~ここまでのリーズニング~
本記事は、前回記事「【付録】適刺激を見つける過程-症例報告風-」のつづきです。
患者の治したいと思っている症状を問診でのやりとりを通して共通理解にしました。そして、疼痛を誘発させながら効果判定の道具となりそうなプレポストテストを設定する事ができました。ここからは試行錯誤法により適刺激を探していく検証作業を行っていきます。実際に「今目の前にいる患者にとって有効な治療刺激」を探していきます。
※追記(2015/12/1)があります。
試行錯誤法による適刺激を見つける過程(症例報告)
症例紹介です。
- 40代男性
- 腰痛治療目的で来院
- レッドフラッグ(ー)
- メカニカルペイン(+)
- 主訴:腰を反らす時の痛みがある。立ち上がり動作で腰が痛む
コンパラブルサイン
- 立位伸展運動
- 座位からの立ち上がり(時間的要素が関連している可能性あり)
- 立位体前屈位からの復位
疼痛関連動作
- パピーポジション
疼痛関連検査
- (非実施)
患者の主観
- 痛みの量や質の変化
セラピストの主観
- 動作観察(コンパラブルサインと疼痛関連動作)
ここまでのアセスメント
最初に用いた強度は、患者が違和感を感じる程度の強度で用いました。これは、痛みを感じる強度で治療を行う事による失敗を犯さない為の戦略です。そこでは、とりあえず、症状を悪化させないことを最優先にしています。次に、大丈夫と認められた刺激よりやや強めの刺激を用いて変化が生まれないかを確認しています。
患者は「慣れた感じがする」や「何となく良い気がする」という言葉で、最初との変化をセラピストに伝えました。
これは良い変化かはわかりませんが、悪い変化ではなさそうです。これを今後の試行錯誤法での手技の良し悪しの判断を行う基準の一つにします。
ここまでのアセスメント
先ほどの治療の反応を一つの基準にして、次は別の類似した治療刺激を比較する事で、新たな刺激が良いのか、最初の刺激が良いのかを判断しようとしました。すると、二番目に用いた刺激が先程より良い刺激と価値付ける事が出来ました。これは、患者の主観と、セラピストの主観(観察)、そして疼痛関連動作の改善から導き出された判断です。この変化していると感じたものが、偶然やプラセボではなく確からしいものかをみてみる必要があります。
ここまでのアセスメント
厳密に言えば、もしかしたら最初にやった治療の影響もあるかもしれませんが、ベット上での腰部伸展時痛と立位での腰部伸展時痛について、検査の過程で関連性を確認しているので、ベット上で起きなかった変化をベットから起こしてまで確認する必要はないと判断しました。そして、最初に用いた時の反応を基準に別の方法はどうかを比較する事でどちらに価値があるといえそうかを検証してみました。
最初の治療時ではみられなかった改善といえそうな反応を出す事が出来たので、立位時での症状の変化も同時に起きているかまで確認を行いました。もし、二番目の方法も最初と同じ反応だった場合は、どちらにも価値がないと判断し、また新たな類似した手技を比較をする事で手技の価値付けを行う事ができます。
もし、先程の方が良いです。と言った場合は、最初に選択した手技の方が価値があると判断する事ができます。
そして、ここで得られた良い変化を共通理解にしようとしています。これから先、「この良い変化がどの程度続いたか?」という話をする為に、治療によって良くなっている事について具体的に話しています。
そしてコンパラブルサインの中で時間的な要素が含んでいる可能性がある座位からの立ち上がりについては、その場で検証する事にあまり意義がないと判断し行っていません。
二回目の来院(初回治療から1週間後)
挨拶などのやりとり割愛します。
ここまでのアセスメント
二回目の治療前に、初回治療後の状態を確認しました。そこで得られた情報は、治療当日の1日は明らかな改善を維持し、次の日には痛みが出ていた。
効果の持続としては、少しだけはあるかもしれない。もしくは効果の持続はまったくないという事です。
ここまでのアセスメント
二回目の治療での効果を再度確認し、初回治療で出す事ができた良い変化は偶然ではないこと、予測した通りに良い変化を出す事を確認する事ができました。
初回の治療で二番目に用いた方法は、現時点でこの患者にとって適刺激であると言えそうです。
