ナラティブリーズニング(物語推論)

4.ラポールの形成、適切な治療関係の構築

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クリニカルリーズニングシリーズ7治療をすすめていく上で、重要になってくるのは、徒手的な治療技術があるか、という事よりも「患者と適切な治療関係を築ける能力があるか」だと思っています。

これができない状態であるなら、スタートラインにさえ立てていないので、治療技術うんぬんの話ではありません。

ラポール形成や、適切な治療関係についてナラティブリーズニングという視点から解説していきます。

 

適切な治療関係とは?

リハビリテーションの領域に限らず、人と関わる職域では、ラポール形成という言葉が出てきます。

ラポールとはフランス語で、もともと「橋をかける」と言う意味です。

「ラポールが形成できている」とは、セラピストと患者が良好な信頼関係でつながっている状況を指す言葉であり、カウンセリング用語として定着しているものです。

ラポールを形成するテクニックとして

  • ミラーリング
  • キャブレーション
  • バックトラック
  • 受容的態度
  • 共感的理解

などが挙げられていたりします。こういったものは、適切な治療関係を築く働きかけの断片的なテクニックにすぎません。

理学療法士と患者がこれから取り組んでいこうとしている事が何なのかをよく考えて、本質的な関わりあいをしなければ、適切な治療関係を築く事は難しいと思っています。

ラポールを築く上で、相手の仕草の真似事(ミラーリング)をしたり、呼吸を合わせて話すリズムを同調(キャブレーション)させたり、オウム返しのような返答(バックトラック)を繰り返したり、ただただ話を聴くだけ(受容的態度)だったり、どんな事にも理解・共感(共感的理解)を示しても、

それで、理学療法士と患者の適切な治療関係が築けるとは思えません。(あくまでも私の経験から感じるものですが、、)

たしかに、コミュニケーションが上手いなと感じる人たちは上記の事を無意識的(?)にしていたりします。

(これらのラポール形成のテクニックとされているものは、数人の有能な心理療法家のセラピー場面を分析して、第三者が、そのセラピーから部分的に抽出したものです。)

ですので、上記の事が間違っているという意味では決してありませんが、これがラポールを形成する上でのテクニックの一部であっても本質であるとは思えません。

 

セラピストと患者の関係性を表現する時に用いられる言葉で、ワンダウンやワンアップという言葉があります。

これは、患者の位置から、セラピストの位置が、1つ上にいるのか、1つ下にいるのか、という上下関係のようなものを表現する時に用いられます。

理学療法士が、患者に対して権威的な態度をとらず、サービスを提供する相手という様な関係性の持ち方をすれば、これはダウンの関係という事になります。

逆に、理学療法士が上から目線で患者に指示するような状態だったり、患者は丁寧に話すのに、理学療法士が強い口調で話したりするのは、アップの関係性です。

上記の説明だと、ダウンの関係性が適切に思えるかもしれませんが、そうとも限らないので、それぞれにもう一列ずつ示します。

患者が強い口調で自己主張のみをし、それに理学療法士が振り回されている場合は、患者が上の位置にいますので、ダウン(理学療法士が下の位置)の関係性になります。

逆に、理学療法士の助言・アドバイスにしっかり耳を傾け、患者が理学療法士に対して自主訓練指導を仰いでいる状態は、アップの関係性となります。

同じアップやダウンでも、状況を変えると中身はまるで違ってきます。

治療者として、適切な関係を築けているのはダウンの方とされています。

しかし、ダウンの関係性は、2つ目に挙げた例のように、ダウンだからいいとは言えないというのが実際です。

最初に挙げた例は、理学療法士自らが、ダウンの位置にいようとしています。

2つ目の例は、患者が理学療法士をダウンの位置にみています。この2つ目が問題です。

理学療法士は、患者に対して親切に接しなければいけませんが、何かしらの指導を行ったり教育的関わりを持ったりしますので、ただ下手に出れば良いというものではありません。

