徒手療法を学ぶ前に大切な事

1.徒手療法によって症状が良くなるメカニズムについて。 若手療法士へのアドバイス

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クリニカルリーズニングシリーズ9徒手療法による効果は確実にあると信じていますが、そのメカニズムが何なのかは、私自身、あまり良く分かっていません。

それは、決して、徒手療法に関する基礎的な勉強を怠っているからではないつもりです。

むしろ以前は、物凄く好きな学術領域で、ちゃんと答えを見つけ出したいという一心で、色々な学派が展開している治癒メカニズムに関する情報(知識)については、それなりに一生懸命学んでいたと思います。

しかし、勉強すればするほど、矛盾する情報が出たり、自分なりにこの仮説は臨床的にあり得ないなと思っているものが、とても論理的に解説されていたりすると、なんて適当な学術領域なんだろうかと感じるようになりました。

(例えばですが、)

腰部・骨盤帯へ用手接触し見た目は変わらない手技が、学派によって仙腸関節の離開と言ったり、筋膜への接触と言ったり、特定の受容器への感覚入力と言ったりしています。

もしそうだとしても、それ以外の事については一切考慮せずに、自分たちがそうだと信じているものを、とても論理的に説明するので、どっちを信じたら良いか分からなくなってしまいます。(1つに絞って狭い視野で勉強した方が本当に楽な領域です。)

 

臨床経験との不一致が大きいという現実

痛みと交感神経の関係を熱く語る徒手療法家・学派は多くありますが、私がペインクリニックに勤めていた範囲で得た経験からは、星状神経節ブロックや腰部交感神経ブロックで、痛みが明快に治癒するという事はなく、付随した症状の一部に変化が起きる程度に過ぎませんでした。(理学療法士が評価した上で、評価目的のブロックの依頼をする事ができる病院でした。)

また、椎間関節性疼痛と判断したくなる、腰部の伸展時痛や、伸展位でのカップリングモーションによって再現される腰部痛が、本当に椎間関節に問題があると言い切るには、すごく不確実な要素が大きすぎます。(カップリングには色々な説がありコンセンサスは得られておらず、伸展時痛は椎間関節のみストレスを与えているわけでもありません。)

また、椎間関節性疼痛や、ファセットシンドローム、ファセットジェニックペイン、など立派な言葉は沢山ありますが、椎間関節ブロックで、腰椎の伸展時痛が消えた症例にも残念ながら出会った事は記憶にはありません。

 

ブロックというのは、機能的診断という視点に立てば、非常に有効な診断・評価技術です。

ブロックに使用する局所麻酔剤が効いている間に症状が消えてしまえば、「その局所麻酔剤を注入した部位が、痛みの原因である」という事が非常に言いやすくなるからです。

  • 痛みの原因が交感神経にあるかのような論理的な説明が行われているテキスト
  • 椎間関節性疼痛の確認方法からその治療法までを論理的に解説しているテキスト

これらを読んでいる時は、とてもスッキリして、なんだかすごい臨床家になったような気がしましたが、

そこに書かれていた事を、私の臨床でも同じように感じる事はほぼ出来ませんでした。すべてを事細く記憶しているわけでも、記録をとっているわけでもないので、間違っていると断言まではできませんが、少なからず臨床上の重要性は一切感じませんでした。

椎間板性疼痛をL2のルートブロックで治療できるといった千葉大学の論文をひっぱってきて、腰部椎間板の主要な神経支配がL2神経根であるかのような説明を行う徒手療法学派もありますが、実際にそれを確認したのかを聞くと、所詮目新しい研究を引っ張ってきただけで臨床体験を伴っていないものばかりです。

そして、その論文を引用して練り出された治療方法で、「椎間板性疼痛の場合は、L2ルートが出てくる椎間孔を構成するL2/3椎間のモビリゼーションをしましょう」というものまでありました。正直、意味不明です。

ちなみに、私が経験してきた範囲では、そもそも、L2のルートブロックで椎間板性疼痛を治療できるという実感を持つ事はありませんでした。(研究そのものに対する指摘ではなく、自身の臨床現場では再現する事ができなかったという意味です。)

 

では、どうすべきなのか?

