ネット版 勉強会(症例報告、ケーススタディー)

症例報告③ 「2年間腰の痛みと姿勢の悪さに悩んでいた症例」

更新日:

2年間腰の痛みと姿勢の悪さに悩んでいた症例

今回の症例報告を担当して頂く方は、特定の徒手療法学派(※)で学ばれて、現在は、その徒手療法学派の認定セラピストとなっている理学療法士の平良雄司さんです。

徒手療法を学ぼうとした際、週末に開催される単発のセミナーだと、単なる技術論や、断片的な知識・理論のみに走りがちですが、1つの学派で基礎からしっかり学ばれると、その技術・知識の用い方がとても丁寧になるように感じます。

今回のネット版 PT-OT勉強会を開催するにあたり、(特定の学派で学んだ)徒手療法を用いて臨床に当たっている平良さんに症例報告をして頂く事で、「徒手療法に興味があって、これから学んでみたい」もしくは、「今、学んでいる最中」という方にとって、価値ある情報を提供できるのではと思い依頼させて頂きました。

現在は、理学療法士養成校の教員をする傍ら、臨床で実際に徒手療法を用いて治療にも当たっています。

徒手療法と縁のなかった療法士にとっては、使用する言葉や、評価の展開に少し特殊性を感じるかもしれませんが、そういった事も含めて、疑問に思う事は是非、質問してみると良いと思います。

※ 学派名を出さずに「特定の学派」としたのは、深い理由はありませんが、団体名を出す事は控えさせて頂きました。しかし、特殊な学派ではなく、関節モビリゼーション、筋膜リリースなどの一般的な手技に加え、バイオメカニクスを意識した運動療法を取り入れるなど、理学療法領域内では一般的な手技・治療技術を扱う徒手療法学派です。

では、「2年間腰の痛みと姿勢の悪さに悩んでいた症例」を発表して頂きます。

 


2年間腰の痛みと姿勢の悪さに悩んでいた症例
琉球リハビリテーション学院 平良 雄司

2年前から、腰の痛みと姿勢の悪さに悩んでいた60代女性。彼女は腰の痛みで受診し、腰椎椎間板症と診断された。腰が伸びないことをとても気にしており、腰痛は同じ姿勢を持続的に続けること(主婦業)で出現していた。

運動習慣はウォーキングを2年程前まで行なっていたが、左の膝に水が溜まるようになった事と腰が痛くなっていきた事でウォーキングは自粛していた(現在はほとんど運動習慣は無い)。

疼痛部位は腰背部に認め、疼痛の性質から、Aδ線維刺激(1次性疼痛:鋭痛)による痛みでは無く、C線維刺激(2次性疼痛:鈍痛)の刺激であると判断した。

まず、私が行なった事は、今訴えている疼痛は重篤な疾病が起因するレッドフラッグではないか確認する事であった。聴取と触診などでレッドフラッグではないと判断し、検査に移った。

検査・治療の際、腰痛出現から2年が経過していることから、痛みの恐怖回避モデルの悪循環を遮断する為、否定的な言葉は使わず対応することに努めた。

 

〈理学所見〉

●視診
立位:左膝関節やや屈曲位、胸椎後彎減少左側彎、右肩下がり、頚部左側屈
座位:胸椎左側屈、右肩下がり、頚部左側屈
臥位:左腸骨後方回旋 中位胸椎(Th7頂点)右凸、上位胸椎左凸

●自動運動
立位
前屈:腰椎骨盤リズム無し 後屈:腰部に痛み出現L3-4レベルで帯状の疼痛
側屈:右側屈制限 回旋:右回旋制限

座位
側屈:右側屈制限、回旋:右回旋制限

 

●荷重伝達テスト
片脚立位:両側にてふらつきあり、体幹を前傾させる。また、右立脚時ドゥシャンヌ出現

※骨盤帯正中化、胸椎正中化にて再評価。

〈骨盤帯・胸椎正中化後理学所見〉

●視診
立位:左膝関節やや屈曲位、胸椎後彎減少、胸椎左側彎(やや是正)、右肩下がり、頚部左側屈
座位:右肩下がり、頚部左側屈
臥位:体幹上位胸椎左凸

●自動運動
立位
前屈:腰椎骨盤リズム見られない。 後屈:腰部に痛み出現
側屈:右側屈制限(やや是正) 回旋:右回旋制限(やや是正)
座位
側屈:無し 回旋:無し

●荷重伝達テスト
片脚立位・・・体幹を前傾させる。右立脚時ドゥシャンヌ出現

●その他
両腸腰筋圧痛+(右腸腰筋>左腸腰筋)

骨盤帯・脊柱正中化により、座位姿勢、自動運動の改善は見られるも、立位での姿勢、自動運動に大きな変化はなかった。また、立位後屈での自動運動で痛みが出現したため、腰椎伸展による椎間関節への圧迫力増大による疼痛出現と考えた。

そこで、腸腰筋の圧痛を確認したところ、両側腸腰筋の圧痛を認め、腸腰筋のリリースを行った。その後は、体幹後屈時の痛みは軽減し、ここで初診時の理学療法を終了した。

ここまでの所見として、自動運動時の疼痛は後屈で出現した事、骨盤帯・脊柱の正中化により、座位の姿勢と自動運動は改善したものの、立位での姿勢、自動運動では大きな改善は見られなかった。その要因として、左膝関節の伸展制限が考えられる。

本人が語ったように2年前に膝に水かたまるようになり、ちょうどその頃から腰痛が出現してきている事を考えると関係がありそうである。

2回目の診療時にアライメントの変化と痛みの変化を評価し、膝関節の影響を見る事とした。また、初診時は疼痛の恐怖回避モデルからの脱却を促すため、体幹回旋制限の改善と骨盤帯正中化に伴う股関節内旋制限の改善を本人と確認し、身体変化が起きる事を認識してもらった(治る可能性を本人に自覚させる)。