この時に、患者からダウンの関係に位置付けられていると、どんなに冒頭で挙げたラポールを形成する際の(断片的な)テクニックを駆使しても、適切な治療関係は築けません。

 

「患者からどう見られているか」ここが、この場面で求められるナラティブリーズニングです。

この人がどのように医療・病院・リハビリ・理学療法士を見ているかについて理解しようとしなければ、その先の適切な治療関係はいくら時間を待っても構築する事はできないし、むしろ悪化の一途を辿る可能性の方が大きいと思います。

患者が理学療法士をダウンの関係性に(無意識的にでも)持っていこうとする時、信念や価値、この人の今迄の経験などがその根底にある場合が多いように感じます。

例えば、

「経験が浅い奴は未熟者だ」という考えを持っていれば、「経験年数の浅いセラピストには診られたくない」となりやすいですし、

「前の病院では、ろくに治療してもらえなかった」という場合は「どうせ、ここでも大した治療をしないクセにお金だけとるんだろ」

と、意識的ではないにしても、そういった方向でセラピストを見たり、病院をみたりする傾向があります。

こういった時にそのまま理学療法士自らがダウンの関係を構築しようとすると、単なるワンダウンでは収まらなくなります。

※アップ・ダウンは位置関係です。頭にワンとつくのは「少しだけ」や「適度な」という意味合いがあるようです。

「経験が浅いセラピスト」が、「経験の浅いセラピストには診られたくないと思っている患者」の担当になった時に、セラピスト自らワンダウンで働きかけると、適切な治療関係にはならないという事を、臨床で患者と積極的に関わっているセラピストなら想像に難しくないと思います。

しかし、ここで権威的に振舞っても、かなり危険な賭けと言えます。そもそも、相手から(悪い表現をすると)馬鹿にされていたり、下に見られている状況で、いきなりセラピストが好戦的な態度をとっても、この状況を打開できるとは思えません。

 

適切な治療関係は、「セラピストは自らをワンダウンとしているが、患者はセラピストの事をワンアップとしている」関係です。

ワンアップに見ている人が、ワンダウンの対応をしてくれると、その人からの働きかけに素直に対応できるようになります。余計な抵抗を生みません。

(ほとんどの人が実体験で持っているはずです。私たち理学療法士は、医者の事をワンアップで見ています。そんな医者が理学療法士に対してワンダウンで対応してくれたらどうでしょうか?恋人の親に初めて挨拶に行くとき、恋人の親をワンアップで見ています。それが会ってみるとワンダウンの対応をしてくれたらどうでしょうか?)

先ほどの状況に話を戻しますが、今ワンダウンでみている相手に、これからワンアップでみてもらえるようにしなければいけません。そして、それからやっと理学療法士はワンダウンの対応をとっていくのです。

では、どうやってワンアップに見てもらえるようにするのでしょうか?

「経験年数の浅さ」は年数が経つの待たなければいけませんが、本当の問題は経験年数の浅さそのものよりも、「経験年数が浅い」という事に患者なりの解釈が加わっている事がここでの問題を大きくしてしまっています。

「経験年数が浅い」という事をどう解釈しているか?です。これは患者自身もしっかり、定義を決めているわけではないはずですので、かなり感覚的と言えます。

「理学療法士が症状を教えて下さい。」と問診で聞いた時に、
「私は椎間板ヘルニアだから腰が痛いんですよ。」と返答した時も、無意識的かもしれませんが、上記で説明してきた状況と似通っています。(症状を聞いているのに、それについてではない返答になっています。)

