問診

2.問診で、これだけはしっかり聞いておきたい事

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クリニカルリーズニングシリーズ3痛みを訴える患者の治療を進めていくうえで必要となってくる情報があります。ここでは、医学的情報というよりも、患者に聞かないとわからない、患者本人のみが知る情報を聞き出す事を意図した内容になっています(主に初回の問診場面を想定しています)。

まずは、患者から得ようとする情報を分類したいと思います。これは、いつもの事ながら私が勝手に整理したものになります。この記事を読まれているみなさんが重要視している必要情報のうち、ここには分類しきれないものもあるかもしれません。ここでの分類は、あくまでも説明しやすいように私なりに整理したものとしてご理解頂き、読み進めて頂ければと思います。

 

本記事は、クリニカルリーズニングシリーズ3「問診」の記事の一部です。
他のシリーズも合わせてお読み頂けると理解が深まるかと思います。
シリーズ1「治療を停滞させない為に
シリーズ2「代表的な4つの推論様式

 

問診で得ようとしている情報を整理してみると

患者から何を聞きたいかを考えた場合、

  1. 現在の症状(痛みそのものに関すること)
  2. その症状のこれまでの経過
  3. その症状の結果(痛いことによって、何が制限されているか)

患者は、現在の症状と、症状の経過、そして痛みによる機能的制限や活動制限などの結果と、症状の原因と思われるものを分離する事無く、セラピストに伝えます。セラピスト側がその複合した情報の整理を手伝わなければならない場面がよくあります。

 

いくつかの例を挙げてみます。これは、私が実際によく出くわす場面を抽出しています。

セラピスト「現在の症状を教えて下さい。」

  • 患者A「椎間板ヘルニアによる痛みがあります。」
  • 患者B「痛くて腰が曲げられません。」
  • 患者C「昨日から腰に痛みが出ています。」

ここでセラピストが質問したのは、現在の症状です。今、この問診中に、どこに痛み(症状)が出ているかを聞いています。

しかし、患者Aの場合は、症状の原因と思われるものを答えています。その原因が当たっているか否かは別として、教えてほしいのは症状です。椎間板ヘルニアだからと言って、椎間板ヘルニアの患者がみな同じ症状ではないのですから、椎間板ヘルニアという返答から症状を推測する事も不可能です。

そして、仮に「椎間板ヘルニアの症状ではないと思うのですが...。」と、その会話を否定するような返答の仕方してしまうと、話のテーマは原因について話し合う事になってしまいます。ですので、ここでセラピストの返答は「その椎間板ヘルニアによる症状というのは、どういった症状ですか?」と聞く事で、今聞きたい事を、テーマを逸らさずに聞く事ができます。

患者Bの場合は、症状による結果を答えています。曲げると痛いという意味では、これも症状の一つです。ただし、どこが痛いのかよくわかりません。腰かもしれないし、膝窩部かもしれない。この場合に、ついつい、「どう曲げると痛いのか?」などと追加の質問をしてしまうと、話のテーマが逸れてしまうので、「腰を曲げた時に出るという痛みはどういった症状ですか?」と聞き返す必要があると思います。

患者A、Bともに、今話した事を利用して、セラピストが聞きたい事を聞くとスムーズに症状を聞き出す事ができます。もしここで、患者が話した事を利用しない(もしくは否定する)場合は、問診の過程がスムーズに進みにくいように感じます。患者がその事に固執してしまっているのなら、その事に話が逸れやすくなってしまうのです。

患者Cの場合、これはよくある事だと思うのですが、患者は今現在の症状と昨日の夜痛かった事を分離する事ができません。ただ聞いていると、「色々と複雑な症状があるな」と感じたのに、後々聞いていくうちに、「今は痛くない。以前そういう事があった。」という事があります。後々、知れればいいのかもしれませんが、そこを知るまでにかかってしまった時間が無駄になってしまいます。

仮に、それに気付かず、検査に入ってしまったら、その検査は全て無意味なものになってしまいます。

慢性腰痛患者で昔から腰痛があるという場合は、元々あった痛みと、病院に行こうと思ったきっかけになった痛みは違うはずです。「その症状は、今ある症状ですか?」や「もともとあった痛みとは、どういう症状ですか?」と聞き返さなければ、分けて聞く事が難しくなってしまいます。

また痛み出した最初の頃の経過から聞きたくなる所ですが、ここは、現在の症状をまず聞いてから、その痛みがどういう経過でここまできたのかを聞いた方が症状の経過を把握するのにスムーズで、無駄な情報が入りにくく効率的になります。(これは、多くのマニュアルセラピーや運動器疾患を扱うテキストなどで推奨されている事です。)

また、なぜ、今の痛みを明確に知りたいかというと、これまでに何度も説明してきた事ですが、効果判定をする際に判断ができなくなってしまうからです。

また、症状から仮説立てを行う際に、適切な仮説を立てられなくなってしまいます。後の検査や試験的な治療を選択するのは、この仮説生成が根拠となるのですが、ここが揺らいでしまっては、後のクリニカルリーズニングの確からしさを確立するものは何もなくなってしまいます。

効果判定をする際にも、例え明確な改善がみられ微妙な判断をする必要がない場合でも、その「明らかな改善を示す事ができた治療法」が、どういった症状に効果的かを整理する事ができません。

それが意味するものは、今後どういった症状の人に適用すべきかといったパターンリーズニングを行う為の経験を蓄積できていない事になります。(パターンリーズニングについてはシリーズ2「徹底的推論法(試行錯誤法)によるクリニカルリーズニングの発展」をお読みください。)

セラピスト自身の成長の為にも、この症状を明確に聞きとる必要があります。これは、症状のみならず、最初に挙げた、「症状の経過」や「症状の結果」にも当てはまる事です。症状そのものの話を聞きたいのか、その経過を知りたいのか、症状によってどういった機能的制限や日常生活に関する制限があるのかを知りたいか、整理をしながら聞ければ複雑な情報の中から重要な情報を抽出できると思います。

そして、患者が提供しようとしている情報の中で、省略されてしまっている部分を、上手く復元させる事ができれば、問診から得られる情報は、セラピストの憶測や偏向性に影響されていない確かな情報といえます。(問診時の省略については、以前の記事「問診で具体的に聴く技術 省略について」をお読み下さい。)

 

最後に

自身の担当患者の症状を、他のセラピストから聞かれた時に、上手く答えられない場合や、具体的に話せない(抽象的な表現をしてしまう)場合は、症状を知っているつもりである(憶測や偏向性に影響されている)場合が多いように感じます。明らかに聞けていない場合を除き、自身で見つめ直す事は非常に難しい事ですので、そういったきっかけを利用して、見つめ直してみるといいかもしれません。

私自身、指導して頂いた上司に、何度も「何も患者の事知らないねー。」、「ちゃんと患者の話を聞けよ。」と言われていました。この記事を書いたのは、「もう今は十分にできている」という意味ではありません。この事をセラピスト自身で、意識しなければ、ついつい疎かにしてしまいやすい領域で、私自信がとても大切にしている部分ですので、記事にさせて頂きました。

最後までお読み頂きありがとうございました。

次の記事→ 3.アジェンダの設定

 

 

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