 

1週間後・・・

2回目の診療では、初診時と同様の所見がみられたが、腰痛に関しては家事が何となく楽になったという事であった。だが、主訴にて右の頚部から肩にかけて鈍痛があるという事であった。頚部の痛みに関しては、右肩下がりと左側屈の姿勢から、長時間の同姿勢保持により、右頚部~肩にかけての伸長ストレスによる痛みであると考えられた。

初回同様、骨盤帯・脊柱の正中化後、骨盤帯・腰椎・胸椎・股関節・膝関節疼痛誘発テストを行い全て陰性であった。その後、各関節の他動運動テストにて、L5-S1、L4-L5、L4-L3間にて過少運動性(屈曲・伸展)、両股関節の屈曲・伸展可動域制限、膝関節ROM伸展、左-10°、右-5°であった。

脊柱過少運動性分節の上下の分節は過剰運動になり疼痛誘発テスト陽性を示すことが多々あるが、それらの所見は見られなかった。その後、腰椎モビライゼーション、股関節周囲筋リリース(大腿直筋、腸腰筋、内転筋群)、膝関節伸展モビライゼーションを行い、視診、自動運動、荷重伝達テストを行った。

●視診
立位:胸椎後彎減少、右肩下がり、頚部左側屈
座位:右肩下がり、頚部左側屈

●自動運動テスト
前屈:腰椎骨盤リズム見られない 後屈: 側屈:特になし 回旋:特になし

●荷重伝達テスト
片脚立位・・・両側にてふらつきあり、右立脚時のドゥシャンヌ是正

右肩下がりの姿勢と頚部の左側屈位は是正されなかった。また、回旋可動域は左に制限されていた。そのため、上位胸椎の正中化を行った。右肩下がりの姿勢は是正されたが、頚部左側屈は是正されず、頚部も左回旋制限は残されていた。

左肋骨3番目に圧痛を認め、アームリフトテスト(座位)により陽性であった。肋骨位置を徒手的に是正するとアームリフトテストは陰性に変化した。だが、頚部の側屈はそのままであり、回旋制限も同様であった。

そのため、左側屈、右回旋の主動作筋である胸鎖乳突筋のリリースを試みた。その後、左側屈制限、回旋制限は改善された。また、全ての検査治療後の身体変容について、鏡を利用し姿勢の変化と動きの変化を本人と確認しながら行ない、胸椎の後彎減少に対して胸椎後彎促通トレーニングを行った。

その後、毎週1回の治療にてその都度、アライメントの修正と運動指導を行ないながら、活動量を上げていき、約3カ月にてリハビリ終了となった。

 

<アプローチ>

骨盤帯・脊柱正中化、腰椎、膝関節モビライゼーション、股関節周囲筋リリース、胸椎非特異的モビライゼーション、胸椎MTT、膝伸展筋トレーニング、腹横筋トレーニング、

本症例の腰痛の原因と考えられるものは、①膝関節伸展制限による脊柱アライメントの変化に伴うもの(knee spaine syndrome)、②長時間の同姿位による椎間板内圧の上昇と考えられた。①は膝関節伸展可動域の違いからの、骨盤帯・脊柱の捻じれによる腰背部筋緊張の異常による疼痛と考えられ、骨盤帯・脊柱の正中化後、膝関節伸展可動域モビライゼーションを行った。

また、②は脊柱アライメントの胸椎後彎減少、腰椎の前彎減少、腰椎他動運動での過少運動性から、フラットバックと脊柱可動性の低下による長軸圧の分散能の低下による椎間板性の疼痛、腰背部の過剰収縮と考えられた。

腰椎に対してはモビライゼーション(屈曲・伸展)を行いニュートラルスパインの指導、胸椎に対しては後彎促通の運動療法(MTT)を指導し、徐々に活動量を上げていった。

また、腰痛と体が真っすぐにならないという主訴が2年間続いていたため、疼痛恐怖回避モデルの負のスパイラルからの脱却を促すことが重要であると考えていた。

そのため、初診時から常に身体変化を自覚できるように鏡を使用しながら変化をフィードバックしていった。

それが功を奏したのか、2回目の診療時は全ての理学所見は初診時とほとんど変わらないが、腰痛の主訴は軽減していた。

今回、ポイントとしたところは、2年前に特に外傷もなく膝に痛みが出現し、膝に水が溜まるようになったという本人の訴えであった。

骨盤帯・脊柱の正中化後の姿勢評価(座位、立位)からknee spaine syndromeを疑ったが、膝関節の外傷歴が無く、痛みが出現していることから生活スタイルの中での膝関節へのストレスが膝痛を誘発した可能性がある。

疼痛が外傷による訴えで無い場合、既往歴の聴取、生活スタイルの聴取、On setの確認、心理社会的要因の影響などを考慮し評価を行い、生活スタイルの指導、精神的ケアを含めながら理学療法を進めていく必要がある。

 

平良さん、お忙しい中、記事制作をして頂きありがとうございました。

平良さん有難うございました。本投稿記事「2年間腰の痛みと姿勢の悪さに悩んでいた症例」をお読みになった方で、平良さんに質問がある方は、下のコメント欄に書き込んで頂けると、一週間程は平良さんからの返信があるかと思います。

当企画は、閲覧者が質問しやすいように、匿名でのコメント記入ができるようになっています。質問は7月24日(日)までの受付となっています。質問への返答は少々遅れる事もあるかと思いますが、その点はご了承下さい。

【症例報告②の質疑応答は終了しました。】

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