治療手技総論

6.徒手療法の特徴について〜治療閾値との関係から〜

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クリニカルリーズニングシリーズ4私たち、運動器の痛みに対して手を使用した治療を行うセラピスト(理学療法士、マニュアルセラピスト)が用いる治療方法は、手技療法や徒手療法、治療手技、マニュアルセラピーなどと呼ばれます。
この「手を使用した治療方法である徒手療法」の最大の特徴について考えてみたいと思います。私見が多分に含まれますが、その点はご容赦下さい。

 

整形外科を訪れた患者の一般的な痛みの治療として思い当たるものとしては、

  1. 投薬療法
  2. 注射療法
  3. 手術療法
  4. 理学療法、作業療法(リハビリ)などの保存療法

などが挙げられます。手を使用した治療法(手技療法)や運動療法などは、4の理学療法や作業療法などのリハビリテーションと呼ばれる保存療法にあたります。

ここでは、その中でも手技療法と呼ばれる治療法の特徴についてを、これらの治療と事なる点という観点から解説していきます。

 

徒手療法の特徴とは?「治療閾値との関係について」

徒手療法の特徴として、一番に挙げられるのは、治療閾値が高くても用いる事ができるという治療選択の容易さです。

治療閾値について解説を加えます。

理学療法士が、痛みを訴える患者に対して何かしらの評価を行った結果、頭の中で考えている治療対象の可能性が、ある確率を超えていれば治療に移る事になります。しかし、その確率を超えない時には、さらに検査を繰り返すか、他の可能性について仮説の設定をやり直すことになります。

このように、治療のための情報収集を終了して、治療に移ることを正当化できるだけの高さの確率を治療閾値(treatment threshold)と言います。

治療閾値は患者の状態によって変動します。医術の中では、当該疾患を見逃して放置すると重大な結果(死亡や機能廃絶)になる可能性が高いときは治療閾値が低くなります。整形外科領域であれば機能廃絶という事になります。つまり、運動麻痺の進行、膀胱直腸障害、荷重障害(大腿骨頸部骨折など)、などです。

反対に、見逃して放置してもあまり重大な健康結果をきたさない疾患の場合には、治療閾値が高くなります。

治療法を決定するにあたり、放置した場合の予後はどうか、選択可能な治療法にはどのようなものがあるのか、それぞれの治療法で期待されるメリットは何か、起こりうるデメリットは何か、そして予測される患者の最終的な健康状態はどうなのかなど、さまざまな要因について総合的に考える必要があります。当然、患者の意向、場合によっては患者の家族の意向が重要な意味をもつ場合もあります。

治療閾値は患者の状態で変動すると言いましたが、治療閾値が高い場合は選択可能な治療法が大幅に限定されます。

例えば、先に挙げた治療法の中で、手術というのは、治療閾値が低くなければ選択される事はありません。

治療しなければ機能廃絶が起こりうる場合や、痛みが強く、そして改善できる可能性がその治療法(手術法)にしかない場合に選択されるもので、「腰が痛いなら、さあ手術をしましょう」と簡潔に決定されるものではありません。

この場合、手術を選択するためには多角的に考える必要があります。エビデンスの力が発揮されるのもこの場面でしょう。

 

しかし、徒手療法には、この治療閾値が低い必要はほとんどありません。「とりあえず、治療してみましょう」が許される治療法です。

この場合の、「エビデンスがほとんど必要ない」というのは、解剖学的根拠(解剖学的根拠はエビデンスとしては認められていません)からでも、たった一事例の成功例の経験からでも何の問題もないという事です。逆に、エビデンスが確立されたものを選択したとしても、目の前の患者に適した方法かは、効果判定をもってしかわからないので、統計学的な根拠(いわゆるエビデンスとよばれるもの)の必要性はありません。

こういった事が言える患者像というのは、シリーズ1でも解説しましたが、「メカニカルペインである事」、「目の前で痛みを再現できる事」、「レッドフラッグ陰性で、イリタビリティーやセンシティビティーがない事」といった条件さえクリアしていれば、とりあえず治療をしてみるという事が許されます。

