このシリーズは、学生向け、もしくは実習指導経験の浅い理学療法士向けに、クリニカルリーズニングシリーズと並行して作成しています。
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理学療法学生のレポートやレジュメに関する注意点
この記事では、一つの記事のテーマとするほどの事では無いけれど、「ほとんどの学生が同じような事でバイザーに指摘を受ける」という実習中に言われて初めて気付くような事に関して書いていきます。
- レポートやレジュメで表を載せる時の右と左について
- レジュメでの「全体像」で書く内容について
- レポートとレジュメの違い(2016/2/19追記)
- レジュメタイトルのつけ方(2016/2/19追記)
1.レポートやレジュメで表を載せる時の右と左について
基本的に紙面上や画面上で身体の左右を表現する際は、向かって左が右半身で、右が左半身となります。
ボディチャート(身体図)を書いてみるとわかるのですが、この身体図の右手は、それを見ている人から左側にあります。
ボディチャートを書いた人と、そのボディチャートが向い合っている状態です。
それをイメージすると分かりやすいと思うのですが、表についての左右表記も同様です。MMT(徒手筋力検査) 肩外転 4/5と記載がある場合は、右肩の外転筋力がMMT4という事になります。MRI画像やレントゲン画像も同様です。向かって左にあるのが身体の右側になります。
もし、何かしらの理由があれば、逆の記載をしても構わないかもしれませんが、この場合は、それを見ている人からすると非常に分かりずらくなってしまうので、それでも逆にする必要があるのかを充分に考えて記載して下さい。
学生が用いる検査表(たしか関節可動域検査用)で、データとして出回っているものだと思いますが、このミスを犯しているものがありました。向かって左側に左側(身体の)の検査データを記載するようなフォームになっていたのですが、それを使っていた学生は、検査をしながら表に入力する際に左右を間違えて記載し、後で修正するような形をとっていました。これは無意識のうちに表の左側に対応するのが身体の右側という事を理解していたからかもしれません。
最終的に間違わなければ良いとは思いますが、とても非効率的ですので、特別なこだわりがなければ、そういった入力フォームになっている検査記録用紙をお使いの学生は変更する事をお勧めします。
レポートやレジュメに記載する際も見直してみて下さい。
2.レジュメでの「全体像」で書く内容について
「明るく元気にPTSに接してくれる。検査にも協力的である。」
このような趣旨の内容を非常に多く見ます。
この記載に意味があるのは、例えば末期のガン患者で、余命1週間と言われている患者なら、この記載は大変意味のあるものです。
何故なら、明るく検査に協力なんてしてくれるはずがないだろうと、周りのPTが思ってしまう健康状態の患者だからです。
基本的に学生にみせる患者は、みな学生にみせても大丈夫とPTが思っている患者です。なので上記のような記載は、書かなくてもわかります。
発表でそれを聴くPTや、提出物を受け取るPTが全体像で何を知りたいかを言うと、この症例がどういう状態にある人なのか、年齢や疾患などの基本情報や医学的情報からはイメージできない患者の様子や状態について、それ以降に目を通す事になる検査データの前に知っておきたいのです。
歩ける人なのか、寝たきり状態の人なのかをわからないのに、理学療法学生評価の最初にADL検査が突如出てきたら、この急展開にPTはついていけません。
ADL検査ならまだしも、急に関節可動域検査や徒手筋力検査が出てきてしまったら、もうどこに目を向ければいいのかわからなくなります。
ですので、レジュメを見た人が、この症例をイメージできる全体像を載せておく必要があるのです。
「リハビリ室には独歩で来室する。歩行は可能だが、跛行がみられ、歩き辛そうにしている。」
この記載がされていれば、それを聞いた人は、「歩行の状態をもっと詳しく知りたいな」と思い、歩行観察・分析の所に目を通すでしょう。「歩き辛そうにしているのは、痛みのせいかな?」となれば疼痛検査の項に目を通してくれるかもしれません。
1番最初に記載したのが、歩行観察・分析であっても、疼痛検査であっても、PTはこの検査項目の記載の流れに戸惑う事なく、その検査記録に目を通す事ができます。
もし、「明るく元気にPTSに接してくれる。検査にも協力的である。」の後に、急に歩行観察・分析の記載があると、それを見た(聴いた)PTは、この時にやっと、「この人は歩ける人なんだ…」という事になります。
しかし、先の例に挙げた記載をしていれば、「跛行はどういった状態なのか?」という疑問を持ちながら、読み進めるため、聞いている側の混乱が避けられると同時に、発表自体も非常に理解しやすいものとなります。
全体像を載せる際は、その症例を知らない人でも、「その症例の運動や活動に関する事を大まかにイメージできるか」という事を良く考えて記載してみると良いと思います。
3.レポートとレジュメの違い
レポートの短縮版がレジュメだと思っている学生は多いようです。
