ゴール設定

6.向かっている先の道標となるショートゴール

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クリニカルリーズニングシリーズ5徒手療法におけるゴール設定向かっていく大きな方向性(ファイナルゴール)を患者と共有できても、一歩ずつショートゴールを踏んでいかなければ、最終的な帰結であるゴールにはなかなか辿りつけません。

本記事では、全ての疼痛治療場面で共通するショートゴールの立て方や考え方を解説します。

 

ショートゴールは何にすべきか?

腰痛患者の治療に当たっている場合、そのゴールが「痛みに悩まされずにもとの生活を送れる状態に戻る事」としたとします。

そして、追加のゴールとして「その腰痛を自己管理できるように」という事を加えて、患者と理学療法士の治療関係がスタートしたとします。

この場合、とりあえず向かっていく方向は決まりましたが、その一歩を踏み出せたかを知る指標が必要です。

この一歩を踏み出せているかを知る事ができなければ、その次にとるべき行動がわかりません。ショートゴールを患者と理学療法士で共有する事で今向かおうとしている方向に、ちゃんと向かっているのかを知る事ができます。

ショートゴール例「腰椎の安定化の獲得」

実習生がショートゴールに挙げそうな例を出してみたのですが、こういったタイプのショートゴールは、目標とすべき場所に向かっているかを確認しようがありません。

理学療法士が仮説立てている治癒のメカニズムをショートゴールに挙げてしまっています。

腰痛がある

腰椎の不安定性が原因

と考えた結果、

腰椎の安定化(ショートゴール)

腰痛改善(ファイナルゴール)
これでは、治療関係がスタートしてから、その一歩が適切な方向に向かっているかを確認しようがありません。

どう確認しようとしているのかが明確であれば構いませんが、腰椎の不安定性という概念そのものがかなり曖昧です。

上記の記載は、ゴールがどうこうという話よりも、腰痛が起きているメカニズムの仮説を図示(フローチャート化)したに過ぎません。

 

では何がショートゴールになるのか?

ショートゴールの目的は、何度も書いていますが、ゴールに向かって進んでいるかの指標になるものです。

治療をすすめていく上で、セラピストが選んだ徒手療法としての手技が、患者の症状を改善させる事ができる手技であるかが最初にぶつかる壁だと思います。

もちろん、「評価を行って」それから、どう治療をすすめていくかを考えるので、すぐに治療が開始されるわけではないと思いますが、症状に変化を起こさせようという取り組みの中では、目先のゴールは、どのような刺激が患者の症状に変化を起こしうるかという事がポイントになると思っています。

その適切な手技を見つける手順の一例については「適刺激を探す」という内容で過去の記事で書かせて頂きました。

その適刺激を探していく過程を患者と理学療法士が共有する事が、この場面での最初のショートゴールです。

適刺激を見つけていこうとする過程は、患者と理学療法士の協働作業ですので、この協働作業を理解してもらわないと、その先のクリニカルリーズニングは非常に効率の悪いものとなってしまいます。

腰痛を改善させるためには?

症状に影響を与える刺激はあるか?

この症状に変化を与える刺激を探す事がまず取り組むショートゴールになると思います。

もし、一向に見つからなければ、(もちろんセラピストの力不足の可能性は否定できませんが)、徒手療法による治療適応でないかもしれないので、新たなゴール(ファイナル)を設定する必要に迫られるはずです。

ここで、何らかの改善を示す刺激を見つける事が出来れば、とりあえずはファイナルゴールの方向へ一歩前へ進んだ事を示します。

ショートゴールが、今から進もうとしている方向についての指標となっています。

先ほどの例で考えると、「腰椎の安定化」という曖昧な概念を持ち込んでしまうと、

  • 治っていないのは、「まだ安定化されていない」
  • 良くなったから「安定化されている」

という判断になってしまい、結局のところ大元にある判断は臨床で起こっている現象になっています。

なので、変に病態の仮説を立てる事なく、何を持ってこのまま突き進むのか、何を持って方向転換するのかの、判断材料になる臨床結果をショートゴールにすべきです。

先ほど挙げた「腰椎の不安定性を安定化させる」というのは、ショートゴールではなく、腰痛のメカニズムについての理学療法士側の仮説に過ぎません。

 

何らかの改善を示す手技が見つかったら、そこからの新たなショートゴールは何か?

