と聞く事で後の適刺激を探していくやりとりを非常に楽なものにする事ができ、説明できればセビリティーは低いと判断できます。

疼痛の質を聞く事についての意義ですが、検査・治療の過程を通して、患者は様々な身体感覚を感じてます。それを全て報告されてしまったら、今治療しているものと無関係な身体感覚まで含めてしまう為、セラピストがその報告をどのように解釈すれば良いかを迷わせてしまいます。数多くの情報は欲しいですが、症状とは無関係な情報は必要ありません。

「ズキズキと疼く感じ」と報告した場合は、その後の物理的刺激を加えて適刺激を探す際に、「あのズキズキと疼く感じの腰の痛みと関係している感じがしますか?」と患者の言葉を使って聞く事ができます。

痛みの質から原因の仮説をたてる事もできますが、患者の言っている痛みを名詞化する事ができるため、「今はこの痛みを対象として適刺激を探していますよ。」というメッセージが送りやすくなる事に意義があります。

これらのやりとりは、試験的な治療中にも用いる事ができます。物理的刺激を入れてるさいに、「押されている痛みが、増してくるような感じはありませんか?」や、刺激を止めた後に「押していた時に感じた痛みが、それを止めてもまだ痛むという事はありませんか?」などです。

セビリティーが高ければ、刺激を続ける事自体が不可能なので、「押すのをやめてほしい」というような発言や、押すのを止めさせるような反応がないかをみていけばいいのです。

もし悪い反応がみられた場合は、「この悪化している感じは、先ほど教えて頂いたズキズキと疼く感じの腰の痛みですか?それとも別の問題ですか?」と確認をとる事もできます。

こういった反応が無ければ、物理的刺激を続けてもとりあえずは問題ないと判断する事ができます。そして、対象としている痛みを名詞化できていれば、これらのやりとりは非常にスムーズにいきます。 イリタビリティー、センシティビティー、セビリティーがない状態での症状の悪化は、「とりあえず価値のある反応かもしれない」と治療の可能性を見出す事ができます。

つまり、悪化させたとしても、「すぐに悪いものとは言えない」と考える事ができれば、患者の疼痛を悪化させる可能性を必要以上に恐れる事はないので検証作業を円滑にでき、セラピストの精神的負担も軽減できるものと思います。 稚拙な文章での説明ですが、最後まで読んで頂きありがとうございます。

次の記事→ 8.効果判定のための準備(疼痛を再現させる他の動作や検査)

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