治療手技総論

1.治療手技そのものを評価するということ

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クリニカルリーズニングシリーズ4私たち、痛みに関わる理学療法士・セラピストがやる評価といえば、患者を評価する事だと思われがちです。

しかし、「用いている治療方法・治療手技そのもの」を評価をすることは、それと同じように重要な事です。
この事は、やや見逃されがちですが、非常に重要な事ですので、この点について解説していきます。

 

クリニカルリーズニングシリーズ4「治療手技総論」

クリニカルリーズニングシリーズ4では「治療手技総論」と題して手技をテーマにした記事で構成しています。本シリーズ1作目は、「手技を評価する事」について解説していきます。

理学療法士や臨床で痛み治療に関わるセラピストのみなさんなら誰しも、手を使用した治療法を何かしら持っているはずです。

ここで解説していく事は、すでに特定の治療手技を持っているセラピストを対象としています。
(名前がついているような有名な手技に限らず、手で触れて治療しているのであれば、それは手技と解釈して下さい。)

例えば、一般的なマッサージやストレッチから、トリガーポイントを刺激する事、関節モビライゼーション、筋膜リリース、(AKA博田法など名前が付いているものも含めて全ての手を使った治療)などです。

ファーストチョイスで用いるその治療法がガイドラインで推奨されているものでも、解剖学的根拠からでも、講習会で学んできたものでも、自分なりの発想であみ出したものでも構いません。

これらの手技を、手当たり次第とりあえずやってみる事を推奨するような記事になっていますが、重要な事は、それが効果的なものか、そうであるなら、(特に)どういった患者に効果的なのかを可能な限り明確にしていく事です。

 

まずは、手技を評価する事について解説していきます。

今までの記事で、

  • 今行っている手技を早々に諦めない事
  • 2回目に行う手技を別の手技にしない事

などを書いてきましたが、それらの事は今回の手技を評価する事に通ずるものです。

まず簡潔に申し上げますと、特定の症状を有する患者に対してファーストチョイスで用いる手技は必ず同じ物を用いた方が良いと思っています。

患者の細い症状や所見に合わせるのではなく、また、評価をしっかり行うのでもなく(考察も何もいりません)、ある程度まとまった患者群に対して、すべて同じ手技を用います。(疼痛誘発に関する検査は行うべきです。原因を探っていく評価は現時点でこだわる必要はありません。)

レッドフラッグや、理学療法士が注意しなければいけない臨床像(イリタビリティーやセンシティビティーの存在)、あとは患者の受け入れ(患者が受けたい治療を自ら決めてしまっている場合)に問題が無ければ、例えば腰痛という症状に対して、まずは必ず同じ手技を用いて治療を行います。

すると、その中から効果をより実感できる患者に出会うかもしれません。そして、その効果を実感できる別の患者がまた現れたとします。

気づくと、少数ではあるが、複数の患者で似たような効果を実感できる場合があります。

その効果を実感できる患者の症状には必ず共通項があるはずです。つまり、ここからが考察が必要になってくるところです。
この共通項が何なのかがわかれば、この手技を選択すべき患者がわかります。

そして、この効果を実感できるとした程度を、今まで解説してきた「微妙な変化」ではなく、明らかな改善という事に限定しておけば、その法則性をみつけて生み出された「この手技は、○○といった患者に効く」としたものが、「結果が出るのであれば目に見える効果があるはずだ」として、自身のリーズニングパターンの中に蓄積されます。

ここで作られたリーズニングパターンは、細かい検査から選択された仮説に対する手技ではなく、大雑把な症状もしくは誘発された疼痛に対して選択している手技なので、今後この手技を選択するための細かい検査は必要なくなります。特定の疼痛の出方さえわかれば治療手技を選択できるようになるため、その後の臨床は非常に効率的にすすみます。

例えば、動くと腰が痛いと訴えた患者の全員に同じ手技を選択します。
そのうち、腰を反らすと痛いと訴えた患者に効果が出やすい事に気付いたとします。そうすると、腰が痛いという患者で伸展時痛を有する患者に効果を出す事ができる手技が自身の経験として蓄積されます。

この時、椎間板が原因かとか、椎間関節が原因か、といった考察はいりません。そういった事が好きなセラピストは、それを行っても構いませんが、そこで作り上げられた「原因のメカニズム」に対する仮説が正しいとする根拠は、どうやっても見つける事はできず仮説の域を脱する事はありません。

改善のメカニズムは仮説にすぎませんが、良くなったという現象は事実であり仮説ではありません。その起きている現象さえ整理できていれば、ここでの目的は達成されます。

学生時代から評価が大事と言われてきて、その評価の重要性は、理学療法士の全員が理解している事かもしれませんが、評価=「初期評価のようなもの、病態・障害像を考察するもの」とは限りません。

