ネット版 勉強会(症例報告、ケーススタディー)

症例報告①「重度の脊椎圧潰をきたした腰痛症に対する介護保険下でのアプローチについて」

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症例報告①重度の脊椎圧潰をきたした腰痛症に対する介護保険下でのアプローチについて

今回のネット版 PT-OT勉強会の最初の発表者はrehatora.netを運営する中尾さんです。私がネットを活用してブログという形で情報発信するようになってからお付き合いのある方で、ブログ運営の大先輩です。

投稿されているブログ記事の方は非常に読みやすく、療法士にとって為になるものばかりです。また、ブログのアクセス数も半端ない(月間50万PV)ですし、書籍なども出していて、この分野でのトップレベルの理学療法士だと思います。

過去に介護保険下でのリハビリを実施していたとのことで、その時に担当した症例(腰痛症)についての発表して頂きます。

 


重度の脊椎圧潰をきたした腰痛症に対する介護保険下でのアプローチについて
rehatora.net 管理人 中尾浩之

私はこれまでに四度の転職を経験しており、医療保険でのリハビリと介護保険でのリハビリのどちらをも経験しています。

通俗的には医療保険と介護保険におけるリハビリの意味合いは異なるとよく言われますが、実際の施術内容としてはほとんど変わらないことを実感しています。

どちらも評価、問題点の抽出、目標設定、治療といった一連の流れに変わりはないからです。

しかし、介護保険下では医師の診断がほとんど得られない場合も多く、画像所見などを閲覧することも難しいのが現状です。

そのため、我々のような療法士でも実施可能な徒手的検査や評価が利用者の状態を把握するためにはより重要な意味合いを持つことになります。

今回、私が以前に勤めていた通所リハの利用者に焦点にあてて、簡単な症例報告をさせていただきます。

症例報告

以下の基本データは、ケアマネからの情報提供にて把握可能な部分です。これらに加えて、現在の生活状況などが詳しく書かれています。(今回は割愛)

症例 80歳代
既往歴 (70歳代)両変形性膝関節症
(70歳代)第1腰椎圧迫骨折
合併症 高血圧性心臓病
高コレステロール血症
居宅サービス計画 痛みの緩和を図り、庭の散歩や運動を行う。出来る家事を継続し、安全に外出して楽しみを持った生活ができるように支援する。
利用者の希望 足の上がりが悪く下肢筋力低下を感じている。転ばないよう気をつけて庭を散歩したい。

上記の基本情報をもとにして、次は実際に利用者を評価していくことになりますが、通所リハの計画書に記載すべき必須事項は以下の三点になります。

  1. 心身機能(運動機能、疼痛、関節拘縮など)
  2. 活動状況(ADL、IADL、環境因子)
  3. リハビリテーションサービス内容(頻度、時間、期間、モニタリング)

医療保険下での計画書との違いとして、ケアマネや他事業所のスタッフと情報を共有する目的があるため、誰が読んでも理解ができるように記載内容は端的なチェック項目となっています。

もちろん利用者の状態を把握するために、カルテなどにはより詳しく評価などを書き込んでいくことになります。

以下に腰部に絞った簡潔な評価情報を記載します。

姿勢 立位時:疲労感が強い、重度の円背
端座位:疲労感なく可
腹臥位:痛みはあるも可
疼痛 腰痛:臥位になる(+++)、寝返る(+)、起き上がる(+)、背中を伸ばす(++)、歩く(++)
筋肉 背筋群全体の筋力低下、過度な緊張、圧痛
拘縮 腰椎伸展に軽度~中等度制限(下部胸椎から上部腰椎にかけて圧潰)
認知症 なし
ADL BIスコア:70点
①平地歩行:自宅は両手四点杖、通所リハでは押し車利用(押し車のほうが疲労感は少ない)
②入浴:デイケアのみ

これらの情報から読み取れる障害像としては以下があります。

  • 脊椎圧迫骨折が既往歴にあり、経過とともに圧潰が進んで円背変形をきたしている可能性がある
  • 合併症には記載されていないが、重度の脊椎変形をきたすほどなので骨粗鬆症も進行していることが予測できる
  • 重度の圧潰変形があるにも関わらず、腹臥位がとれるということは脊椎の可動性は確保されている(不安定?)
  • 立位時の疲労感が強いのは、円背(前方重心)となった身体を支えるために背筋群に過度な収縮が求められているからではないか
  • 臥位になる際や背筋を伸ばした際に激しい痛みが起こるのは、急激に脊椎が伸展されることで力学的ストレスが加わった影響と考えられる

