ゴール設定

2.早い段階で徒手療法が功を奏した場合のゴール設定

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クリニカルリーズニングシリーズ5徒手療法におけるゴール設定初回の場面はゴール設定というよりは、理学療法士側の考えを伝えると同時に、向かっていく方向性(方針)のような形で「どうなったら治療終結か?」について話し合う事が大事だと書きました。

これが実在するものかは、現時点では不明です。希望的要素が大きく、理学療法士の診立てとして達成可能かどうかはありますが、実在する(つまり実現できる)ゴールであるかはわかりません。

どれだけ丁寧に、「科学的根拠と言われる統計学的な数値」を示しても、常に確率論の話であり、個人個人の患者に当てはめて考えると95%側なのか5%側なのかは結果を持ってしかわかりません。

なので、どれだけ由緒ある学術雑誌に取り上げられた医学論文を提示したとしても、今担当している患者が、その論文通りに治療できるか?同じような経過を歩むか?についてはわからないので、立てたゴールが実在するものかはわかりません。

本記事では、治療の割と早い段階(時間軸で言うと2回目以降の治療から数回程度の時期)で、ゴールと思っていたものが実在する可能性が高まった時の患者とのやりとり(ゴール設定)について解説していきます。

 

この「ゴールが実在する可能性が高まった時」というのがどういう時かと言うと、試験的に用いた徒手療法が、結果として、患者が「かなり良くなりました。」というリアクションを起こした時です。

患者の「かなり良くなりました。」という言葉を聞くと、セラピストはホッと安心し、自身が用いた徒手療法に満足してしまい、ここからの臨床推論が一時停止状態なっている場合があります。

 

ここで確認すべき事は、「かなり良くなったという今の状態が続けば、あなたはもう治療に通う必要がなくなると思いますか?」です。

ここで起きた徒手療法による良い変化が、「治療前よりも良い状態」と表現しているに過ぎないのか、「患者のイメージしていた良くなっている状態(治療の必要のない状態)」なのかを、しっかりと確認しておく事です。

もし、さっきよりも良い感じに過ぎないのであれば、理学療法士がとる行動パターンとしては二つがあります。心理的要素などはここでは除外して、良くなっているが症状がまだ残っているという場合に限定して話をすすめます。

同様の症状が軽減しただけの場合

  • 例えば歩行時の腰痛・殿部痛がまだ残っているが治療前よりも歩きやすくなった

一つの症状は消えたが、今度は他の症状が気になっている場合

  • 例えば、歩行時の腰痛は完全に痛みが消えているが、今度は殿部痛が出ている場合

この二つは、まだ満足できる状態ではないという点では共通ですが、改善の仕方が異なっています。

前者の場合は、以前の記事でも解説した、治療刺激をより最適な適刺激へと高める介入をしていけば良いことになります。

「 治療刺激の調整 ~より最適化された治療刺激へ~

後者の場合は、新たに出た殿部痛を今の治療刺激で改善へ持っていけるのか、場合によっては別の治療刺激を探さないといけないのか、といった分岐点となる場面です。新たなクリニカルリーズニングが展開される可能性がある場面となります。

特定の徒手療法を用いた結果、「良くなった」という反応に舞い上がってしまうと、そこから先の思考がストップしてしまいます。

良くなったという事をより具体的に聞けなければなりません。この時点では、患者の求めているものが実在するものかはわかりません。

患者が「はい、この状態だったら治療に通う必要はありません。」とリアクションした場合は、まさに今の状態が患者が求めていたゴールになります。

結果的にですが、最初に立てた、ある程度のゴールの方向性が、「この状態の事を言っているんだ」という完全な共通理解にできます。

こういった患者の場合は、「この状態が、この一回の治療で維持できているかを次回の治療時に確認しますので、もし症状が戻ってしまう場合は、どのタイミングで戻ったかを覚えておいて下さい。」というような事を伝えて終了とします。

徒手療法というのは、一撃で身体に急激な変化を引き起こすというよりは、ある一定期間だけ身体に変化を起こす物理的刺激だと思っています(完全に経験上の私見です)。

中には、魔法のような変化を引き起こす事もありますが、そういった事例は極少数で、私自身は最初からそのような事を期待して徒手療法を用いているわけではありません。

結果的にそうなったら良いことですが、それを狙って徒手的介入はしていないというのが本心です。

 


