診断学とエビデンス

5.感度・特異度の考え方。

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クリニカルリーズニングシリーズ8現在の診断学では尤度比(ゆうどひ)というものが主流で用いられていますが、以前から馴染みのある感度・特異度にも、その概念を臨床応用する利点は多くあります。

尤度比については、事前確率や事後確率、オッズ、推論様式に関する理解が必要となってしまい、また用い方を誤ると、かえって判断ミスに繋がる可能性もあるため、シンプルとされているものの、簡単に用いる事が少し難しいと、個人的には考えています。

しかし、従来からある感度・特異度は、それが何を意味するのかを理解する事で、自身のクリニカルリーズニングに、断片的にでも生かせるものだと思っています。

今回の記事では、感度・特異度についての解説を行い、同シリーズでの次回記事で「感度の概念を理学療法場面でどう生かすか(予定)」について解説していきます。

 

感度・特異度とは?

感度とは、当該疾患を有する人で陽性となる確立です。例えば、SLRテストは、椎間板ヘルニアの感度95%とされています。

これは、100名の椎間板ヘルニア患者がいれば95名は陽性となる。という事を意味しています。

特異度とは、当該疾患を有さない人であれば陰性となる確立です。例えば、クロスSLRサインは、椎間板ヘルニアの特異度90%とされています。

これは、「椎間板ヘルニアだから陽性になる」とは言えませんが、これが陽性なら90%の人が椎間板ヘルニアと確定できる事を示しています。

 

この感度・特異度をどのように用いるか?

感度は、除外診断に、特異度は確定診断に用います。

除外診断とは、脊柱管狭窄症を主仮説として疑っているが、副仮説に椎間板ヘルニアが含まれているという場合に、副仮説である椎間板ヘルニアを却下する事です。

主仮説を採用するために必要になる事は以下の二つです。

  1. 脊柱管狭窄症の可能性を上げる。
  2. 椎間板ヘルニアの可能性を下げる。

この2「椎間板ヘルニアの可能性を下げる」というのが、除外診断に当たります。
脊柱管狭窄症を疑っている患者で、椎間板ヘルニアを抽出できる検査で陰性ならば、椎間板ヘルニアの可能性をより下げてくれます。

すると、脊柱管狭窄症を確定できなくても、副仮説の可能性を下げる事ができるので、脊柱管狭窄症の診断に近づく事ができます。

確定診断にもっとも優れているのは、特異度100%の検査が陽性である事です。その病気を有していない人が確実に陰性に出る検査が陽性である場合、これは、その当該疾患を有している事を意味します。

「病気の人であれば陽性となり、病気でない人なら陰性に出る」

という検査が、陽性であるなら病気であると言えるからです。

  • 病気を確定するために有力な判断材料となるのが高い特異度を持った検査
  • 病気を除外するために有力な判断材料となるのが高い感度を持った検査

という事になります。

しかし、よく考えてみると、80%を超える感度を持つ検査はあまり多くありません。

 

すると、どういう事が考えられるでしょうか?

感度80%の検査が陽性になる100人がいたとしたら、そのうち80人は当該疾患を有すると考える事ができますが、残りの20人は当該疾患を有していないにもかかわらず「陽性」になってしまい、20人(20%)の間違いを犯す事になってしまいます。

今、この検査が陽性に出た目の前にいる患者が、20人側に入るのか、80人側に入るのかは結局のところ分からないので、判断下す際には、この感度80%の検査の結果をどう解釈していいかが分からなくなってしまいます。

 

では、感度をどのように使用するか?

感度80%というのは、当該疾患を有する患者の80%で陽性と出る検査です。陰性となってしまう患者は20%と見積もる事ができます。

つまり、この検査が陰性であるなら、80%の患者を除外できる事を意味し、20%は間違った陰性という事が考えられます。

ここで、重要になってくる事は、100%の感度を有さない検査なら、検査が陰性でも、結局のところ少数派(間違った陰性)である可能性を否定する事はできないので、確率的に、常に間違う可能性が出てきてしまいます。

これは、全ての検査に言える事で、感度100%の徒手検査というのはありえないので、ある一定程度の間違いは起こしてしまうという事が言えます。

しかし、ここで重要になるのは、どの程度、この間違う可能性を低く見積もれるかという事になります。

感度80%の検査1つでは、間違いを起こす可能性が20%です。本当は当該疾患を有するのに陰性と出てしまう確率が20%という事です。

 

感度が高い複数の検査を考慮する。

では、感度80%の検査2つが、ともに陰性である場合はどう解釈する事ができるでしょうか?

