理学療法実習シリーズ

日常生活動作(ADL)検査-バーセルとFIMを選択するポイント-

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「実習関連シリーズ」の記事です。
このシリーズは、学生向け、もしくは実習指導経験の浅い理学療法士向けに、クリニカルリーズニングシリーズと並行して作成しています。
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ADL検査を行う際に、「BI(バーセル・インデックス)を用いるべきか?FIMを用いるべきか?」という疑問を持っている学生がいます。そういった疑問を持っている学生に対するアドバイスです。

 

日常生活動作は、リハビリテーションにおいて重要な評価項目となります。

疾病やリハビリを受ける目的によっても異なりますが、リハビリテーションの基本的な考えは、生活の復権です。そして生活の大部分を構成するのが、日常生活動作となります。

日常生活動作検査として、よく挙がってくるのは、FIM(機能的自立度評価法:functional independence measure)とBI(バーセル・インデックス:Barthel Index)だと思います。

他にも手段的日常生活活動IADLなどがあります。(ちなみにBIの事をバールインデックスと呼ぶ学生が多くいます。バールインデックスが正式な名称です。)

よく、FIMとBIの違いを「できるADL」か「しているADL」かという事を挙げ、この両者を検査項目に挙げているのを見ますが、それは重要な事ではありません。

もし、FIMを用いて「しているADL」を評価したとして、「できるADL」も見たいのであれば、「しているADL」はこれだけだが、「ここまでは患者本人でできるADL」という事を補足情報として足せば良いだけです。

そもそも、FIMとBIを比較する事はできません。BIの点数は高いのに、FIMが低いからといって、何かの考察ができるかと言えば、それはほとんど出来ないと言って良いと思います。

FIMが開発された経緯は、もともと主流であったBIでは読み取れなかった改善していく過程を、データとして抜き取るためです。

BIの「できるADL」とFIMの「しているADL」を比較するために開発された物ではありません。

なので、「できるADL」と「しているADL」を比較したいなら、FIMで補足データとして、できるADLについて書いておけば良いと思います。

 

では、BIとFIMを選択する判断基準はどこにあるのでしょうか?

BIの利点は、シンプルで用いやすい所にあります。欠点としては、シンプルがゆえに、詳細な情報が欠けてしまう所です。

本当は何らかの問題が潜んでいるのに、BIで満点をとってしまう事は多々あります。

もし満点を取った時に、バイザーに「満点なら問題ないのか?」と聞かれた時に、「満点でも問題があるかもしれません。」と答えてしまう学生は、ADL検査を中途半端にしか行っていない事になります。

リハビリテーションで重要となってくる、その人の生活についての評価が不十分という事です。

ある検査を用いた時に、満点をとってしまい、それ以上の能力を読み取れない状態を天井効果と言います。

その検査で測れる最大値に達していて、それ以上についての情報を知るよしがない状態です。30㎝物差しで、人の身長を測ろうとしていると考えたら良いかもしれません。

Aさんは180㎝、Bさんは160㎝、でも測るための道具が30㎝しかないので、AさんもBさんも30㎝オーバーという情報で、この2人の身長差を表現する事は不可能です。これが天井効果です。

逆に0点を取った場合も同様の事が言えます。例えば爪の厚みを計測しようとした時に30㎝物差しを使ったとします。

物差しの目盛りは1㎜刻みですので、誰の爪を測っても1㎜以下という情報しか得られないはずです。これは床下効果と言います。

この天井効果と床下効果、そしてもう1つは目盛り(指標)の細かさが、検査項目を選択する時のポイントです。

しかし、細ければ細いほど良いかと言われると、決してそうではありません。必要以上の労力を割く事は目に見えにくいリーズニングエラーの1つですので、細かく状態を見れるFIMをただ選択するというのは問題です。

 