徒手的な治療介入をしても良い状態であるなら、自身が有効な手技かもしれないと思っているものをとりあえずやってみて、それで効果が無ければ、シリーズ増刊号シングルケース研究法でも触れたように、これをいわゆる一般的な治療と置き換え、次の「評価によって選択された個別の手技」との比較対象にすれば良いのです。

ただし、この手段は調査であって実験ではありません。よってシングルケース研究とはやや違う領域ですので、ここは整理しておいて下さい。

 

「とりあえず全員に同じ手技を適用」した、その後の行動

もしファーストチョイスで用いた手技を行った後に症状の改善がみられても、これだけでファーストチョイスの手技が治したとは言い切れません。経過を考えながら考察する事と、そのほかの複数の患者でも似たような現象が起きる事を繰り返し確認していく事で、「この手技は効果がありそうだ」と言う事ができ、そして「こういった患者に効果的だ」というふうに対象者を明確にしていく事が重要です。

症状や疼痛誘発検査の結果に共通頃となりそうなものが見つからない場合にセラピストがとる行動は、この過程を続けながらより沢山の患者でみていくという事が求められますが、それでも共通頃が見つからないという場合や複雑な解釈になってしまいそうであれば、それは臨床的にはあまり意義がありません。

その理由としては、今後、その手技を選択する判断材料としたいものが見つからない、もしくは、複雑で判断しにくいので、結果的にこの手技を選択する判断基準も曖昧だったり複雑になる為、臨床場面を想定した場合、ほとんど役には立ちません。

複雑なものをどう単純なものにするかは、別の方法をとる事で対処する事ができますのでこの点については、シリーズ後半で記事にしたいと思います。また、自身で考察できる範疇を超えてしまう場合は、この手技の評価を進める事は保留にして別の手技を評価する事に取り掛かった方が良いと思っています。

今、治療している患者がこのファーストチョイスで用いた手技で、もし治らなければ、この手技を却下し、この結果を今後用いる手技との比較対象とする事ができます。

基準ができてしまえば、患者とのやりとりの中で「一回目の治療よりも良いとか悪いとか、そういった比較はできますか?」と聞く事ができるようになります。この聞き方は、今後の治療をすすめていく上で重要となる「微妙な変化」を抽出しやすい質問だと思っています。(微妙な変化が見つかれば、シリーズ1「クリニカルリーズニングシリーズ 1  治療を停滞させない為に (まとめ)」で解説したように臨床を展開していけば良いと思います。)

単純に「良くなりましたか?」では返答に困る患者も、あの治療法より良いですか?という質問には答えてくれる場合が多いように感じます。(この点についてもシリーズ1で解説しています。)

ですので、最初に用いる手技に患者の個別性はあまり考慮する必要はなく、そしてそれによって得られる「比較対象」というメリットも生まれるため、初回の治療では個別性を考慮しなくて良いと私自身は思っています。(あくまでも私の考えであって、正しいという事ではありません。)

それで、ファーストチョイスで用いる手技が、ある程度、自身の中で整理できたら、今度は、この手技をファーストチョイスで用いる事をやめて、他の手技を今後のファーストチョイスとして、その手技の評価をしていく事になります。

冒頭であげた、この記事をご覧になっている理学療法士や痛み治療に関わるセラピストが普段何気なく行っている手を使った治療が、この方法で評価されていく対象となるものです。

効果があると自負している手技も、この過程を通して評価されるべきです。もし、全員に効果を示す治療結果が出ないのであれば、手技そのものにこだわるのではなく、この手技がどういった人に効くのかについてこだわっていくのです。

この過程を踏む癖をつけていると、特定の名前が付いているような手技が凄いのかどうかといった疑問が愚問であると思うようになりますし、全てを治せるかのように表現するインストラクターの発言や講習会の広告に振り回されなくなるかもしれません。それらの手技を自身で評価すれば良いだけだからです。

 

「手技の適応者の特徴」を見つけ出す事ができた場合の、その後の行動

もうすでに生み出されている「○○といった特徴を有する患者に効く」とした「その特徴」と一致しない患者はみな「今、評価しようとしている手技」を一度受けてから、個別性を考慮したり原因の仮説を考慮した治療に入っていきます。

ここで重要なのは、セラピスト自身の中で「こういった症状にはコレ」といったものができあがっている場合は、その対象者には簡単に他の手技を用いない事です。(さらに良い方法を探すための評価方法は別であるのですが、本記事のテーマとはやや異なるので割愛させて頂きます。)

一つの手技の評価を終えて、「こういった患者に適応できる」と法則性を見つけた先に、さらに取り組んでいきたいのは、自身のリーズニングパターンには当てはまらない患者に対しては、「どういった治療手技が適応できるか」です。

ですので、先ほど挙げたような自身のリーズニングパターンが出来上がってしまえば、その適応となる患者は、まずその手技をファーストチョイスで受け、それで良くならない場合のみ、新たに準備した次の手技(次に評価していこうと思っている手技)を受ける事になります。

