治療の停滞させないために

【付録】適刺激を見つける過程-症例報告風-

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clinical reasoning1シリーズ1での適刺激を探していく過程を症例報告みたいにやってほしいとリクエストを頂きましたので、その実際のやりとり(ブログに記載するため、文言は多少変えていますが、意図する内容は同じです。)を記事にします。この記事の位置付けは、シリーズ1の付録記事になります。

 

 

試行錯誤法による適刺激を見つける過程(症例報告風)

症例紹介です。

  • 40代男性
  • 腰痛治療目的で来院
  • レッドフラッグ(ー)
  • メカニカルペイン(+)
  • 簡単な問診から「腰を反らす時の痛みがある」という情報が得られています。

 

コンパラブルサインを確認するところから解説していきます。

セラピストが使用する言葉で、重要なキーワードやフレーズは太字にしています。

セラピスト「では実際に腰を反らしてみて下さい。」
患者「こうやって腰を反らした時に痛みが出ます。」
腰を反らすと最終域で痛みを誘発することができました。
セラピスト「この痛みは、あなたが言っている治療したい痛みと同じ痛みですか?」
患者「そうです。この痛みです。」
セラピスト「腰を反らして出た痛みは、反らすのを止めれば、もう痛くはありませんか?その余韻が残っている感じはありませんか?」
患者「反らすのを止めれば痛くはないです。」
セラピスト「もう一度、同じようにやってみて、同じように痛みが出るかを確認してもらってもいいでしょうか?」
ここで、患者にもう一度、腰を反らすように後屈をして頂きます。
セラピスト「先ほど出た痛みは、同じように出ていますか?その痛みが、強くなっている、弱くなっているといった変化はありますか?」
患者「痛みは出ていますが、変化は感じません。」

 

ここまでのアセスメント

腰椎伸展運動で痛みが誘発できました。そして再現性を確認し、またイリタビリティーセンシティビティーが無い事を確認しました。とりあえず、痛みを再現させながら評価すすめていく事に問題はなさそうです。また、再現性が確認できているので、現時点で試行錯誤法による推論(「試行錯誤推論法によるクリニカルリーズニング」の再考を参照)を選択できそうです。

このまま問診を続けます。

セラピスト「日常生活で、この痛みに実際に困っているのですか?ここまで腰を反らす必要があるのはどういった時でしょうか?」
患者「普段の生活では、ここまで腰を反らす事はあまりありません。長い間、座っていて、いざ立とうとする時にこの痛みが出ます。」
セラピスト「座っていて、そこから立ち上がろうとした時にだけ、この問題が出るのですか?他にも、こういった痛みが出る条件というものはありますか?」
患者「他には、朝起きる時に、腰が伸ばしにくくなります。伸ばそうとすると痛みが出ます。」
セラピスト「では、この問診の間、しばらく座っていたのですが、立ち上がろうとしてみて、その痛みが出るかを確認してもらえますか?」
患者:実際にやって頂きます。
患者「はい、痛みが出ています。」
セラピスト「どこかを指し示してもらってもいいでしょうか?」
患者:中央で下位腰椎のあたりを指し示しています。body-chart1
セラピスト「今、指し示している、この一点だけに痛みが出ているのですか?他の場所にも痛みや違和感が出ていたりしますか?」
患者「この一点だけに痛みがあります。」
セラピスト「では、もう一度、座って頂いて、そこから立ち上がる際の痛みが、同じように出ているかを確認してみましょう」
患者:座位に戻り、そこからすぐに立ち上がる動作をもう一度確認します。
患者「少し違和感はありますが、今は痛くありませんね。」
セラピスト「では、(立ったままで、そこから)前屈をしてみて下さい。」
患者が立位体前屈をします。セラピストは、患者が前屈位を保持したまま質問を加えます。
セラピスト「今の段階で痛みは出ていませんね?では、そこから、先ほどの立位姿勢に戻ってみて下さい。この時に痛みが出ているかを確認してもらっていいですか?」
患者:開始肢位の立位に戻ります。
患者「今、痛みが出ます。戻ろうとする動きで痛みが出ていますね。」
セラピスト「この痛みは、日常生活上で感じる痛みと同じ程度の痛みの強さですか?後、どんな感じの痛みなのかを表現する事はできますか?」
患者「はい、だいたい同じ強さです。ズキっと刺すような痛みですかね。」
セラピスト「ズキっと刺すような痛みですね。」