話を戻しますが、BIとFIMを選択する際にポイントとなるのは、天井効果や床下効果が出現する可能性がないか?、出現していないか?です。

FIMはBIでは読み取れないものを読み取る細かさがあります。この細かさを知る必要があるかが、FIMを選択するポイントです。そしてFIMを選んだならBIを選ぶ理由はなくなります。

ですので、BIとFIMを両方検査項目に挙げるのは、あまり意味がありません。

「治療の経過を通して、BIでも改善の変化を抽出できそうか?」を考える必要があります。

少ししか変わらないであろう見立てのもと、BIを選択したなら、検査項目の設定ミスとなる可能性があります。

逆に、著明な変化が起こるであろう患者に、わざわざFIMを用いる事は、必要以上の検査を行った事になります。やる必要のない色々な生化学検査を行って患者・検査者ともに無駄な労力を割いている状態と理屈的には同じ事です。

治療の経過を通して、ある時期を境に劇的に変化する事が予測できる患者とは、どういった患者でしょうか?

例えば、運動器疾患を有していて、手術に至った患者を考えてみます。

 

術後1日目から、理学療法学生が検査をする事になったという設定です。

ここでは、どういった疾患で、どういった術後管理が必要な状態かについては設定しませんが、術後の経過としては、だいたいの場合、「1週間後から全荷重が許可」だとか、「術後2週間は関節を何度までしか動かしてはいけない」といった医学的管理下におかれているはずです。

その設定された期間を境に、医学的管理は外れ、患者のADLは飛躍的に向上します。そして、その先のADLの状態は、その時にどうなっているか見てみないと何もわかりません。

こういった場合は、最初はBIを用いて必要最低限のどういった状態かを把握します。

そして、例えば、先ほど挙げた1週間の経過の後、独歩が許可されてADLが飛躍的に向上したとします。すると、その時と初期の違いをBIで表現する事ができ、FIMを用いる必要は一切なくなります。

そして、この時に何かしらの予期していなかったADL上の問題が出てきたとします。すると、そこからFIMを用いて評価すれば良いのです。

術後のFIMを測定していなければ、比較しようがないから、最初からFIMを用いていた方が良いのではないか、と思われる方もいるかもしれませんが、術後の状態とは置かれている状況が違います。

術後の医学的管理下でのADLの状態と、医学的管理が外されてその時に表出されたADLの状態というのは比較しようがないですし、比較する意味がありません。

設定されている条件が違うので、新たな状況で出てきた新たな問題は、そこが初期評価と同じ意味合いを持ちます。

そして、この時にFIMを用いても天井効果が現れる時は、FIMを用いて満点である事を記述した上で、理学療法士側がそれでも問題があるとしている部分についての詳細な検査記録をとれば良いだけです。

ADL検査はBIやFIMだけではないですし、検査の手法も点数をつけるだけが、検査ではありません。

満点をとっているのに「問題がないわけではないと思う。」と答えてしまう学生は、こういった検査項目のみで検査を行い、そして天井効果が現れいるための場合が多いように感じます。

もし、「問題があると思う」という何かがあれば、それをBIやFIMに拘らず、その詳細を記述すれば良いのです。

ADL検査で、良い結果が出ているのに、バイザーに「検査が満点だったら何も問題はないの?」と聞かれた時に、「問題がないわけではない。」と答えてしまったなら、FIMでは測れない天井に達している部分に何かしらの考えがあるはずです。

この天井部分を点数化する為の検査方法を探すのではなく、自身が問題だと思っている部分を、他の人が聞いても(見ても)わかるように説明(記述)すれば良いと思います。

検査はただやれば良いというものではありません。BIを選択すべきか、FIMを選択すべきかも実習で学ぶべき「検査計画の立て方」の1つです。

間違う事は問題ではありません。考えないで行動する事が問題です。BIを選択すべか、FIMを選択すべきか、それだけでは評価できない部分はどうやって評価すべきか、といった事を良く考えて検査計画を立ててみて下さい。

 

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