レジュメはレポートの短縮版ではありません。まったく別の物とまでは言いませんが、レジュメで伝えようとしている事はレポートの極一部です。まんべんなく掻い摘んだものではなく、一部に特化した内容となってなくてはなりません。
色々な生活障害抱え、個人因子や環境因子にも色々な特徴があり、そして、これから先どうしていきたいかという患者本人の意向も人それぞれで、その全てを可能な限り整理したのがレポートだとします。
レジュメはその極一部のみを伝えようとしています。レポートだと多くの事を書く必要がありますが、レジュメでは必要最低限の記載となるはずです。
では、「何について書けばいいのか?」という事になるかと思うのですが、それは症例と学生が取り組んできた幾つかの事の中から、学生自身が伝えたいものでいいと思います。
例えば、症例にとって早く歩く事が重要というのであれば、「何故早く歩けない状態なのか」について書いていき、載せる検査項目も、「早く歩けない」という状態を表すものと、そうなっている原因に関わりそうなものを載せます。
「早く歩けない」という事以外にも、多くの事に取り組んで来たと思いますが、レジュメでは、幾つかの取り組みの中から、特に重要と思われるものや、拘って取り組んできたものに特化した発表をするために、その内容に適した検査項目を載せます。
レジュメで発表するのは、ショートリーズニングと呼ばれるものです。
「何故歩く時に介助が必要なのか、介助を必要とせず歩けるようになるにはどうしたらいいか?」
「膝の痛みのせいで歩けなくなっている。膝の痛みは何が原因で、どうすれば痛みなく歩けるようになるのか?」
こういった、限局した疑問に対する、自身の取り組み(思考過程)を発表するのがレジュメによる発表です。
ちなみに、担当を持たずに実習を進めるクリニカルクラークシップは、このショートリーズニングを繰り返す実習スタイルだと思いますので、レポートがなくてもレジュメ発表は全ての学生が行うべき課題だと思っています。(ここは個人的意見です。)
4.レジュメタイトルのつけ方
レジュメを使用して発表する時に1番最初にくるのがタイトルなのですが、このタイトルは非常に重要です。
典型的な例としては、
「変形性膝関節症を呈した症例」
というタイトルの付け方です。このタイトルの付け方だと、これから先に説明する内容がピンと来ません。
実習中に見学していても、わかると思うのですが、変形性膝関節症の患者でも、痛がる人もいれば、痛がらない人もいます。歩くのがやっと、という方もいれば、何ともないような方もいます。中には、変形していない側の下肢や腰部の痛みを訴える方もいます。症状は色々です。
同じく、生活障害も人それぞれです。リハビリに通っている理由も人それぞれです。共通している事と言えば、主治医に変形性膝関節症と診断された事くらいかもしれません。
そして、何より、私たちリハビリスタッフが見るのは、変形した膝ではありません。実際に、治療として変形した膝そのものを治そうとしていたでしょうか?
リハビリが見ていくのは、基本的にはその人の生活のはずです。ですので、「変形性膝関節症を呈した症例」というタイトルは、今から発表しようとしている内容を表すタイトルにはなっていないはずです。
例で変形性膝関節症とあげましたが、腰部椎間板ヘルニアだろうが、どの疾患に関しても基本的には同じです。
レポートとレジュメの違いで説明した事と、重なりますが、レジュメ発表は、ショートリーズニングの発表です。何かしらの疑問・問題について取り組んだ事があるはずですので、その疑問をみんなにも持たせられるようにタイトルを書くのが理想的だと思います。
「膝痛により歩行速度の低下がみられ、屋外歩行時に見守りを必要とする症例」
このタイトルから分かる事は、「症例は膝に痛みを抱えており、歩く事はできるが早くは歩けない。それにより、屋外を歩く際には付き添いを必要としてしまっている。」という事をイメージできます。
すると、「膝の痛みはどこからだろう」「どれくらいの歩行速度なのか」「常に付き添いは付けるのか」「歩行速度を上げるには、痛みをとる以外にできる事はないか」挙げたらキリがありませんが、このタイトルを見た理学療法士はこのように疑問を持つはずです。
先ほどの「変形性膝関節症を呈した症例」より、ショートリーズニングの方向性が分かる内容になっている事がご理解頂けるでしょうか。
ただし、この「限局したテーマ」にした理由は聞かれると思いますので、「何故そこに取り組む必要があったのか」については、学生自身で整理できている必要がありますので、何をテーマにすべきかは良く考えて決めて下さい。
実習関連シリーズを読むにあたっての注意点
このシリーズに記載されている事は、極一般的で基本的な事のつもりで記載していますが、施設やバイザーによって考え方も指導方法も大きく異なります。また、地域や時代によっても違いますので、その点については十分に注意して下さい。
実習においては、すべては担当する指導者に従って下さい。また、こちらで書かれている事が確かな情報である保証は何もありませんので、担当指導者や幾つかの資料、学校の先生にも聞いたりしながら、たった一つの情報源を唯一の根拠としないように気をつけて下さい。