治療の停滞させないために

【付録】適刺激を見つける過程-症例報告風2-

更新日:

clinical reasoning1~ここまでのリーズニング~
本記事は、前回記事「【付録】適刺激を見つける過程-症例報告風-」のつづきです。
患者の治したいと思っている症状を問診でのやりとりを通して共通理解にしました。そして、疼痛を誘発させながら効果判定の道具となりそうなプレポストテストを設定する事ができました。ここからは試行錯誤法により適刺激を探していく検証作業を行っていきます。実際に「今目の前にいる患者にとって有効な治療刺激」を探していきます。
※追記(2015/12/1)があります。

 

試行錯誤法による適刺激を見つける過程(症例報告)

症例紹介です。

  • 40代男性
  • 腰痛治療目的で来院
  • レッドフラッグ(ー)
  • メカニカルペイン(+)
  • 主訴:腰を反らす時の痛みがある。立ち上がり動作で腰が痛む

コンパラブルサイン

  • 立位伸展運動
  • 座位からの立ち上がり(時間的要素が関連している可能性あり)
  • 立位体前屈位からの復位

疼痛関連動作

  • パピーポジション

疼痛関連検査

  • (非実施)

患者の主観

  • 痛みの量や質の変化

セラピストの主観

  • 動作観察(コンパラブルサインと疼痛関連動作)
セラピスト「では、治療に入ります。宜しくお願いします。」
患者は腹臥位のまま、セラピストは痛みがあるとする部位(下位腰椎、ここではL5腰椎)の棘突起を腹側へ押す刺激を加える事にしました。(この手技の選択についての解説は行いません。とりあえず、痛むところにセラピストが何かしら刺激を与えてみようと思ってとった行動という解釈で構いません。この方法がファーストチョイスとなった理由は今後のシリーズで解説させて頂きます。)
セラピスト「この刺激でズキっと刺すような先ほど確認した痛みは感じますか?」
患者「はい。少し違和感がある程度ですが、痛む所に当たっている感じがします。」
セラピスト「この刺激を続けますが、もし、この違和感が痛みに変わってくるように感じたら必ず教えて下さい。」
患者「わかりました。」
この違和感を感じる程度の強度で、腹側に押す刺激を30秒ほど、2秒に1回のリズム(オシレーション)で刺激し続けます。
セラピスト「刺激中に痛みが出てくるという事はなかったですか?」
患者「大丈夫です。違和感を感じたのは最初だけです。」
セラピスト「では、腰を反らした時の痛みが変わっているか確認しますので、うつ伏せのまま先程のように腰を反らす動きをしてもらってもいいでしょうか?」
患者「痛みは、やっぱりありますね。」
セラピスト「痛みの強さとか、腰の反らしやすさとか、何かしら先程と違う感じはありませんか?」
患者「んー。痛みは変わっているかわかりません。違いはあまりわかりません。」
セラピスト「では、もう一度同様の治療を、少し刺激を強めて行います。刺激中に、痛み出す、もしくは増してくるようであれば必ず教えて下さい。」
患者「わかりました。」
先ほどより、やや強く、痛みまではいかない範囲の強度の刺激をもう一度行います。
セラピスト「先程の刺激されている感じとは変わりますか?」
患者「先程よりも、刺激に慣れた感じがします。」
セラピスト「では、もう一度、腰を伸ばす動きでの痛みを確認してみましょう。」
患者「あー。なんとなく良い気がします。でも痛みは残っています。」

 

ここまでのアセスメント

最初に用いた強度は、患者が違和感を感じる程度の強度で用いました。これは、痛みを感じる強度で治療を行う事による失敗を犯さない為の戦略です。そこでは、とりあえず、症状を悪化させないことを最優先にしています。次に、大丈夫と認められた刺激よりやや強めの刺激を用いて変化が生まれないかを確認しています。