以上のことを考慮して、次は目標設定と問題点の抽出について検討していくことになります。

ここで注意が必要なのですが、目標設定はあくまで居宅サービス計画が基準であるため、ここと整合性のとれていない内容は設定すべきではありません。

今回の症例では、痛みの緩和、転倒なく散歩ができる、家事を継続するといった内容が居宅サービス計画にて設定されています。

これらを総合的にクリアするためには、前方重心を改善し、背筋群の負担を減らすことが最も有効であることが予測できますが、残念ながら一度潰れてしまった背骨はもう二度と元に戻ることはありません。

しかし、ここでもう一度評価を見直してほしいのですが、本症例は背骨が潰れて腰が曲がってしまっているにも関わらず、ベッド上では腹臥位をとることができます。

それならば、理論的(関節可動域的)には立位での円背姿勢を改善することも可能であると考えられます。

そこで治療プログラムとしては、以下の介入を実施することにしました。(ざっくりで申し訳ありません)

  1. 背筋群のリラクセーション
  2. 背筋群の筋力強化
  3. 脊椎伸展運動

背筋は運動に関わるメジャー筋(脊柱起立筋群)と姿勢保持に関わるローカル筋(多裂筋など)があるのですが、ここではどちらにもアプローチしていくことにしました。

具体的なプログラムとして、多裂筋の強化には仰臥位でのブリッジ運動、脊柱起立筋群には腹臥位からの脊椎伸展運動を実施しました。

脊椎伸展運動はマッケンジー法にちかいのですが、リラクセーションを目的とはしていないので、脊柱起立筋群の収縮が発揮できるように徒手的な刺激を加えて意識させながらのアプローチを行います。

これらの運動は自宅でも可能なので、無理のない範囲で行うようにセルフトレーニングとしても取り入れることにしました。

このプログラムを中心に週2回、1年間のアプローチした結果が以下になります。変化があった箇所のみ赤文字で記載しています。

姿勢 立位時:変化なし
端座位:変化なし
腹臥位:痛みはなし
疼痛 腰痛:臥位になる(-)、寝返る(-)、起き上がる(-)、背中を伸ばす(+)、歩く(++)
筋肉 背筋群の筋収縮がやや改善、圧痛軽減
拘縮 変化なし
ADL 変化なし

アライメントの変化は認められませんでしたが、動作時の痛みが大幅に改善したことが特筆すべき部分です。

この間に腰痛の憎悪などもなく、圧迫骨折の再発なども起こりませんでした。

考察として、脊椎の圧潰が起こっている患者において、筋力の向上のみでアライメントを戻すことはやはり不可能と言わざるをえません。

また、高齢者には負荷の高いプログラムを設定することは難しく、姿勢矯正できるほどの強化は難しいと考えられました。

しかし、起居動作時の疼痛や圧迫骨折の再発予防には十分な効果があると考えられ、積極的にアプローチしていくべきことには何らの疑問もありません。

少し精神論的な話になりますが、構造的な変化だから無理だと諦めていたら、やはりそういった感情はすぐに相手に見透かされてしまいます。

こちらが諦めずにアプローチしていくことで、そういった気持ちを相手も受け止めてくれて、とても感謝される場面も多いのです。

介護保険下のリハビリでは、あまり変化が認められない場合も多く、同じ相手と何年以上も関わっていくことになり、モチベーションが持たないセラピストも多いかと思います。

しかし、ひとりの利用者の経過を何年も追えるというのは、それはそれで貴重な経験ができているといえます。

普通なら難しいと考えられるようなことでも、長期的なアプローチだからこそ実現できることもあるはずです。

そのような介護保険下でしか味わえない魅力を見つけ出していくことで、より臨床が楽しくなるのではないでしょうか。

 

中尾さん、お忙しい中、記事制作をして頂きありがとうございました。

中尾さん有難うございました。本投稿記事「重度の脊椎圧潰をきたした腰痛症に対する介護保険下でのアプローチについて」をお読みになった方で、中尾さんに質問がある方は、下のコメント欄に書き込んで頂けると、一週間程は中尾さんからの返信があるかと思います。(お忙しい中、無理を言って質疑応答までお願いしています。)

本来であれば、執筆料なども必要になるのですが、それを出す力が、当サイトにはない事を伝えると、「大丈夫です。やりましょう!」ととても有難い返答を頂きました。とても素敵な方です。

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