法則通りに行けば良くなるはずなのに、予測された改善を示さなかった場合は、この法則と思われていたものに修正の余地があるかもしれません。ただ、患者の症状は色々な要素が複合的に絡み合っているものなので、効果を示す割合を適応者10人がいたとすれば7〜8人程度は改善(的中率70〜80%)させる事ができていれば、臨床的には十分として考えて良いと思っています。

適応者にも関わらずその手技で良くならない場合、次の評価しようと思っている手技で対応して、それでもダメだった時にはじめて、個別性を考慮した推論を行いながら治療法を選択していく事を推奨します。

これを徹底する事で、手技を選択する判断基準は精緻化されていきますし、本当に効く手技でなければ淘汰されますので、効果的な手技しか自身の引き出しには残らない事になります。

つまり、ファーストチョイスで選んだ治療手技で一向に「良くなる患者」に出会わなければ、この手技は自身の選択肢から排除します。そして、新たな手技を、ファーストチョイスにして同様の事を繰り返していきます。

徒手療法の可能性を完全否定する事ができるのは、その過程を通して、自身の引き出しに何も残っていないセラピストのみです。研究結果から出された徒手療法の否定的側面を自身の臨床で証明できなければ、それは机上の理論と同じ事になってしまいます。

また、同じように、徒手療法が偉大だとか、「何でも治してしまう魔術」のようにとらえているセラピストも、その過程を通して、全員を予言通り改善させなければなりません。

しかし、そのような事は、どちらもありえない事だと思っています。

重要になってくるのは、「対象となるのは、少数かもしれないが明らかに症状を改善させる事ができる手技」が存在していて、それが「どういった人たちに効果的か」という事を、日々の臨床で明確にしていく事です。

 

手技を評価する事で、効率良く経験を積む事ができると思います。

腰痛に限らず、私たちが扱う症状のほとんどは「原因不明の予後良好な疼痛症候群」です。必ずしも、原因を探していく評価が功を奏すとは限りません。

今まで治療して効果を示してきた治療法を、その適応患者に選択する事ができれば、原因を探る評価の過程を踏まずに治療を行えます。

個別性を考慮した治療介入を行い改善が見られたとしても、その治療手技には改善との因果関係を証明できるものが少なすぎます。

これだと決めた治療を選択する前に患者の症状のベースラインを把握し、そのベースラインから予測された予後と治療後の症状とを比較する必要もあります。ですので、

  1. 最初に用いる手技は特定の症状を有する全患者に同じ手技で介入してみて、それで良くならなければそれをベースラインとする。
  2. 良くなった場合は、一症例では何とも言えないので多くの患者に、さらにためした上で共通する特徴を抽出していく。

といった二段構えで、治療の選択を行っていくと、効率良く経験を積んでいけると思います。

リーズニングパターンを蓄積するための解説ではありませんが、意図的にパターンを構築しようと思っている場合に有効な方法です。

患者を評価する場合

  • 原因を評価→仮説→治療

手技を評価する場合

  • 治療→改善→特徴を抽出

この時に、改善とするものを「目に見える改善」と、ある程度高いハードルを設けておく事は大切な事です。今までで説明してきた微妙な変化を読み取る必要はありません。

何故なら、「確実に効果を示す手技」を見つけ出したいのに、微妙な変化までも含めてしまうと、「目に見えにくい程度の効果しか出せないかもしれない手技」になってしまう可能性があるからです。

そして、この「目に見える効果」とするものが、その特徴を有する患者の7〜8割で言える事としておく必要があります。(以前の記事でも、7〜8割という数字を出していますが、これには意味があります。理由は必ず記事にしますので少々お待ち下さい。)

(2016/1/8追記)
「微妙な変化を捉えなくて良い」というのは、手技を評価するという視点からの説明です。
もし、微妙な変化が確認できた場合は、この手技の適応患者と確定するのではなく、小さな変化を拡大していくために治療介入を行います。
微調整を行う事によって適刺激となった場合、その治療手技を、今後新たにファーストチョイスで用いる治療手技と考える事も可能です。
この場合の治療介入についての解説は以下の記事で解説しています。
【付録】適刺激を見つける過程-症例報告風
【付録】適刺激を見つける過程-症例報告風2-
(追記ここまで)

本記事で解説した事は、ややシングルケース研究法で解説してきた事と似ていますが、手技を評価するという意味では異なっていますし、そして実験ではなくあくまでも調査です。ただ、考え方は多くの部分で共通していると思いますので、宜しければ、クリニカルリーズニングシリーズ2015増刊号も合わせてお読み頂ければと思います。

次回は、手技のグレードに関する事を今回の記事と関連付けて解説していく予定です。最後まで読んで頂きありがとうございました。

次の記事→ 2.治療手技の強さの程度、グレードについての解説

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