患者は「慣れた感じがする」や「何となく良い気がする」という言葉で、最初との変化をセラピストに伝えました。
これは良い変化かはわかりませんが、悪い変化ではなさそうです。これを今後の試行錯誤法での手技の良し悪しの判断を行う基準の一つにします。

セラピスト「では、今感じた何となく良い気がするという刺激と、他の別の刺激に違いがあるかを確認したいと思います。ではうつ伏せのままリラックスしていて下さい。」
類似した別の方法(腹側ではなく、押圧を加えた状態で頭側への筋膜リリースのような刺激)を行います。
セラピスト(腹側への刺激加えながら)「この刺激と…」
セラピスト(押圧+頭側への刺激を加えながら)「この刺激…」
セラピスト「この二つの刺激には違いがありますか?」
患者「二番目の方が、より当たる感じがします。」
セラピスト「では、二番目の刺激を少し続けます。先程と同じように、痛みが出てくる、増してくる感じがあれば必ず教えて下さい。」
患者「わかりました。」
セラピスト「痛みが増すような事は無かったですか?」
患者「大丈夫です。」
セラピスト「では、この治療によって、腰を反らした時の痛みが変わるかをみてみましょう」
患者:セラピストからみると最初の確認時よりも強く腰を反らすように感じました。
患者「腰の痛みは、まだ感じるけど、さっきよりも腰が反らしやすくなっています。」

 

ここまでのアセスメント

先ほどの治療の反応を一つの基準にして、次は別の類似した治療刺激を比較する事で、新たな刺激が良いのか、最初の刺激が良いのかを判断しようとしました。すると、二番目に用いた刺激が先程より良い刺激と価値付ける事が出来ました。これは、患者の主観と、セラピストの主観(観察)、そして疼痛関連動作の改善から導き出された判断です。この変化していると感じたものが、偶然やプラセボではなく確からしいものかをみてみる必要があります。

セラピスト「では、ベットから起き上がって、腰を反らす動きや、曲げた状態から戻る動きで出ていた痛みがどうなっているか確認してみましょう。」
患者:ベットから起き上がり、まずは腰を反らす動きをしてみせました。
患者「最初よりかなり反らしやすく感じます。」
セラピスト「腰を曲げた状態から、戻る時の動きはどうでしょうか?」
患者「これも痛くありません。」
セラピスト「私が見ている分では、二番目に行った治療は効果があるなと感じました。腰を反らす動きの改善、そして曲げてから戻る時の動きのスムーズさ、そして痛みも軽減し、動きやすそうに感じます。どうでしょうか?」
患者「そうですね。今の治療で明らかに変わりました。腰の反らしやすさが違います。痛みもほとんど無いに等しいですね。」

 

ここまでのアセスメント

厳密に言えば、もしかしたら最初にやった治療の影響もあるかもしれませんが、ベット上での腰部伸展時痛と立位での腰部伸展時痛について、検査の過程で関連性を確認しているので、ベット上で起きなかった変化をベットから起こしてまで確認する必要はないと判断しました。そして、最初に用いた時の反応を基準に別の方法はどうかを比較する事でどちらに価値があるといえそうかを検証してみました。

最初の治療時ではみられなかった改善といえそうな反応を出す事が出来たので、立位時での症状の変化も同時に起きているかまで確認を行いました。もし、二番目の方法も最初と同じ反応だった場合は、どちらにも価値がないと判断し、また新たな類似した手技を比較をする事で手技の価値付けを行う事ができます。

もし、先程の方が良いです。と言った場合は、最初に選択した手技の方が価値があると判断する事ができます。

そして、ここで得られた良い変化を共通理解にしようとしています。これから先、「この良い変化がどの程度続いたか?」という話をする為に、治療によって良くなっている事について具体的に話しています。

