このシリーズは、学生向け、もしくは実習指導経験の浅い理学療法士向けに、クリニカルリーズニングシリーズと並行して作成しています。
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「ADL評価で何を見るか?」について、ファンクショナルリミテーションという用語を交えて解説します。
「ADL評価で何をみるか」
それは、
- できるADL
- しているADL
の状態を把握するという事が、1つ挙げられると思います。
そして、この時に重要になってくるのは、それを「どのように行っているか?」です。
何の問題もなく行えている場合は、特別に難しく考える事なく、「このような形でできています。」という事がわかるように記載すれば良いと思います。
しかし、理学療法士が何かしらの問題に気づいたり、患者の希望としている状態に達していない場合は、それが何故かを考える必要が出てきます。
日常生活動作の中で、問題となっている項目が何かを把握する。
問題としていくつか挙がった場合は、その問題があるADLを遂行できない共通した理由がある事が多いです。
例えば、
- 立位での姿勢を保持する事を求められる課題で、介助を要してしまう。
- 立位姿勢を保持した上で上肢機能を求められる課題で介助が必要になる。
- 課題自体は達成可能だが、そこまでの移動が難しく、そこに介助を要してしまう。
などです。こういった、制限されているADLの中で共通した問題が根本にある場合は多いです。
そして、この共通した問題というのが、ファンクショナルリミテーションになります。機能的制限と言われるものです。
複数の日常生活動作に問題がある場合は、だいたいの場合に何かしらの機能的制限が隠れているはずです。
ですので、日常生活動作としての問題になるような、何かがあれば、そこに共通しているファンクショナルリミテーション(機能的制限)を探す事が重要になってきます。
もし、複数の日常生活動作に問題があるのではなく、たった1つの項目が減点である場合は、その課題そのものにある特有の条件が問題のカギとなっているはずです。
ファンクショナルリミテーションの代表的なものには、
- 何かしらの課題を行う際の立位・座位姿勢保持(下肢・体幹)
- 移動としての歩行機能(下肢)
- 物に手を伸ばすリーチ動作機能(上肢)
- 手作業としての巧緻動作機能(上肢)
などです。こういった機能に問題があり、複数の日常生活動作に支障をきたしている事が予測されます。
ですので、下記のように日常生活動作の問題とファンクショナルリミテーションの繋がりを捉える事が重要です。
まず日常生活動作の問題を把握する。
↓
問題のあるADLに隠れている共通項を探す。
↓
ファンクショナルリミテーション
↓
ファンクショナルリミテーションについて評価・治療
↓
日常生活動作の改善を図る
このように、複数の日常生活動作に問題がある患者の場合は、その問題1つ1つに取り組むのではなく、そこの根底にある機能的制限を探し、その機能的制限についての評価へと展開していきます。
機能的制限の評価としては、日常生活で求められる場面を想定して動作観察・分析の項目を作る事で対応します。
日常生活動作そのものは遂行可能だが、そこままで移動する事ができない患者の場合は、基本的には歩行が重要な評価項目となるはずです。
しかし、移動するために必要な機能は、直線歩行や直進歩行、10メートル歩行だけではないはずです。
- 床からの立ちがり
- 方向転換
- 応用歩行(横歩きや、後ろ歩き)
こういったものが、歩行を評価する事と合わせて重要になってきます。
結果的には、こういった項目が、検査項目として個別で上がってくる動作検査(動作観察・分析)になります。そして、動作検査を行う際の設定条件は、日常生活動作の結果が反映されるであろう条件のもとで行うのが重要です。
中には、ファンクショナル・バランス・テスト(FBS)などのように総合的にファンクショナルリミテーションを評価しようとしているものもありますので、そういったものを利用するのも1つの選択肢です。
ファンクショナルリミテーションを評価する際の選択すべき動作項目は、先に挙げたように日常生活動作の問題に共通している機能的な問題について評価する事です。
ただ単に、理学療法士だから、
- 臥位姿勢
- 起居動作
- 座位姿勢
- 立ち上がり動作
- 立位姿勢
- 歩行
を評価しようと検査項目を設定するのではありません。
日常生活動作検査で、「問題がある」とした幾つかの項目の中からそこに潜んでいる共通の問題を探す事が、ADL検査で重要になる点です。
その共通の問題がわかれば、それがファンクショナルリミテーションに該当しますので、そのファンクショナルリミテーションとしたものについての動作検査を追加します。
統合と解釈の項で、このADL検査とファンクショナルリミテーションの繋がりを記述すれば、ADL上の解決すべき問題が明確になり、同時に何に取り組むべきかがわかるはずです。