1つの検査では20%だったものが、当該疾患を有するにも関わらず2つとも陰性である可能性はどの程度あるか、これは下の計算式で求める事ができます。

1つの検査で間違って陰性と出る確率20%のうち、さらにもう1つの検査でも間違って陰性と出る確率です。

0.2×0.2=0.04 → 4%

先ほど挙げた、20%から大幅に可能性を低く見積もる事ができたと言えます。

では、当該疾患を有しているにも関わらず、感度80%の3つの検査が陰性と出てしまう場合はどうでしょうか?

0.2×0.2×0.2=0.008 → 0.8%

先ほど挙げた2つの検査の場合より、さらに可能性を低く見積もる事ができています。

当該疾患を有しているにも関わらず、感度80%の検査が3つともに陰性となってしまう確率は、0.8%です。

では、感度70%で考えてみるとどうでしょうか?

検査1つ:診断ミスの可能性は30%
検査3つ:診断ミスの可能性は2.7%

このように、感度がある程度高い検査を組み合わせて用いる事で、確率的な確からしさを高める事ができます。

ちなみに、感度60%程度の検査が3つ陰性となった場合に、当該疾患を除外する事の診断ミスの可能性は約22%となるので、だいたい感度80%の検査を1つ用いた場合と同程度のものとなり、これでは、判断の材料としては少し頼りない検査と言えます。

ですので、感度70~80%以上の検査をセットで3つ持っていれば、当該疾患を除外する事が可能となると考えます。

 

ここで注意点

検査を組み合わせる場合に、注意しなければならないのは、お互いに関連する検査である場合は、組み合わせて考えてはいけないという事です。

例えば、椎間板ヘルニアでのSLRテストを考えた場合ですが、SLRテストの変法や坐骨神経に対して何らかの物理的刺激を加えて坐骨神経痛を誘発しようとするテストには、以下のものが挙げられます。

  • ラセーグテスト
  • ブラガードテスト
  • バックリングサイン
  • ボウストリングサイン
  • ボンネットテスト
  • シカールテスト

これらは、全て関連する検査であるため、この検査を組み合わせて除外診断を行う事に確からしさはありません。

仮に、椎間板ヘルニアであっても、SLRテストが陰性と出てしまう患者の場合は、別法でも同様に陰性として出てしまう可能性が考えられるため、関連性のある検査を掛け合わせる事は、理論上不適切という事になります。

 

感度95%のSLRテストと、感度80%の検査が陰性

SLRテストが陰性である場合、椎間板ヘルニアを高い確率で除外する事は可能ですが、ここでの間違いを犯す可能性は理論上では、5%という事になります。

ここに、感度80%以上の別の検査を掛け合わせる事で、この理論上の間違いを犯す確率を1%以下とする事が可能になります。

「外科的な手術が適用となる椎間板ヘルニアの診断」に限定して言えば、

  • SLRテストが陰性で、
  • アキレス腱反射の低下もしくは、足関節背屈力低下がみられなければ、

外科的な手術の必要性はないと判断をする事が可能(判断ミスの確率1%以下)となります。これはつまり、「保存療法の適応」か、「いわゆる非特異的腰痛に分類される症状」という判断を下す事ができる事を意味しています。

 

感度・特異度についてのまとめ

感度が高いという事は除外診断に役立ち、特異度が高いという事は確定診断に役立ちます。

感度は、他の感度がある程度高い検査と組み合わせる事で、そこで起こりうる確率的な間違いの可能性を下げる事ができます。

感度が高い検査は、「当該疾患が有する人であれば陽性となるはず」という事ができ、それが陰性である患者については、「当該疾患を有していない」とした仮説の確からしさを高める事ができます。

感度80%の検査を3つ組み合わせると、除外診断時のミスの可能性を0.8%にまで下げてくれます。

特異度が高い検査は、「当該疾患を有している人がしか陽性とならないはず」と考える事ができるので、それが陽性であれば、当該疾患を有しているという仮説の確からしさを高める事ができます。

 

最後に

これらは、鑑別診断をすすめる際に必要となる知識の入り口の部分です。こういった事を聞き慣れていない方は、少し面白みのない記事だったかもしれません。

しかし、この考え方を理解できると、理学療法士の徒手的な治療や、動作観察場面にも応用して用いる事ができると思っています。

これについては、同シリーズでの次回記事で解説を予定しています。また、より詳細に知りたいという方は、診断学に関する専門テキストを参照する事をお勧めします。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

次の記事→ 6.感度の概念を理学療法士による腰痛治療場面にも生かす。

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