そしてコンパラブルサインの中で時間的な要素が含んでいる可能性がある座位からの立ち上がりについては、その場で検証する事にあまり意義がないと判断し行っていません。

セラピスト「反らす動きを確認したところ、痛みが出にくくなっていますね。でも、座っている姿勢から立ち上げる時の痛みについては、出る時と出ない時があったので検証できません。それについては、この治療を終えた後、今日1日を通して、立ち上がる時の痛みが変化をしているかを見ていてほしいと思います。」
患者「わかりました。立ち上がる時の痛みがどうかを覚えておきます。」
セラピスト「特に治療した今日の感じが重要ですので、今日1日がどうかをしっかり覚えておいて下さい。」
患者「わかりました。」
不安定なコンパラブルサインについては、次回の治療はじめに確認する事としました。
セラピスト「この治療で良くなったという感じがするものが、どれくらい続くか、どのタイミングで戻ってしまうのかを次回来るさいに報告して頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
患者「わかりました。」
不安定なコンパラブルサインの確認に加え、今回の治療での良い変化がどれくらい続いたのかを次回確認するという事を伝えています。これは患者に与えた宿題になります。

二回目の来院(初回治療から1週間後)
挨拶などのやりとり割愛します。

セラピスト「現在の状態はどうでしょうか?前回、治療直後は腰を反らした時のズキっとした痛みが治療によって改善するところまでを一緒に確認しましたが、あれからは如何でしょうか?」
患者「あの後は調子良かったですね。でも次の日の朝は痛みがありましたね。治療したその日1日だけ良かったという感じです。」
セラピスト「やっぱり痛かったという痛みの程度は、今までの状態に完全に戻っていますか?多少なりと治療効果として残っているように感じますか?」
患者「少しは良くなった気がします。」
セラピスト「それともう一つ、治療中には確認していなかった、立ち上がる時の痛みはどうだったでしょうか?治療した後の、その日1日の感じはどうだったでしょうか?」
患者「立ち上がる時痛みも良くなっていました。その日1日だけですが、かなり楽になっていました。」

 

ここまでのアセスメント

二回目の治療前に、初回治療後の状態を確認しました。そこで得られた情報は、治療当日の1日は明らかな改善を維持し、次の日には痛みが出ていた。
効果の持続としては、少しだけはあるかもしれない。もしくは効果の持続はまったくないという事です。

セラピスト「では、もう一度前回、良かった治療を同じようにやってみます。それで、同じように良い反応が出るかを確認してみましょう。」
患者「わかりました。」
セラピスト「では、まず腰を反らす動きで痛みが出るか確認しておきましょう。」
最初の治療後の反応が、偶然に起きた変化でないと言えるなら、ここでも同じような治療刺激で同様の良い変化を起こす事ができるはずです。
セラピスト「では、治療に入ります。うつ伏せでお願いします。」
患者は腹臥位となり、前回と同様の治療刺激を加えます。
セラピスト「では、確認してみましょう。ベットから起き上がって、腰を反らしてみて下さい。」
患者「治療を受けた後はやっぱり楽ですね。」

 

ここまでのアセスメント

二回目の治療での効果を再度確認し、初回治療で出す事ができた良い変化は偶然ではないこと、予測した通りに良い変化を出す事を確認する事ができました。
初回の治療で二番目に用いた方法は、現時点でこの患者にとって適刺激であると言えそうです。

しかし、治療効果がどれくらい持続するかは、現時点で言える事は今日の1日だけです。
ここで介入を終え、次の来院時にもう一度確認してみる事も可能ですが、例え治療効果の蓄積ができたとしても、微々たるものではないかという判断をしました。

セラピスト「では、これからご自身で、私が行った治療と同等の事ができるようになって頂きます。今度は症状が戻った時に、今からお教えする方法をやって頂き、痛みを自己管理できるようにするという事を目標にするのはどうでしょうか?」
患者「わかりました。」

患者に痛みが戻った時のセルフケア方法を伝えます。もし、用いた適刺激が、患者自身で行う事ができる手技であれば、治療の方向性は、その適刺激を自分自身で行うことになります。

