理学療法実習シリーズ

トップダウンとボトムアップとは? (検査・評価、実習関連シリーズ)

更新日:

「実習関連シリーズ」の記事です。
このシリーズは、学生向け、もしくは実習指導経験の浅い理学療法士向けに、クリニカルリーズニングシリーズと並行して作成しています。
クリニカルリーズニングシリーズはこちらから。

検査項目の設定時に、バイザーから「ボトムアップでいくか」とか、「臨床ではトップダウンだよ」というような事を言われた学生はいないでしょうか?

本来はビジネスの世界で使用される言葉であり、ある会社の意思決定を行う仕組みを表すものです。
しかし、理学療法士の世界では、評価の組み立て方を表現する用語のように使われています。

このボトムアップとトップダウンという言葉を理学療法士が検査項目を設定する際に、最初に使用した方がどなたかはわかりませんし、どのような意図で用いたかもわかりませんが、いま理学療法士が使用するボトムアップとトップダウンという用語は、本来の意味から少し違う形で使用されています。

 


トップダウンとは、組織のリーダーが、部下の行動を指示する事を指し、ボトムアップは部下からの現場の意見がリーダーに上がってくる事を指します。

リーダーの存在を軸に置いて、そこから下(リーダーがコントロールできる領域)に指示を出し、その指示を出した所から意見が上がってくる組織の動きを説明する言葉です。

トップダウンは当たり前で、ボトムアップでいかに現場の声を会社の方針に反映させるかで、その組織の良し悪しが決まります。

この現場の声の中から不平や不満といった事に左右されず、優れた意見を抽出する能力がリーダーにあるかが、このボトムアップの質を左右します。

トップダウンだけというのは、現場の声を無視し会社の方針だけで、組織の行動が決定されてしまいますし、ボトムアップで1人1人の意見を全部聞き入れてしまっていては、その組織はがんじがらめになって行動には移せなくなってしまいます。

リーダーを軸に考え、トップダウンで方針を示し、ボトムアップで優れた意見を抽出したうえで、その組織の行動を決定する事が、トップダウンとボトムアップのバランスが取れている会社となります。

現状での、リハビリ(理学療法士だけかはわかりませんが、)業界の中でこの用語を使用する場合、「何も考えず、手当たり次第に学校で習った検査を行うこと」や、「動作ではなく検査から仮説を組み立てる」というような事を説明する用語になってしまっている場合が多いように感じます。

学生が行うのはボトムアップで、理学療法士が行うのがトップダウンという言い方をするセラピストもいましたが、本来の意味からはズレが生じます。

トップダウンとボトムアップというのは常に共存するものです。そのバランスの取り方や質に、各セラピストで違いがあるだけで、この二つは選択するものではなく共存するものです。

理学療法士が検査をしようとしてとった行動は、全てトップダウンです。

検査というのは、何かを知ろうとした時に、それを確認するための手法です。
「その何か」に対して適切に検査項目を立てられている場合は、質の良いトップダウンが行えている状態と言えます。

手当たり次第に検査をするというのは、リーズニングのない行動であって、非常に質の悪いトップダウンという事になります。

ある会社が、売り上げを伸ばすために何かしらの行動をとろうとした時、その取る行動があらゆる視点から吟味されたものであるなら質の良いトップダウンですが、何も考えずに、商品の価格を大幅に下げて、広告のチラシを顧客がいる地域ではなく、日本全国に配ってしまったら、売り上げを伸ばす為の行動としては、とても無駄が多い(リスクも高い)行動といえ、質の悪いトップダウンと言えます。

次は、ボトムアップについての解説です。

では、ボトムアップを理学療法士のクリニカルリーズニングが行われる領域で考えた場合、何かを知ろうとして行った検査の際に本来求めていた情報以外の情報が得られる場合があります。

本来求めていた情報以外の情報に気づけるかは、理学療法士の力量が問われる場面です。よく、「理学療法士の気づき」と表現されるものです。

歩行観察場面で考えた場合、
最初は、中殿筋の筋力低下がないかと、中殿筋歩行の有無をチェックしようと考えたとします。ここまではトップダウンです。

そこから、ある理学療法士は、「蹴り出しが○○だね」だとか、注目していた側とは反対側の下肢の何かしらに気づける歩行観察のスペシャリストのような先生がいます。

このような先生方は、トップダウンで「中殿筋の状態を確認する為に歩行観察を行う」という事を決定し、その検査中に、最初に求めていた情報とは別の何かに気づきが生まれたのです。