これがたった1つの答えではありませんが、
患者が圧倒されるくらいの医学的知識を披露する事も1つです。

例えば、「椎間板ヘルニアだから」と話した場合は、「椎間板ヘルニアとはどういう病気かをご存知ですか?」と確認をとります。

すると、答えらない患者に丁寧に椎間板ヘルニアについて説明します。

ある程度答えたとしたら、不足している部分を補うように説明を加えます。

「リハビリなんかよりも手術が効果的でしょ?リハビリする意味はあるの?」と聞かれたら、

「あなたが言っている手術とはどういった手術の事を言っていますか?」と確認をとります。
そして、
「あなたが言っているリハビリとはどういったものをイメージされていますか?」と確認をとります。

すると、答えらない患者に手術について丁寧に説明し、リハビリについての深い説明を行います。

患者が何気に使ってしまっている言葉が示すものが何かを直接聞きます。

患者は感覚的にしか、それを捉えていないはずなので、ほとんどの場合は明確に答えられません。

そして、そこから経験年数は浅くとも医療人としての豊富な知識を持っている事を示すかのように、丁寧な説明を行っていきます。

もし、セラピストの説明を途中で止めて、何か別の事を話し出したら、
セラピストは再び、それについての説明を患者に求めます。

答えられないようであれば、セラピスト側から丁寧に説明を行います。

「聞かれると、確かによくは分からないな…」
「私が(患者が)答えられない事を担当の理学療法士は全部知っているんだ」

という事を体感してもらい、感覚的に毛嫌いしてしまっていたり、根拠のない理由でワンダウンにみていた相手(理学療法士)は、本来ワンダウンでみるべき人ではなかったんだ、という事を患者自ら感じてもらうというのが1つの方法です。

ここでは、理学療法士側からの説明を聞いてくれる場合に限って有効な選択肢ではありますが、患者自身で全てを決めようとしてしまい協働関係にない(ワンダウンでみられている)状況を打開するための1つの対応方法です。

冒頭で挙げた断片的なテクニックの真似事で適切な関係を築ける患者というのは、そんなテクニックなど使わなくても時間が解決してくれたりします。

臨床で問題となってしまう状況は、そういったテクニックが使いものにならない状況です。

冒頭で挙げたテクニックは、ラポール形成の本質だとは思えません。治療関係を築く上で、患者と理学療法士の関係がどうあるべきかを見失わずに、冒頭で挙げたようなテクニックを駆使できるなら、痛み治療の臨床を大幅に前進できるかもしれません。

患者が担当理学療法士の事をどうみているかどうみようとしているか、を理解しようとする試みが必要になります。

 

このような場面を自身の臨床で経験した事はありませんか?

  • 若いセラピストという事で患者から、「頼りなく見らえれているかも…」と理学療法士自身が思ってしまう。
  • 異性の患者に、「同性のセラピストがいい」と担当変更の希望があった。
  • 若いセラピストはイヤだと言われ上司と担当を変更する事になった。

こういった事は、病院によっては柔軟に対応する事が正しい事とされる場合もありますので、その先にとる行動を個人の考えのみで決定する事は危険ですが、

こういった場面に出くわした事があるセラピストは、そこに自身のナラティブリーズニングが欠けていなかったかを見直してみる事は大切です。

実際に担当が変更になってしまった時に、「あの患者さんは、異性のセラピストはイヤなんだって」とか、「経験年数が浅いから、こういうのはどうにもならないよね」と簡単には終わらせずに、次に似たような場面に出会った時は違う展開に持っていけるように考えてみて下さい。そして、そのヒントになる何かがナラティブリーズニングにあるのではないかと思います。

ここまでで挙げた例は、あくまでも一例で、
「治療関係を構築する際に起こりやすい一場面であり、ナラティブリーズニングがそこに加わるだけで臨床が変わる」という自身の思いを書き綴っただけのものです。

文面にしにくい内容ですので、表現には気をつけましたが、もし不快な思いをされた方がいましたら大変申し訳ありません。また、この記事が意図する事は治療関係を築く際の正解を伝えるものではありません。あくまでも、私の臨床の一部を抽出して、ブログ用に記事にしているものです。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

次の記事→ 5.病態を細かく説明すべきかを物語推論の視点で考える

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