ゴール設定についての細かいやりとりは、割愛していますが、痛みをゼロにするという目標ではなく、痛みを自己管理していくという方向性で設定しています。

これが、一番正しい治療方法かは別として、とりあえず正しいと言えそうな事を提供する事ができます(これが「実際の対処法を専門的立場から提供すること」にあたると考えています)。

さらなる適刺激を探す必要があるといえる状況になるまでは、必要以上の介入は患者を病院漬けにさせてしまう可能性がある事に留意し行いませんでした。1週間この方法で自己管理を行い問題が解決しない場合は再度来院するように伝え終了しました。

 

最後に

ここまでの記事は、患者とのやり取りを実際の治療場面をイメージできるようにケースを挙げて記述しました。

具体的な治療方法を解説するという意図はないため、方法についての詳細は説明していません。それまでしてしまうと、伝えたかった「適刺激を探していく過程とそれをセルフエクササイズに組み込む」「治療を停滞さない事を意識する」という内容が薄れてしまうと思った為、詳しい説明は行っていません。決して出し惜しみしているわけではありません。

ちなみに、この二番目に行ったとされる治療は実際に上記の過程を通して、私自身で、その効果を検証してきたものです。「腰を反らす時の痛み」、「前屈からの復位時の痛み」、「立ちがり時の腰の伸ばしにくさ」には効果があると思います。そして、この刺激を座位や立位で、患者の腰を反らす動きを実際に行って頂きながら実施すると、より効果が出るという反応を確認しています。

この方法は自動運動併用モビリゼーションを推奨する治療手技と見た目は似ているかもしれません。その手技をパクっているわけでも、それとは異なる別の手技だという意味でもありません。

私自身の臨床での検証過程を通して得られた経験から、良い変化を出す事ができる物理的な刺激方法だと思っているだけです。何のエビデンスもありませんし、その改善のメカニズムについても一切考慮していません。椎間関節かもしれませんし、多裂筋への刺激かもしれませんし、他の未知な生体力学的変化を与えているのかもしれません。どういう刺激で痛くなるか?という事と同じように、どういう刺激で良くなるかを探しているだけです。

しかし、私なりの検証作業によって効果があると確認できた、私にとって頼りになる手技の一つです。もし宜しければ、適応する患者がいれば試してみて頂ければと思います。

前編・後編と分けて記事にしましたが、構成を考えずに記述してしまった為、分量が後編に偏りすぎてしまい、凄く長ったらしい記事になってしまいました。読み疲れたと思いますが、最後までお読み頂きありがとうございます。

次のシリーズは。。。

reasoning2
クリニカルリーズニングシリーズ2
「代表的な4つの推論様式」

内容
本シリーズでは、クリニカルリーズニングをすすめていく際に理学療法士の内部で起こっているであろう思考過程をまとめています。認知心理学的には、判断を下すための思考様式として4種類があると考えられています。
その4種類の思考様式を臨床場面に落としこんで解説しています。

 

【2015/12/1追記】

前記事と合わせてここで紹介した、適刺激を探していく流れ試行錯誤による推論法を選択した場合を説明しています。この方法が、唯一の方法ではありません。患者とセラピストの置かれている状態で、柔軟に変化するものです。最初は試行錯誤法で進めていたクリニカルリーズニングが、その後、その他の推論方法に変更したり、同時に進行させる場合もあります。同時に進行させる場合は、かなり複雑になるので、実際をイメージしやすく記事にする自信はありませんが、その他の推論方法については、それぞれ単独で、今回のような記事に仕上げる予定です(まだまだ先になると思いますが)。

その他の推論方法自体の説明については、「クリニカルリーズニングシリーズ2 代表的な4つの推論様式(まとめ)」を読んで頂ければと思っています。

また、今回のシリーズ1での付録記事では、オリエンテーションについてや、ゴール設定については割愛していますが、私自身が凄く大切にしている部分でもあります。宜しければ、そちらも合わせてお読み下さい。

(追記終了)

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