これが、「現場からの声を抽出する」というボトムアップが行われているところです。

もし、この気づきがないなら、先ほどの例え話で出した、現場の声を無視した会社という事になります。

「現場の声を無視している状態」というのは、中殿筋の状態を確認する為に歩行観察を行った結果から得られる情報が、中殿筋がどうであったかのみという事です。

最初行おうとした行動からは予期しない「現象」が起きた時に、それに気付けるかがボトムアップの能力です。

会社で考えた場合は、現場の声の中から優れたものを如何に拾い上げられるかが、リーダーとしての腕前です。ですので、「学生はボトムアップが中心」というのは、全く逆の事を言っていることになります。

ボトムアップはその領域のスペシャリストが行えるもので、その領域に達するまでは、基本的にトップダウンが中心です。そして、そのトップダウンの質自体も低いというのが、臨床推論に不慣れな学生だったり、新人理学療法士だったりするのです。

また、「重要ではない色々な現象」に目がいってしまい、最初に知りたかった中殿筋歩行の有無の確認さえ行えず、パニックになってしまう学生がいます。

とりあえずは、中殿筋歩行の有無の確認さえすればこの検査の目的は達成されるのに、そこからは違う話が始まる学生もいます。これは、下からの意見に振り回されて、本来やろうと思っていた事すらできない状態となっています。

先の例で言うなら、1人1人の意見を聞きすぎてがんじがらめになっている会社と同じ状態と言えます。

トップダウンという言葉に苦手意識を持っている学生へ

最初は、質の悪いトップダウンかもしれませんが、それを繰り返しているうちに完璧では無いにしても、少しずつトップダウンの質が上がっていくはずです。まずは、しっかり考えて「どう検査項目を設定するか」にこだわって、そして「この検査で行おうとした事」を確実に行います。その中から、何かに気づいたら「その気づきを追加の情報」として蓄積していきます。

これを繰り返している内に、トップダウンで得ようとする情報量は上がります。たまたま気づいた事が、今度は意図的にそれを確認しようとする新たなトップダウンになるからです。

そして、特定の領域にこだわって頑張っているとボトムアップでの情報収集力がついてくるはずです。
このボトムアップでの情報収集力は、何かに気づく癖をつけていき、これを繰り返しているうちに経験として蓄積されていくものだと思います。

ボトムアップとトップダウンの本来の意味からはズレて使用している事自体は、その使用の仕方はどっちでも良いのですが、クリニカルリーズニングを説明しようとした際に、本来の意味からはズレた使い方だと、説明しにくくなってしまうので、この記事を書かせて頂きました。

どのシリーズに位置付けようかと迷ったのですが、自習関連シリーズの一部としています。最後まで読んで頂きありがとうございました。


実習関連シリーズを読むにあたっての注意点

このシリーズに記載されている事は、極一般的で基本的な事のつもりで記載していますが、施設やバイザーによって考え方も指導方法も大きく異なります。また、地域や時代によっても違いますので、その点については十分に注意して下さい。

実習においては、すべては担当する指導者に従って下さい。また、こちらで書かれている事が確かな情報である保証は何もありませんので、担当指導者や幾つかの資料、学校の先生にも聞いたりしながら、たった一つの情報源を唯一の根拠としないように気をつけて下さい。

    ネット版 PT-OT勉強会

    たなはらの勉強部屋 症例報告会 プログラム

    理学療法士・作業療法士、その他セラピストを対象に行ったネットを利用した症例報告会です。
    多くの方の協力を得て、平成28年は第1回、第2回が開催されました。

     

     

    たなはらの勉強部屋を
    ご利用の皆さまへご報告

    2019年5月より、めでぃまーる.netの「リハビリのお仕事ブログ」にいくつか記事を執筆させて頂いています。

     

     

    現在、たなはらの勉強部屋(ブログ)は更新していませんが、簡単な情報発信はtwitterから行なっています。

    また、めでぃまーる.netへの記事の更新情報についても、twitterから行なっています。twitterをご利用している方は、@boooo_boo_jpをフォローして頂けると幸いです。

     

     

    記事へのコメントについて

    現在、コメントフォームを閉じています。

    既に、投稿されたコメントを閲覧する事は可能ですが、新たにコメントを投稿する事はできません。また、ブログサイトからのお問い合わせについても受け付けておりません。予めご了承ください。

     

    -理学療法実習シリーズ

    Copyright© 理学療法士ブログ , 2024 AllRights Reserved.