セルフエクササイズ(自己治療)を導入していく中で、セルフエクササイズの重要性をあまり認識していないと感じる患者がいます。
もしかすると、理学療法士の中にもいるかもしれません。
この背景に潜んでいるものについての私見と、その取り組みについてを述べさせて頂きます。当記事はクリニカルリーズニングにおけるセルフエクササイズの考え方を解説しています。
こういった考えで治療関係を確立している場合は危険です。
患者「自分の体は治療者が治すもの」
理学療法士「患者の身体を治せるのは私」
こういった、考えで治療を進めると、軽症例や、最初から改善が見込める患者の場合には気付きにくいですが、そうでない場合は治療関係を複雑化させたり、治療終結までを遅らせてしまいます。
また、改善がなかなかみられない患者の場合は、本当に取り組むべき課題である「自分自身の身体を管理する事」からどんどん遠のいてしまいます。
私のスタンスとしては、
- 改善の良し悪しに限らず、いずれ治療関係は終結するべきもの
- 可能な限り、治療関係は早期に終えるべきもの
というものがあります。
治療関係を築いていくなかで、セラピストが陥りやすいところの1つである「癒しを与えている」という事に自己満足に浸る事は危険だと思っています。
他者を頼らず、自分の身体を自分で管理できないという状態を、理学療法士が提供してはいけないと思っています。
セルフエクササイズに移行する事を妨げる治療関係
患者から「先生の治療を受けた時は、凄く楽。治療受けないとキツいよ。」と言われて、良い気持ちになる治療者はとても危険だと思っています。
この時に、「では、私(理学療法士)が、治療しないと大変と言っている状態を、自分自身でコントロールできるようになったら、それは素敵な事ではないでしょうか?」と投げかけなければいけないと思っています。
セルフエクササイズで自己管理できるようになっていくためには、理学療法士の徹底的な働きかけが必要な患者もいます。
徹底的な働きかけをしなければいけない患者像としては、私の経験上、理学療法士の事をとても褒めてくれます。
「あなたじゃないとダメ」
「他の病院にはもう行けない」
「すごいよ、神の手みたいだよ」
一見、とても良い事を言われているようですが、こういった治療関係は非常に危険だと思っています。
もちろん、治療者の事を良く思わないのは、それ以下ですが、治療者の事を必要異常に良く思ってくれている患者も注意する必要があると思っています。
こういった患者のなかで、
- 褒めるわりに結果としての改善がない。
- 褒めるのに、症状の訴えは強い、もしくは変わらない。
という状況に陥っている場合は特に気をつけなければいけません。
もし、本当に担当理学療法士が凄いなら、完全に治って治療の継続の必要性はなくなるはずです。
しかし、褒めるのに、症状を持続的に訴える背景には、「依存させてくれ」というものが(意図的でないにしても)潜んでいると考えます。
ADL上や、何かしらの活動制限といった問題はなく、理学療法士と患者が共有できていない「痛みとしているもの」を治療対象としている場合は、この危険性がとても高いと認識すべきです。
この時に、褒められた事により、ますます理学療法士側が「よし、頑張ろう」と意気込むと、それに気づけるまで、この関係は永遠に続く可能性があります。
この考え方は、エビデンスを重要視した考え方からくるものではなく、私自身の経験からくるものです。そして、私の価値観というものが多分に含んでいますので、この点についてはご容赦下さい。
(ちなみに上記のような関係は、認知行動療法で行われる「正の強化」を患者側から働きかけられている状態です。)
本当の問題は治療者側のスタンスかもしれません。
もし、セルフエクササイズに移行する事に難(できないのではなく、やらない)を示している場合は、いつまでも治療関係は続かない事をしっかりと伝え、それ以降も他者を頼り続けるつもりなのかを患者に問いかけてみる必要があるかもしれません。
こういった事を聞くと失礼にあたると思われているセラピストもいるかもしれませんが、
もし、患者が理学療法士の事を治療経過を通して、本当に信頼してくれているのなら、
「治療経過を通して、一生懸命(もしくは丁寧に)、私の事をしっかり診てくれた」と思ってくれているのなら、
この問いかけを不快と感じる方はいない(絶対ではないが)と思っています。
そして、ついつい「自分の身体を自分で管理する事を放棄してしまっていた」というのを自覚し、自己管理する方法を身につけようとしてくれるはずです。
もちろん、全員が同じような経過を辿る事はなく、なかなか前へ進めない場合もあるし、文面にしている程簡単にはいかない事が多いと思われますが、
自己管理する事を放棄している患者は、目先の痛み
が治療目標ではなく、「比較的良い状態と思えるものを自己管理できるようになりたい」と思ってもらえるものが、治療目標になるはずです。
究極のところ、セルフエクササイズに移行できない背景にあるのは、理学療法士側のスタンスに大きな問題があると思っています。
治療が停滞しているなと感じたら、「この状況をどのように好転させられるか」という事に理学療法士は拘らなければいけないと思っています。
「自分の身体を自分で管理する。」
「他者に頼るのでなく、自己管理で比較的良い状態を維持できる。」
これを達成する一手段がセルフエクササイズになると思っています。
この自己管理する力を与える事ができるのは、医療者の中では、リハビリテーションの従事している私たち理学療法士や作業療法士の方々だと思います。
そして、それを専門的立場からアドバイスする事ができるのが、担当の理学療法士・作業療法士です。
徒手療法家と名乗る・もしくはそう自負している理学療法士は、前述したような危険性が自分に潜んでいる事を自覚しなければ、かえって患者と関わる事で患者を不健康にしてしまいます。
もし、患者がセルフエクササイズの重要性を認識していないなら、担当理学療法士自身がセルフエクササイズの重要性を認識できていないのかもしれません。
もちろんセルフエクササイズに移行できない理由は、他にも沢山あるかと思います。
セルフエクササイズの重要性を認識してもらっていない理由として、治療者側のスキルや知識の問題もあるかと思いますが、ここでは、「患者が必要以上に治療者を褒めるのに、治療が前進する事がない」という場面を想定して書いています。
上記のような取り組みは疎かになりやすいので、自分自身への戒めも含めて書かせて頂きました。
最後まで読んで頂き有難うございます。
次のシリーズは。。。
クリニカルリーズニングシリーズ7
ナラティブリーズニング(物語推論)
内容
ナラティブリーズニングは、「人をみる」という事に関するリーズニングプロセスを指します。ダイアグノシスリーズニングと協働関係にあり、互いを補うような関係にあります。
ほとんどの徒手療法の学派は、ダイアグノシスリーズニングを重要視し、ナラティブリーズニングに関しては、個々のセラピストの力量に任されている、といった状況が多いと思われます。
実際、マニュアルセラピーを学ぼうとした時に、ダイアグノシスリーズニングについての詳細な講義はあったとしても、ナラティブリーズニングについての詳細な講義は、まずないと思います。
もし、そういった事を詳しく学びたいと考えた場合、理学療法領域からは少し外れて、心理学がカリキュラムに組み込まれた大学の学部に入る必要があったり、臨床心理士を目指す必要があったりと、かなり敷居の高い領域となってしまっているように感じます。
また、そういった専門領域で学んだ場合は、徒手療法に強く関連した心理学・臨床心理学を学ぶわけではないので、これを理学療法領域に還元しようとすると、かなり遠回りでもあります。
このシリーズでは、僕が(一応)学んできた事と、徒手療法に関係のある心理学領域の事を中心に、自身の臨床と照らし合わせながら記事を制作していきたいと思います。