今見つかった、「目の前の患者に一応は有効な手技」は、これがどの程度、この患者の実生活に良い変化を与えられるかがわかりません。

ですので、この場面ではまずは、この手技による効果がどの程度患者の生活に影響を及ぼすかを評価すべきです。

(以前の記事でも触れましたが、ここで、色々な治療をしてしまうと、最初に取り組んだ手技の効果によるものか、追加した治療によるものかの判断が難しくなるので、新たな治療は実施せずに、ここで初回の治療を終える事が望ましいと思います。)

次の来院時に、「前回の治療後からの経過はどうでしたか?」と聞きます。すると患者は「2、3日は良かったよ。」と返答したとします。

すると、ここから新たに立てられるショートゴールは、

  1. この2、3日の改善をもっと長く、できれば永続的な変化に変えられるように、治療効果を拡大していく事と、
  2. この治療による効果がどの時点でストップするかを把握する事

この2つになります。

1については、前回用いた手技をどうすれば、さらに効果を示す事ができるかを考えています。前回行った治療をヒントにさらなる発展を求めている状態です。

2については、この治療を諦める時がいつかを判断しようとしています。

この2つは、見方が異なるだけで、同じ事を考えていると言ってもいいと思います。

前回用いた手技を、繰り返し継続する事により、治療効果が拡大する場合は余計な事をせずにその治療を継続させていけばいいですし、

もし、ある程度の効果を示した後に、そこからの改善が見られなくなる様なら、この手技で解決できるものは解決していると判断する事ができます。

ここで判断したい事は、「とりあえず、今目の前にいる患者にはベター」といえる方法を、いつまで継続すべきか、どこで終了すべきかを見極めようとしています。

もし、改善が停滞しているなら、
手技の強度を変える
手技そのものを変える
追加の手技を加える

など、新たにとるべき行動がある事を教えてくれます。「このまま継続しても、その行動はファイナルゴールに向かっているものではないですよ」という事を理学療法士が知る事が出来ます。
例えば、

2、3日は良くて、その後は元の状態に完全に戻っているという状況なら、

  • 2、3日の効果そのものが更に良い変化になるか
  • 2、3日という期間が長くなるか
  • 完全に戻るという状態が、ほんの少しでも蓄積している状態になれるか

を知る事で、「今進んでいる方向性は確からしそう」という事が言えますし、それを達成できていないなら、行動に変化を起こすべき分岐点である事を理学療法士自身が把握する事が出来ます。

 

だいぶ良くなってきて、「時々痛むんだよね」、「まだ完全ぢゃないんだよね」というところまで来たとします。

そこからのショートゴールを立てる際の考え方は先ほどと同じですが、

こういったやりとりは非常に曖昧になりやすく、またその痛み自体が治療すべきものかさえも分かりにくくなります。

なので、可能な限り、患者が話す内容を理学療法士側の勝手な解釈が入らないようにしっかりとした問診(コミュニケーション)を通して聞かなければなりません。

例えば、

「時々痛む」と患者が話した場合

  • その時々とは、1日の中で時々ですか?
  • それとも、一週間のうちで時々ですか?

と聞いて、どういった枠組みの中で時々という言葉を使用しているのかを把握しなければいけません。

仮に「一週間の中で時々だよ」と返答があったとします。

すると、

  • では、一週間のうち時々という事は、痛くない日もあるという事ですか?
  • 一週間のうち時々というのは、痛む方が多いですか?それとも痛まない日の方が多いですか?

(返答に疲れていそうな雰囲気を感じれば、「なんとなくで良いですよ。」「感覚的にでいいですよ。」というように患者が返答しやすいように保護するための追加の働きかけを行います。)

治療がある程度進んでくると、このような「細かいと思われるかもしれないけど、理学療法士側の勝手な解釈ができるだけ入らないような」明確な情報収集を行わなければ、現状を把握できなくなってしまいます。

ある程度改善はしているけど、そこから「時々痛むねー」「まだ少し痛むねー」というやりとりに終始して、前へ進んでいるのかわからない、もしくは治療が停滞しているかさえわからない、という状態に陥っている場合は、