しかし、治療効果がどれくらい持続するかは、現時点で言える事は今日の1日だけです。
ここで介入を終え、次の来院時にもう一度確認してみる事も可能ですが、例え治療効果の蓄積ができたとしても、微々たるものではないかという判断をしました。
患者に痛みが戻った時のセルフケア方法を伝えます。もし、用いた適刺激が、患者自身で行う事ができる手技であれば、治療の方向性は、その適刺激を自分自身で行うことになります。
ゴール設定についての細かいやりとりは、割愛していますが、痛みをゼロにするという目標ではなく、痛みを自己管理していくという方向性で設定しています。
これが、一番正しい治療方法かは別として、とりあえず正しいと言えそうな事を提供する事ができます(これが「実際の対処法を専門的立場から提供すること」にあたると考えています)。
さらなる適刺激を探す必要があるといえる状況になるまでは、必要以上の介入は患者を病院漬けにさせてしまう可能性がある事に留意し行いませんでした。1週間この方法で自己管理を行い問題が解決しない場合は再度来院するように伝え終了しました。
最後に
ここまでの記事は、患者とのやり取りを実際の治療場面をイメージできるようにケースを挙げて記述しました。
具体的な治療方法を解説するという意図はないため、方法についての詳細は説明していません。それまでしてしまうと、伝えたかった「適刺激を探していく過程とそれをセルフエクササイズに組み込む」「治療を停滞さない事を意識する」という内容が薄れてしまうと思った為、詳しい説明は行っていません。決して出し惜しみしているわけではありません。
ちなみに、この二番目に行ったとされる治療は実際に上記の過程を通して、私自身で、その効果を検証してきたものです。「腰を反らす時の痛み」、「前屈からの復位時の痛み」、「立ちがり時の腰の伸ばしにくさ」には効果があると思います。そして、この刺激を座位や立位で、患者の腰を反らす動きを実際に行って頂きながら実施すると、より効果が出るという反応を確認しています。
この方法は自動運動併用モビリゼーションを推奨する治療手技と見た目は似ているかもしれません。その手技をパクっているわけでも、それとは異なる別の手技だという意味でもありません。
私自身の臨床での検証過程を通して得られた経験から、良い変化を出す事ができる物理的な刺激方法だと思っているだけです。何のエビデンスもありませんし、その改善のメカニズムについても一切考慮していません。椎間関節かもしれませんし、多裂筋への刺激かもしれませんし、他の未知な生体力学的変化を与えているのかもしれません。どういう刺激で痛くなるか?という事と同じように、どういう刺激で良くなるかを探しているだけです。
しかし、私なりの検証作業によって効果があると確認できた、私にとって頼りになる手技の一つです。もし宜しければ、適応する患者がいれば試してみて頂ければと思います。
前編・後編と分けて記事にしましたが、構成を考えずに記述してしまった為、分量が後編に偏りすぎてしまい、凄く長ったらしい記事になってしまいました。読み疲れたと思いますが、最後までお読み頂きありがとうございます。
次のシリーズは。。。
【2015/12/1追記】
前記事と合わせてここで紹介した、適刺激を探していく流れは試行錯誤による推論法を選択した場合を説明しています。この方法が、唯一の方法ではありません。患者とセラピストの置かれている状態で、柔軟に変化するものです。最初は試行錯誤法で進めていたクリニカルリーズニングが、その後、その他の推論方法に変更したり、同時に進行させる場合もあります。同時に進行させる場合は、かなり複雑になるので、実際をイメージしやすく記事にする自信はありませんが、その他の推論方法については、それぞれ単独で、今回のような記事に仕上げる予定です(まだまだ先になると思いますが)。
その他の推論方法自体の説明については、「クリニカルリーズニングシリーズ2 代表的な4つの推論様式(まとめ)」を読んで頂ければと思っています。
また、今回のシリーズ1での付録記事では、オリエンテーションについてや、ゴール設定については割愛していますが、私自身が凄く大切にしている部分でもあります。宜しければ、そちらも合わせてお読み下さい。
(追記終了)