ここまでを少し整理すると、

理学療法士が用いた徒手療法に反応し、患者の症状が良くなるという結果が出た。

これが、患者の求めている状態かを確認する。
↓(求めていた結果であったとする。)
ゴールが共有できた。

この良い状態がいつまで続くかを覚えてもらう。


 

最初から、「一撃で治る」という事は期待していないので、ここでは症状が戻ってきたという状態を過程して話をすすめていきます。

「どれくらいの期間、良い状態が続くかによって、徒手療法による治療予後は良好(今、用いている徒手療法を継続する事で治療できる)と判断できるか」といったものもあるのですが、ゴール設定をテーマにしているこの記事からは内容が脱線してしまうので、クリニカルリーズニングシリーズ5「治療手技総論」で追加の記事として、今後書いていく予定です。

ここでは、臨床場面でもありがちな、「次の日までは良かった。」や「2日くらいは良かったかな。」といったものを想定して頂ければ良いと思います。

 

ゴール設定の話に戻ります。

いずれにしても、その次に来院された時には症状が戻ってしまっている状態なのですが、前回治療時に確認できた「良くなった状態」が実在するゴールとなります。

その実在するゴールを達成するための取り組みを考えていく事が、これから徒手療法を用いて治療に当たる理学療法士と患者が進めていく事です。

ゴール自体は実在しているが、それを維持できないというのが今の問題であり、症状がある事が問題ではなくなっています。この新たな「維持する方法を検討していく取り組み」が同シリーズ1作目の記事で挙げた方向性(方針)のようなものです。

そして、前回治療後の良くなった状態を何かしらの方法で維持できる事が確かめられれば、最初で話した「もう治療には来なくて良い状態」という事に繋げていけると思います。

部分的にしか良くならない治療手技については、さらなる方法を探します(最適な適刺激を探す)。症状は消えるが一時的にしか良くならない場合は、それを維持する方法を探します。

良くなっている状態が維持できるのであれば、治療終結に向けての話し合いをさらにすすめます。

例で出すと、私の場合は
「この状態をこれから先も維持するためのセルフエクササイズを指導させて頂きます。これを次回まで取り組んでみて、問題が起こらなければ、もう治療に通う必要がない状態言えると思うのですが如何でしょうか?」と伝えて、私自身が行った徒手療法と同等の事ができるセルフエクササイズ法を指導します。

全ての徒手療法がセルフエクササイズで代替可能ではありませんが、可能なものが多いです。

私自身は日頃から使う手技自体が、勘弁で短時間ででき、やり方さえ指導すれば患者自身で行える、といった治療手技が臨床的にはもっとも強力なものだと思い特別な手技よりもこのような特徴を有している治療手技を選択する事が多いです。(これについても今後、「治療手技総論」で記事にする予定です。)

患者が治療終結に向かう時に、考えてしまう事は、「後になってまた痛みが出たらどうしよう」という事が多いように感じます。150日期限を迎える頃に痛くなる可能性があるから、今でしっかり治療を続けておこうと思う患者は多くいます。

この不安な気持ちは凄くわかるのですが、これを理学療法士が「そうですね。では、ぎりぎりまで治療を続けましょう。」とすると、前回記事で挙げた、「症状は良くなっているのに、精神的には不健康になっている」と表現した部分に該当する患者に、理学療法士側の対応のせいで導いてしまう事になります。

「治ったから終わりにしましょう。」ではなく、「自分自身で対処する方法や、今の良い状態を維持する方法を身につけたから、治療に通う必要がない」と患者自身で思える事が重要だと思っています。

治療によって症状を十分に改善させる事ができた場合は、その目先の結果に踊らされず、この共有できた実在するゴールを患者自身で維持する方向に持って行ければ、治療によってかえって精神的に不健康になるという事を防げると思います。

治療に良い反応を示す患者に対するゴール設定として、「この状態が維持できていれば、もう治療に通う必要はないと言えそうですか?」と実在するゴールという形で共有する事だと思います。

長くなってしまいましたが、治療の早い段階で良い結果を出す事ができた患者のゴール設定でした。最後まで読んで頂きありがとうございました。

次の記事→ 3.徒手療法による介入で改善のみられない患者のゴール設定

 

 

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