ただし、効果が出ていないにも関わらず、その治療法に拘り継続するためには、拘るための根拠が必要にはなります。試験的に用いてみて効果を確認する事ができれば、とりあえず用いる事と、しばらくその治療法で様子をみる事が許されます。

医者の治療行為で言えば、非ステロイド系消炎鎮痛剤を処方する事が禁忌でない患者に対してファーストチョイスでそれを選択する(とりあえず、これで様子をみてみる)事が多いのと似ています。これらの治療法はどちらも、効果が出てないにも関わらず長期的に使用した場合に根拠のない治療法になってしまいます。

つまり、徒手療法の最大の特徴は、治療閾値が高くても選択肢の中に入る治療法と言えます。手術をすぐに選択しなければならない状態ではないが、現在の状態からの改善を望む患者に対しては非常に有効な選択肢です。

患者の受け入れも比較的良好です。ですので、エビデンスに拘らず、まずはやってみてその反応をみてみるというのが可能なのです。

もし、手術をすべき状態の患者を見逃して、徒手療法でとりあえず治療をしてみるという事は、絶対に許されないリーズニングエラーとなります。

徒手療法でエビデンスが問われるのは、長期的な効果判定しかできない状況にある時、手術も選択肢の中に入っているが徒手療法を選択しようとした時、効果が出ていないにも関わらずその手技を継続しようと考えている時などが代表的なものです。

徒手療法が禁忌でないか否かさえしっかり確認できていれば、治療閾値が高い患者の治療選択肢として、ファーストチョイスで徒手療法を用いる事に、エビデンスの重要性はほとんどありません。

もちろん、これは運動療法や物理療法などの徒手療法ではない治療法にも同様に言える事です。

徒手療法に否定的な医学研究や、ガイドラインが言っているのは、だいたいの場合、「その手技を盲目的に継続する事に意義がない」という風に解釈できるのではないかと思います。

とりあえず、用いてみて、今目の前にいる患者に効果を示せば、その治を継続する事に十分に根拠になりうると思っています。

エビデンスベースドメディシンという言葉に踊らされて、普通に考えて何ら、選択する事に躊躇する必要のない場面で「徒手療法はエビデンスが確立されていない治療法だ」といって自身の治療の幅を狭めてしまっては、徒手療法の特徴を理解していない事になります。

もし、エビデンスに強い拘りを持っているセラピストがいらしたら、「手技を選択する事」と、「その手技を盲目的に継続する事」を分けて考える事で、「とりあず手技を用いてみる事」が科学的根拠にもとずく医療から掛け離れてしまう事ではないという事がご理解頂けるのではないかと思います。

そして、手技そのものの効果判定をしっかり行う事で、「今目の前にいる患者にとって、徒手療法が有効か?」に答える事ができ、科学的根拠にもとずく医療を理学療法士・マニュアルセラピストの立場から実践するという事になるのではないかと思います。

 

私自身が考える徒手療法の最大の特徴は、「とりあずやってみる事ができる」そして、もう一つは、「目の前にいる患者の反応を見ながら微調整を加える事ができる」という事にあります。

治療閾値を考慮した上での治療法の選択肢としては、徒手療法と消炎鎮痛剤などの投薬(薬物)療法が類似していると解説しましたが、先ほどの二番目の「目の前にいる患者の反応を見ながら微調整を加える事ができる」という点については、徒手療法のみが持つ特徴であると言えます。

ですので、徒手療法の学派や、改善のメカニズムに拘る事で、治療刺激の加え方にバリエーションを持てない考え方をしてしまっている場合は、この「徒手療法の特徴」を生かしきれていない状態ではないかと思います。

以上、徒手療法が持つ特徴として、治療閾値との関係を含めて私見を述べさせて頂きました。最後まで読んで頂きありがとうございました。

次の記事→ 7.徒手療法?オステオパシー? 理学療法士が行くべき講習会とは?

 

 

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