  • ショートゴールの立て方が臨床の現象を対象にしていないか、
  • 患者とのやりとりに明確さがないかのどちらかが多いかと思います。

前へ進んでいない事をしっかり把握できれば、そこからさらに何かをしなければいけないのか(例えば、その効果を持続させるためのセルフエクササイズを取り入れるかなど)、

それとも、完全に痛みをゼロにするという無謀な戦いに挑んでしまっているのか(この点については過去記事で解説しています。)、

を判断する事はできなくなってしまいます。

場合によっては、患者自身はもう問題になるような痛みはなくなっているけど、治療関係を築きあげてきた事によって、なんとなく治療に通い続けている場合もあります。

この時に、

「その”時々”感じるという腰痛は、病院に通ってまで治療すべき腰痛だと思いますか?」

と聞いてみると、

「もう大丈夫だね。また何かあった時に病院に来る事にしようかな。」

となる場合もあります。この質問をもしできていなかったら、そこから先の行動の全ては必要以上の介入を行ってしまっていて、既にゴールを踏み越えて別の違う所に向かっている可能性があります。

(失礼な質問内容に聞こえるかもしれませんが、この質問を理学療法士側ができない、もしくは患者が不愉快になるという場合は、患者と理学療法士の治療関係は、適切な治療関係を築けていないと思っています。)

 

十分に良くなったが、まだ治療に通っていたいという状況の場合

十分に良くなった(生活上何ら問題ない)けど、治療を終了する事に不安を感じている場合に考えられるショートゴールを考えてみます。

先ほどの例で、考えてみます。

「その”時々”感じるという腰痛は、病院に通ってまで治療すべき腰痛だと思いますか?」

と聞いてみると、

「もう大丈夫だけど、でもまだ治療は続けたいです。」

このような状況です。(先ほどの場合は、患者自身で治療終結へ向かいましたが、今目の前にいる患者は、そうではなさそうです。)

それ以降の実際のやり取りは単純ではありませんが、部分的に抽出して記載します。

「今、この "病院に通ってまで治療するほどの痛みはない" という良い状態が、これから先も続くと思えれば、その不安は感じなくなりそうですか?」

(「はい」と返事をしたとします。)

「ではもうしばらく治療を続けながら、 "もう病院に頼らなくてもいいんだ" と○○さん自身が感じる事ができるようになれるよう一緒に取り組んでいきましょうか?」

と話す事ができます。

ここであげるべきショートゴールは、痛みを感じなくなる事ではなく、不安を感じなくなる事を提案すべきだと思います。

ここからの患者と理学療法士のやりとりは、

「どうですか?以前に感じていた不安はどの程度小さくなっていますか?」というような感じで、不安の増減や変化について取り組む事が出来ます。

ここをおろそかにすると、患者は不安を感じていて病院に通い続けている状態を、理学療法士は、まだ治療すべき身体症状があると勘違いしてしまい、その先もずっとすれ違ったやりとりをし続ける事になります。

これでは、冒頭であげたファイナルゴールである「痛みに悩まされずにもとの生活を送れる状態に戻る事」と「その腰痛を自己管理できるように」という当初向かっていたはずの方向とは違う方向へと道が逸れていってしまいます。

 

ショートゴールは常に、臨床で起こりうる事で、なおかつ理学療法士と患者が共有できるものでなけらばいけません。

ショートゴールは「向かおうとしている方向に、しっかりと歩んでいるか」を判断できる指標である必要があります。

しっかりとしたショートゴールを立てるためには、その視点を持つ事と、それを達成するために適切なコミュニケーションをとれる事、また質問の仕方や使用する言葉は相手の解釈の仕方を優先にしたナラティブを考慮に入れれるかが肝心になってくると思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

次のシリーズは。。。

クリニカルリーズニングシリーズ6

クリニカルリーズニングシリーズ6
「セルフエクササイズと、その移行方法について」

内容
本シリーズでは、患者自身で症状のコントロールができるようになる事を、治療目標の1つとして、セルフエクササイズ(ホームエクササイズ)の意義や価値、実際に患者に指導する際のコツなどを解説しています。

理学療法士の手を借りずに自宅で自身の症状をコントロールできるようになると、必要以上に痛みに恐れる必要はなくなります。予防目的でのホームエクササイズも重要ですが、急に(以前あったような)痛みが出現した時の対処法という意味合いでのホームエクササイズも重要です。

痛みを抱えた患者が、仕事復帰・社会復帰する際に重要になってくるのは、後者の方の「急に(以前あったような)痛みが出現した時の対処法」だと考えています。患者自身で痛くなった時の対処法を理解して、「もし痛くなったとしても大丈夫」という自信(セルフエフィカシーと言います)を高める事に貢献できると思います。

この自身でコントロールできるという自信(セルフエフィカシーが高い状態)を持つには、方法を教えるだけではなく、継続できるようになるための関わりが必要になります。

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