 

ここまでのアセスメント

最初にコンパラブルサインとして確認したのは腰椎伸展運動の最終域での痛みでした。話を聞いていくと、座位からの立ち上がる際の腰が伸展していく動きで日常生活と関連性が高い痛みが出ていました。しかし、現時点で確認できている範囲では再現性はあまり高そうにはありません。座位の持続時間が痛みの誘発に関わっていそうです。そこで前屈からの復位で症状を確認したところ、そこでも痛みを再現する事ができました。前屈位からの復位に関しては時間的な要素は関わってなさそうです。

この患者のコンパラブルサインと言えそうなものは、

  1. 立位伸展運動
  2. 座位からの立ち上がり(時間的要素が関連している可能性あり)
  3. 立位体前屈位からの復位

の3つになります。そして、痛みの場所は患者自身が指し示した一点である事、イリタビリティーセンシティビティーがないこと立位伸展運動と前屈位からの復位に関して再現性があることが確認できています。痛みは「ズキっと刺すような」と今、治療対象とする痛みを名詞化する事までできました。座位からの立ち上がりに関しては、効果判定の道具としてはやや正確性に不安がありますが、日常生活上の疼痛動作と最も繋がりが強そうです。

ここからは、症状を誘発する事ができた腰の伸展運動と運動学的に類似していて、なおかつ、試験的な治療で用いる姿勢に近い状態の動作で痛みを誘発する事ができるかを確認していきます。

だいたいの場合、背臥位、側臥位、腹臥位を確認できていればいいと思います。

ここで全てを上げると冗長になってしまうので、腹臥位での確認作業のみを解説していきますが、流れ自体は他の肢位でも同じようにやっていると考えて構いません。

セラピスト「うつ伏せになって、腰を反らす動きをやってみて下さい。そして、腰に痛みが出るかを確認してもらってもいいでしょうか?」
患者:パピーポジションをとるように、腹臥位で腰部の伸展運動を行って頂きます。
患者「はい、やっぱり腰を反らすと痛みが出ますね。」
セラピスト「この痛みは先ほどのズキっと刺すような痛みと似ていますか?」
患者「はい、さっきと同じような感じです。」

 

ここまでのアセスメント

確認できているコンパラブルサインと同等の痛みがベット上で誘発できるかを確認しています。これは、その他の疼痛関連動作に当てはまります。患者の使用する言葉を使う事によって今治療対象としている痛みとは無関係の身体感覚とを区別しています。ここでは、先ほど確認した痛みと同じものをベッド上で再現できたと解釈しました。ベット上で再現できる事を確認していれば、後の試験的な治療の際に、ベットから起こさなくても確認をとる事ができそうです。

ここまででプレ・ポストテストに採用できそうな項目を列挙します。

コンパラブルサイン

  • 立位伸展運動
  • 座位からの立ち上がり(時間的要素が関連している可能性あり)
  • 立位体前屈位からの復位

疼痛関連動作

  • パピーポジション

疼痛関連検査

  • (非実施)

患者の主観

  • 痛みの量や質の変化

セラピストの主観

  • 動作観察(コンパラブルサインと疼痛関連動作)

3つから4つが準備できていれば、とりあえずその後の効果判定は可能なので、ここまでで疼痛を誘発させる事を終了します。また、これまでのやりとりで、症状の説明をセラピストの質問にしっかりと答えることができているので、患者の主観的な要素も効果判定の道具(プレ・ポストテスト)に採用できそうです。試験的な治療後の効果判定で変化を読み取る準備をする事ができました。

最初の試験的な治療はオリエンテーションのところで解説(オリエンテーションの重要性)したように、一つずつ丁寧に話しながら進めていきます。


少々長くなってしまいましたので、実際の流れを通した試行錯誤の過程についての解説は後編という事で次回記事「【付録】適刺激を見つける過程-症例報告風2-」に続きます。

リクエスト頂きましたが、症例を通しての解説をしようとすると純粋な症例報告というよりも、どうしてもこういった形での記述になってしまうのですが、どうかご容赦下さい。いい案・アドバイス等がありましたらいつでもお待ちしています。

お読み頂いた方、ありがとうございました。

次の記事→ 【付録】適刺激を見つける過程-症例報告風2-

 

 

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