私自身は、目の前で起こっている事(現象)と患者が説明する事、そしてその担当療法士が近く(現場)で診て感じたものが、臨床の全てと思っています。

この「目の前で見た・感じたもの」が、どう変化していくかを読み取る事が大切で、

その変化を見ようとせずに、

  • 交感神経が関与している。
  • これは椎間関節性疼痛だ。

というような症状の原因についての説明をすることは、何の価値もない事だと感じるようになりました。

 

大切な事は、「与えた刺激がどう反応を示すか」についてできるだけ丁寧に診ていく事だと思います。

腰椎伸展運動で痛みが出る患者が、リハビリ室で腰椎伸展運動をした際に、痛みが誘発されるが、抵抗域を行ったり来たりするような自動運動を繰り返す事によって痛みが軽減した場合は、この人の自主訓練は、抵抗域近くでの低負荷腰椎伸展運動です。

メカニズムは分からないとしても、危険性(レッドフラッグではなく、疼痛を繰り返してはいけないと思う臨床所見はない)の排除さえしっかり行えていれば、この運動によってセルフケアができるという事を説明(指導)できるはずです。

そして、「改善している」というところまでは確認できているので、確実に一定程度の効果はある、その人に合った自主訓練です。

似たようなパターンで考えていくと、上記のような患者(伸展運動での腰痛)が自動運動では、かえって腰痛が増悪してしまうという場合を考えてみます。

「この伸展時痛がどの椎間で起こっているか」を確認しようと腹臥位になってもらいフェーダーテストを行ったところ、L4棘突起を介しての前方への他動運動で疼痛が再現できたとします。

 

ここでの反応がどう出るかについては、結局のところ確認するしかありません。

もし、自動運動で反復したら悪化したとしても、このL4棘突起を介しての前方への他動運動でも同様に悪化していくかは分かりません。

では、実際にやってみます。

まずは、軽く痛みが再現されるところまでをイメージして、L4棘突起を介しての前方への他動運動を加えます。

疼痛が再現されました。

そこで、再現性をもう一度確認しました。ほぼ同じような症状が再現されました。

これが、良い刺激なのか、悪い刺激なのかは現時点では分かりません。

少し反復しながら、

「少しこの刺激を繰り返します。今感じている痛みが、強くなるか弱くなるかを、ご自身の感覚で感じてもらえますか?もし痛みが増すと感じたら必ず報告して下さい。」

続けながら、
「逆に痛みに慣れてきたとか、さっきの痛みが消えたというような事はありますか?」

これを確認する事で、この刺激が治療刺激になり得るかが分かります。

「判断に困らないためにも、プレポストテストを網羅的に準備しておく方が望ましい」という事を運動器フォーラム2016で話させて頂きました。運動器フォーラムに関連する記事については、当記事下部にリンクを貼っています。

もし、椎間関節性疼痛だという事を最初の疼痛が誘発された時に決めつけていたら、そこからの治療法は、弱いグレードのモビリゼーションか、離開方向(ファダーフと言ったりします)へのモビリゼーションという限定的なアプローチになり、療法士自身の首を絞めてしまう(選択の幅を狭めてしまう)と感じます。

 

この、改善(治癒)のメカニズムに対する限定的な仮説を持たない事は、臨床をとても健全にしてくれると感じています。

私自身、「現象をみる事にこだわろう」と考えるようになってからは、患者とのやり取りが凄く丁寧になりましたし、自分の臨床に嘘をつかなくなります。

もし、既に特定の学派に所属していたりして、限定的な治癒メカニズムを重要視されているなら、一度、そこから離れて臨床結果をみてみる事は、自身の成長に良いように繋がるかもしれません。

治癒メカニズムについては、多くの臨床体験を経て、そこから後付で良いのではないかと思っています。現時点では、「疼痛」についても、「(痛みに関わる)生体力学」についても分かっていない事がとても多いはずで、既存の知識や理論だけで現象を説明しようとすると必ず問題が起こります。

私自身は、何かしらの見る事のできないメカニズムを考慮するよりも、目の前で起こっている現象に向き合う事が大切だと思っています。徒手療法を学びたい・学ばれている若手療法士へのアドバイスになっていれば幸いです。

今後、いくつかこういった記事(若手療法士へのアドバイス)を書く予定ですので、今後も読んで頂ければと思います。宜しくお願い致します。

「治癒メカニズムに拘らない」という事と、「徒手療法の危険性を考慮していない」という事は全く別物です。疼痛誘発や診断的トリアージ(レッドフラッグサイン)、疼痛誘発を行うべきでない臨床判断などについては、運動器フォーラム2016(セミナー)で解説させて頂きました。また、その時のスライドを用いて、ブログ用に書き下ろした4部作がありますので、宜しければそちらも合わせてご覧下さい。→運動器フォーラムを終えて。無料PDF案内(運動器フォーラム2016にご参加頂いた皆様へ)

ブログ用に書き下ろした4部作

  1. 痛み治療において重要だと思う事。-非特異的腰痛と徒手療法と臨床推論-
  2. 診断的トリアージ -非特異的腰痛と徒手療法と臨床推論-
  3. 構造障害の重要性(診断的知識の必要性について)-非特異的腰痛と徒手療法と臨床推論-
  4. 疼痛誘発ができない場合に考慮すべき事-非特異的腰痛と徒手療法と臨床推論-

 

次の記事→ 2.疼痛誘発検査で痛みを再現できた場合の次の展開(行動)について

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