治療手技総論

5.治療手技による改善は、どういったメカニズムか?

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クリニカルリーズニングシリーズ4治療手技の改善はどういったメカニズムで起こっている事なのでしょうか?これは、学生や徒手療法を学び始めた理学療法士からよく受ける質問です。また講習会での講師に対する質問でも、必ずといっていい程出てくる質問だと思います。しかし、徒手療法の改善のメカニズムに各学派での共通の見解が得られているものは少なく、それどころか矛盾する解説やお互いを非難するものまであります。今回の記事では、その点について個人的な見解を示したいと思います。

 

治療手技に関する多くの学派が存在するなかで、それぞれの学派が、その手技の改善のメカニズムを説明しています。

基礎研究を引っ張り出して、もっともらしい解説がなされていますが、似たような手技を行う別の学派では異なっていたり矛盾するような解説がされていたりします。また、別の学派を否定するよな内容が記載されてあったり、特定の見解を否定するような基礎研究まであります。

例えば、マッケンジーエクササイズは、腹臥位で腰椎伸展運動を行う事で椎間板髄核の前方移動によって椎間板後方の膨隆をコントロールしたり、神経根の圧迫を緩めるといったような改善のメカニズムが紹介されています。

しかし、パリスのテキストには、マッケンジーエクササイズの腰椎伸展運動は椎間板ではなく、椎間関節に何らかの刺激が加わり、疼痛抑制機構が働いて症状が改善する事が考えられると解説されているのを読んだ事があります。(非常にぼんやりとした理論でマッケンジーの改善のメカニズムを否定しています。)

また、神経根の圧迫だけでは、神経根性疼痛を惹起する事はないと基礎研究として発表されています。

では視点を少し変えてみます。腰椎伸展運動を考えてみると、椎間板だけに刺激が加わっているかと言われれば、腰が伸展している時に、動いているのは椎間板だけではありません。椎間関節もそうですが、腰に介在する筋肉・筋膜・靭帯・皮膚・神経も動いています。動いているのは、運動器が対象としている組織だけではない(内臓や血管など)し、動きのない下肢でも筋肉は筋膜を介して腰部との連結があります。

椎間関節のモビリゼーションと呼ばれる手技も、まるで任意の椎間関節のみをコントロールしているかのように扱われますが、椎間を特異的にコントロールする事は不可能で、隣接関節も必ず動いてしまいます。程度の差があるだけで、まったく動きを止める事は不可能ですし、動いていないという証明も同時に不可能です。

手で触れて行う治療は必ず皮膚を介しています。そして皮膚の下から目的としている椎間関節(棘突起への接触でも)までには真皮、皮下組織(筋膜層)、筋肉や靭帯などが存在しています。

ですので、椎間板だけ、もしくは椎間関節だけを治療する(物理刺激を加えようとする)事は不可能なはずです。椎間関節であるとする評価がどれだけ丁寧に行われても、理学療法士が治療目的で行っている手技が椎間関節だけ(もしくは椎間板だけ)に特異的に働いてる根拠はありません。

 

結局徒手療法は、どういうメカニズムで効果出しているのか?

記事前半の方では冗長になってしまいましたが、徒手療法が何をしているのか?という問いに答える事は非常に困難です。
表向きでの理論立てた説明は可能ですが、これを真実とする事は現実的には不可能です。必ず矛盾した基礎研究や、臨床結果が現れます。

では、徒手療法はインチキなのか?と問われるとそれは違うはずです。徒手療法の改善のメカニズムの仮説を完璧に証明する事はできなくても、徒手療法によって改善するという現象そのものは真実です。

ですので、個人的な意見になりますが、より大切な事は、セラピストが患者に加えた治療刺激を明確にする事だと思います。(これは、行動主義の考え方になりますが、「特定の働きかけを行った際に内部で何が起きているかという事に拘らず、結果がどうであったかに拘る」というものです。内部で何が起こっているかについてはブラックボックスとし、仮説の仮説になるような議論は一切されません。)

内部で起きている改善のメカニズムよりも、「どういった刺激を加えると、どういった結果が得られるか」について拘る事が、研究者ではない臨床家に求められる姿勢ではないかと考えています。

ですので、手技については、「皮膚上のどこから、どういった物理的刺激を、どの方向へ、どの程度の強度や頻度、持続時間で治療手技を加えた」という事を整理する事と、それを行った結果を丁寧に記録として残すことが重要だと思っています。

 

しかし、自身の行った治療手技を全てを一から記録をとる事は現実的には不可能で、効率的ではありません。

ですので、現時点で方法論として、共通理解となっている手技は、その手技を使用し記録をとればいいと思います。

例えば、筋膜リリースが本当に意図した事ができているかはわかりませんが、筋膜リリースという言葉を使用する事で、ほとんどのセラピストがどういった種類の物理的な刺激を加えているかをイメージする事ができます。これは非常に大きなメリットです。

そして、その筋膜リリースで特定の工夫した点や、患者の反応をみながら微調整した点についてを先にあげたような形で記録をとるのが効率的であると思います。

そして、その解釈は、「筋膜リリースで治った=筋膜が疼痛の原因」ではなく、「筋膜リリースで治った=筋膜リリースで用いる手技が影響を与える何かが原因」という解釈が健全であると考えます。

治療手技の改善のメカニズムにこだわるすぎると、そこに徒手療法の発展はないような気がしてなりません。治療手技が何をしているかにこだわりすぎる事なく、単なる物理的刺激の種類としておく事が、徒手療法の発展に繋がるのではないかと思っています。

そうする事で、特定の学派に片寄りせず、徒手療法という手を使用した治療刺激を評価の過程を通して柔軟に用いる事ができると思います。

少々つまらない記事になってしまいました。この記事のテーマである「徒手療法が何をしているのか」という事の答えは結局のところよくわからない。そして突き詰める事にあまり意味はない。というのが、私の見解です。

本シリーズの次回の記事は、徒手療法を用いる事の利点(メリット・デメリットも含め)に関する記事を予定しています。最後まで読んで頂きありがとうございました。

次の記事→ 6.徒手療法の特徴について〜治療閾値との関係から〜

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